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セリエA 第21.5節 インテル vs ユベントス 〜互いの課題は攻撃に。

イタリアスーパーカップは延長後半の追加時間にサンチェスが劇的なゴールを決めて1-2でインテルが勝利。シモーネ・インザーギ監督にとってはうれしいインテルでの初タイトル獲得となりました。ただ、互いに現状のベストメンバーで激突すると思っていたら、リーグ戦の累積警告も絡んでくるようでデリフト、クアドラードがまさかの欠場。ベストメンバーで来たインテルに対し、ユベントスの台所事情は火の車でした。一応カップ戦なんだから、リーグ戦から切り離した方がよかったのに…。そんな試合を簡単に振り返っておきます。

ファイナルサードの守備

ユベントスの先発は、ペリン、デシーリオ、ルガーニ、キエッリーニ、サンドロ、ベルナルデスキ、ロカテッリ、ラビオ、マッケニー、クルゼフスキ、モラタ。4-4-2で守備をしつつ、クルゼフスキはブロゾビッチ番。状況に応じてロカテッリやベルナルデスキがディフェンスラインのサポートに入るように守備がデザインされていた。攻撃についてはボヌッチ、デリフトが使えず、ロカテッリ以外繋ぎ役がいないために2CB+ロカテッリでビルドアップを試みた。しかし、インテルの2トップの脇を効果的に使うことができず、ボールの前進に苦労していた。デシーリオを残して3バック化する手もあったはずだが、ベルナルデスキを自由に動かしたかったのだろう。結局のところ、インテルの守備にうまくハマってしまって攻撃は機能したとは言えなかった。

一方のインテルの先発は、ハンダノビッチ、ドンフリース、シュクリニアル、デフライ、バストーニ、ペリシッチ、ブロゾビッチ、バレッラ、チャルハノール、ラウタロ、ジェコ。5-3-2⇄3-1-4-2の可変システムで守備時は5バック、攻撃時は3-1のユニットで後方でボールを保持して押し込み、3バックのうち1枚を攻撃参加させて攻撃の人数を確保する。
ユベントスは後ろから人を前に出す形でマークにつくハイプレスを用意してきていた。そのタイプのハイプレスは、守備者にとってはマークにつくべき相手との距離が遠いため、パスカットがどうしても難しくなる。例えば、ハイプレスに出るなら左サイドのマッケニーが右CBのシュクリニアルまで出ることになるし、サンドロはWBのドンフリースまで出ることになる。マッケニーにしても、サンドロにしても、本来の守備の立ち位置からマークする選手まで20〜30mほど走ってプレスに行くことになる。前線はモラタ1人でプレスの方向づけも難しかった。自分のサイドにボールが出ることが分かってからプレスに行くことになるため、どうしてもマークにつくのが遅れてしまっていた。そしてインテルの選手たちのフィジカル能力の高さから、一度ボールを持たれると簡単に奪うことはできない。その間にスペースにボールを逃してしまえばハイプレスを掻い潜ることができる。そのままボールを運んで、インテルはユベントスを押し込むことに成功した。スタッツを見れば、ボール保持、シュート数ではインテルが圧倒している。

しかし、試合を見た限り、流れの中からのインテルの決定機はなかった。試合を通してみても、インテルの決定機は前半早い時間のセットプレーからデフライがヘディングを打った場面くらいだった。上記の通り、ユベントスはロカテッリもしくはベルナルデスキが下がって5バック化する守備を用意してきた。ナポリ戦、ローマ戦で露呈していた4バックの外から外へボールを動かされて失点するという問題への解決策を持って試合に臨んでいた。ハイプレスを剥がされても懸命に戻って時間を稼ぎ、4-4-2の守備ブロックを組んでからの守備は堅かった。ボールホルダーへのマークは怪しかったが、最終ラインの守備の人数は確保してペナルティエリア内でタイトにマークについていた。まあ、アッレグリのチームならばこれくらいの守備はできて当たり前だと思う。インテルを守備で封じ込めることに成功していた。

インテルのPKは、デシーリオが先に触っていたように思う。しかし、その前にキエッリーニとバレッラが交錯したシーンはバレッラが先に触っており、帳尻合わせでPKを取られたのかもしれない。後半、左サイドからのクロスが流れてフリーでシュートを打ったシーン、ドリブルの単騎突破からゴール正面でシュートを打ったシーンとベルナルデスキに2回決定機が来た。いずれも外してしまったが、試合内容から考えるとベルナルデスキがどちらかを決めて2-1でユベントスが勝っていてもおかしくなかった。一方のインテルは押し込むことには成功したが、ユベントスのファイナルサードの守備に絡め取られて最後の崩しはうまくいかずに手詰まり感が強かった。サンドロのプレゼントパスがなければPK戦になり、そうなるとインテルが勝てたかどうかはわからない。この試合は、1-1のままPK戦で決着が妥当だっただろうと思う。

攻撃の課題

ユベントス、インテルともに攻撃には課題を抱えている。ユベントスはこの試合ではビルドアップからうまくいかなかったが、ボヌッチ、デリフトが使えればある程度後方のボール保持は安定し、縦パスも増えてくるだろう。やはりキエッリーニとルガーニではボールを前に運ぶことは難しい…。ダニーロが戻って来れば3バック化するビルドアップも復活するはずだ。そうなれば相手のファーストプレスの枚数に合わせてユベントスのビルドアップ隊の人数を調整することもできるようになるため、後方からのボール保持、ボール運びはさらに安定するだろうと思われる。インテルも3バックとブロゾビッチがポジションを入れ替えて相手のマークを混乱させてフリーになった選手がボールを運ぶという流動性の高いビルドアップを構築しており、ビルドアップ能力は非常に高い。チャンピオンズリーグでもレアル相手に押し込むレベルの力をつけている。

しかし、両チームとも、アタッキングサードにおける崩しの部分で苦戦している。

ユベントスの課題

現状のユベントスはそもそもアッレグリがそこまで手をつけていないように思える。以前「ボールがロナウド、ディバラ、ロナウジーニョ、セードルフ、またはピルロに到着した時、私は他の選手にボールを受けられる場所にいるように指導する。ただし、彼らがボールを持っている時、彼らが決定する。これは最良の選択だ。」と話していた。一見、クオリティの高い選手任せにしているようなコメントだが、サッカーの本質はコレなのだろうと思う。プレミアのチームが魅力的で、かつ強いのはアッレグリが例に挙げたレベルのクオリティの高い選手を前線に揃えられているからだ。ポイントになるのは、「他の選手にボールを受けられる場所にいるように指導する」という点だ。つまり、クオリティの高い選手にボールを入れるまでのプラン(つまりビルドアップ)と、クオリティの高い選手にボールが入った時にその他の選手がどんなポジションをとり、どのように動くのかをデザインするのは監督の仕事だと言っている。
現状のユベントスは、前半部分のビルドアップについてはある程度構築できていると言える。しかし、アッレグリが優先順位を守備の改善の方に置いてきたため、後半部分のボールを運んだ後の攻撃のデザインまでは手がつけられていないように思える。試合によっては各選手が再現性高く適切なポジションをとって攻撃が機能していることもあった。具体的には、クアドラードとペッレグリーニが同時に起用され、かつマッケニーがいて、ロカテッリを高い位置まで押し上げられた時だ。もう少し抽象化すると、攻撃の幅を取る選手を両サイドに用意して、かつライン間を使える選手が複数いる状況を作り出せた時、ということになる。その時にはユベントスの攻撃は機能していた。ただし、現状のユベントスでは、アウトサイドレーンで力を発揮するのはクアドラードとペッレグリーニに限られる。ライン間にポジションを取り続けてくれるのはマッケニーだけ。あとはアッレグリの指導次第だと言える。
例えば、ベルナルデスキはアウトサイドレーンからでもドリブル突破やクロスで違いを生み出せる選手だと思う。左サイドに置いて幅を取るタスクを与えても十分活躍できるだけのクオリティを備えているはずの選手だ。しかし、ベルナルデスキは中に入りたがる。その日のチームの構成上、左サイドの幅を取る選手がベルナルデスキしかいないなら、アッレグリがそのタスクを与えて徹底させなければならない。「ボールがアタッキングサードに届くまでは左サイドのアウトサイドレーンから動くな。その位置にいることがチームの助けになる。その先は、自由に動いてゴールを演出してくれ。」
同じことはディバラやサンドロにも言える。ディバラはビルドアップ隊が数的優位を保っているにも関わらず、下がってボールを触りたがる。サンドロは左サイドの高い位置まで上がってくる回数があまりに少ない。「後ろの選手を信じて、ライン間にポジションを取れ。ライン間でボールを受けたら、後は君が思った通りにプレーしてくれればいい。」「攻撃時は左サイドの高い位置までポジションを上げて相手の守備ブロックを広げなければならない。」
アッレグリは選手の特徴を活かして組み合わせることでチームの力を最大化しようとするタイプの監督だ。試合に出るメンバーが変われば、選手個人のタスクも微妙に変化するだろう。試合ごとにアッレグリが攻撃時の各選手のタスクを整理して徹底させること。ユベントスの課題はここにある。

インテルの課題

インテルはまた違った課題を抱えている。インテルの攻撃は細かくデザインされ、再現性が高い。両WBが幅を取り、ジェコが最前線にポジションをとってポストプレーを狙う。ラウタロ、チャルハノール、バレッラがライン間でボールを受ける、もしくは裏へ飛び出す。さらに3バックのうち1枚が攻撃参加して攻撃に厚みを加える。昨年のコンテから同じシステムを引き継ぎ、シモーネ・インザーギ監督がさらに精度を高めている。選手一人一人のクオリティも高く、セリエAの中位以下のチームであれば大量得点も見込めるだけの分厚い攻撃を展開している。

しかし、コンテ時代より改善されたとは言え、守備のベースポジションからの上下動による攻撃であるため、守備側からしても予測可能な範囲での攻撃になってしまっている。守備側からしたらマークにつきやすいのだ。戦術ボードを想像してみてほしい。ボードにマグネットを使って互いのポジションを示した時、インテルは守備者の前にいる選手がそのまま前進して攻撃にくる。守備側のチームは各選手の前に立っているインテルの選手をマークすればいいわけで、守備者からしたらマークにつく相手に迷うことはほぼない。セリエAではインテルの選手を1vs1で抑え込んでくるディフェンダーはユベントス、ミラン、ナポリくらいにしかいない。ナポリとユベントスが低調でミランもまだ発展途上にあるため、今季は必然的にインテルがスクデット争いの最有力候補になるだろう。しかし、ユベントス相手にほとんど決定機を作れなかったことが示している通り、同等のレベルのチームに勝ち切るまでには至っていない。実際、レアル相手に押し込んだにも関わらず、得点できずに0-2で敗れている。UCLのラウンド16ではリバプールと当たることが決まっている。UCLで上位進出を狙うなら、間違いなく改善すべき点だ。

必要なのは、相手のマークを混乱させること。ビルドアップではできていることなので、アタッキングサードの崩しの場面でも流動性の高いアタックにチャレンジしてみてほしい。コンテはネガティヴトランジションでマークやポジショニングが混乱することのデメリットを重く見て、守備時のポジションからそのまま上がる攻撃を選択してきたように思う。そして、インテルもサイドの選手、中央の選手、と各ポジションで力のある選手を獲得してきた。しかし、それではヨーロッパ上位クラスのチームの守備は崩せない。Sインザーギ監督はドンフリースとバレッラを使って右サイドでポジションチェンジを取り入れてきてはいる。しかし、微調整レベルの効果に留まっており、ユベントスはマークの受け渡しで対応してしまった。現状、サイドでも中央でも質の高いプレーができそうな選手はラウタロとバレッラくらいだ。ドンフリースやペリシッチが中に入ってボールを受けても、ターンやフリックでボールを逃すプレーが出来るようには思えない。だとしたら、少なくともバレッラとラウタロにはサイドに流れるプレーとライン間でボールを受けるプレーを使い分けさせながら攻撃を展開していきたい。縦ではなく、横への動き・移動を取り入れることで相手のマークを混乱させることができる。得意のビルドアップで押し込んだ後は、横のポジションチェンジを積極的に取り入れた攻撃を構築すること。その上で守備のバランスを崩さないこと。シモーネ・インザーギ監督が指導すべき方向性はこれではないだろうか。

終わりに

今季のUCLでベスト16に残ったイタリア勢はユベントスとインテルの2チームだけだ。ユベントスはビジャレアル、インテルはリバプールと激突する。どちらのチームも難敵だが、良い内容の試合をして、できれば突破してほしい。そのためにも、ヨーロッパの舞台でも通用する攻撃を構築し、かつイタリアのアイデンティティでもある堅い守備は堅持する。とても高いハードルだとは思うが、アッレグリ、シモーネ・インザーギ両監督にはそんなチームを作ってほしい。

ナポリ、ローマ、インテルに対して先発フル出場したルガーニ。ビルドアップもそれなりにこなしていたし、ラウタロのボディフェイントを読み切ってカットするなど図太いプレーも見せるようになり、守備でも活躍していた。どちらかと言うと読みで勝負するタイプのディフェンダーとして成長しているのかもしれない。フィジカル勝負でペリシッチに振り切られたりジェコに競り負けたりしたシーンもあったが、ポジショニングや先回りでカバーできる。何より戦術的なミスがほとんどなかった点は大きい。さらに経験を積んで読みの鋭さを磨いていけば、いよいよルガーニの時代が来るかもしれない。
(それは流石に言い過ぎか…)

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