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UCL Matchday6 ユベントス vs マンC 〜モッタに名将の予感

互いに不調と言われる中でぶつかった両雄。互いに決定機を迎え、勝ちを拾ったのはユベントスの方でした。互いに難しいチーム状況で、勝敗を分けたのは負傷者の質と守備に対する意識の違いでした。

守備から入ったユベントス

ユベントスのスタメンは、ディグレゴリオ、サボーナ、ガッティ、カルル、ダニーロ、ロカテッリ、ケフラン、コンセイサオ、コープマイナース、イルディズ、ブラホビッチ。4-2-3-1をベースに、無理にハイプレスには行かずにミドルプレスをメインに守備的に戦うプランでした。特徴的だったのは、徹底してハーフスペースを埋めに行ったところです。ケフランはデブライネとデートに近い形で、ファイナルサードではゾーンディフェンスの文脈からは離れて密着マークを敢行。デブライネに自由を与えません。主にデブライネが左のハーフスペースを狙ってきていたので、ケフランが左ハーフスペースを埋める担当となっていました。右ハーフスペースはロカテッリが担当。しかし、ロカテッリは明確にマークする選手がいたわけではなく、基本はゾーンディフェンスの原則に従って味方と連動してスペースを埋めていました。そして、右のハーフスペースを使われそうになったら、ハーフスペースを狙ってくる選手へのマンマークへ移行してハーフスペースを使わせません。ロカテッリがハーフスペースを埋めに行った時にはコープマイナースが下がって守備ラインの前をプロテクト。本来ならロカテッリがカバーしている役割を一時的にコープマイナースへと受け渡す形です。コープマイナースの戦術理解の高さが可能にさせる臨機応変な守備の形です。敢えて言えば、昨季のマドリーがシティ相手に見せたアメーバのような守備を、ケフランにデブライネへのマンマークというタスクを与えることでシステマティックに行ったと表現できるでしょう。クロースが巧みなポジショニングでデブライネを消し続けたことをケフランのマンマークで実現し、ロカテッリとコープマイナースの戦術理解でバイタルエリアともう片方のハーフスペースを閉め続ける。前半最後の決定機はケフランがデブライネを離してしまったことが原因でした。ディグレゴリオのスーパーセーブがなければ失点していたでしょう。ただ、それ以外ではほとんどシティに決定機を与えることはありませんでした。ユベントスの守備は、ほぼ狙い通りにシティの攻撃を抑え込むことに成功していたと言えるでしょう。

ボールを持たされたシティ

シティのスタメンは、エデルソン、ウォーカー、ディアス、グバルディオル、リコ・ルイス、ギュンドアン、デブライネ、グリーリッシュ、ベルナルド・シルバ、ハーランド、ドク。守備時は左SBにリコ・ルイスが入って、4バックで守っていましたが、攻撃時にはリコ・ルイスがCHの位置まで移動する、いわゆる偽SBを採用していました。上記の通りもともとユベントスがシティにボール保持を譲るつもりだったため、シティのボール保持は安定しており、シティがユベントス陣内に押し込んでプレーする展開が続きました。しかし、ボール保持はできるものの、ハーフスペースへ走り込む選手にはマークをつけられ、サイドではダニーロとサボーナの守備の前にウイングは沈黙。結局、テュラムがデ・ブライネを離してくれた前半最後の決定機以外はうまくユベントスに守られてしまいました。ユベントスとしては守備を崩されているという感覚はなかったと思います。シティはユベントスにボールを持たされていたと言えるのかもしれません。

シティのネガティヴ・トランジションが心配

ユベントスの1点目については、ユルディズのクロスを褒めた方がいいのかもしれませんが、エデルソンは止められたかもしれません。ただ、2点目は防げたはずです。ダニーロがドクからボールを奪ってから、再びボールを受けてワンタッチでマッケニーに届けたところまでは仕方ないと思います。その後、マッケニーがウェアに展開してボレーを撃つまでの間に、ギュンドアンとウォーカーはペナルティエリア内まで戻れたのではないでしょうか。ブラホビッチにはマークがついていたので、ギュンドアンとウォーカーが戻り切れていればマッケニーの得点は防げたはずです。試合終盤でスプリントする力が残っていなかったのかもしれませんが、決定的な2点目を阻止することはこのゲームの中では非常に重要だったと思います。おそらく、ロドリがいればマッケニーがあれだけフリーにはならなかったのではないでしょうか。ロドリの不在の影響は大きく、コープマイナースが間に合ったユベントスはラッキーだったと言えるでしょう。

シティの攻撃自体は機能していますし、相手が対策をしてきても100%シティの攻撃を抑え込むことは難しいでしょう。実際、シティ対策で特殊な守備を用意してきたユベントスもハーランドに決定機を与えています。不用意な失点を減らすことで不調から脱する可能性もあるでしょう。守備陣形を崩して攻撃に出ているので、相手のカウンターは十分に対策を打っておかなければいけません。ネガティヴ・トランジションの原則はチームによって異なりますが、シティの場合はおそらく即時奪回でしょう。ただし、今回はアイソレーションでダニーロと1on1をしていたドクの失い方が悪く、ダニーロに入れ替わられる形になっていて即時奪回は難しかったと思います。ダニーロとユルディズへプレスに行ったのはなるべく早くボールを奪回するためだったはずですが、少なくともマッケニーへボールを出された時点でリトリートに切り替えて帰陣して守備の人数を確保するために動くべきだったでしょう。交代で出てきたマッケニーのフィジカルと先発で出ていたギュンドアン、ウォーカーのスタミナを考慮すれば、2人がスプリントをかけるのは中々苦しかったのかもしれません。しかし、戻り切れないまでもなんとか追いすがる姿勢は見せて欲しかったと思います。

モッタに名将の予感

ともあれ、シティの攻撃を計画的な守備で封じ込め、見事なカウンター2発で沈めてみせたユベントス。注目すべきは、テュラムをデ・ブライネにマンマークにつかせたことです。そのために守備陣形が崩れるリスクを負い、ロカテッリとコープマイナース、ユルディズの守備における戦術理解でカバーするプランはお見事でした。相手に合わせて対策を講じて試合を優位に進める。追いかける立場になったユベントスがヨーロッパやセリエAで勝つには必要な資質だと思います。選手の質、量ともにトップではなくなってしまったユベントスが格上のクラブに勝つには戦術で上回るほかありません。前任のアッレグリはコレが得意な監督でした。アッレグリを名将たらしめていたのは戦術で相手を絡め取り、強豪と対等に渡り合って勝利という結果をチームにもたらしてきたからです。そして、モッタもシティを相手に戦術でチームを勝たせてみせました。モッタもアッレグリ的な資質を持っているのかもしれません。

モッタはどちらかと言えばグアルディオラのような監督で、頭の中にチームの完成型があるタイプだと思っています。本質的には「監督を勝たせてくれるのは選手なんだよ」と言い切り、選手に合わせてチームを組み替えるアッレグリとは異なるタイプでしょう。しかし、相手に合わせる術も考えも持っているということは、理想のチームを作り上げるだけでなく、必要な時には結果のために「悪いプレー」もやってのける気概があるということです。モッタは理想主義的な部分と現実主義的な部分が混在しているように見えます。基本的には理想主義者なのでしょうが、現実的な選択をとることもできる監督なのかもしれません。だとしたら、ボール保持とハイプレスをベースとしたモダンフットボールの文脈に沿ったチームを作り上げることを基本として、トーナメントや大一番では対策を講じて相手を絡め取って結果を追求するという采配が見られるかもしれません。チームの成長と結果を両立する。新たな名将が生まれるかもしれません。


【番外編】コンセイサオの課題

ユベントスの1点目のシーン。ガッティのインターセプトからコンセイサオが右サイドを駆け上がったところで、シティの守備は帰陣しきれておらずペナルティエリア内でもブラホビッチ、攻め上がったガッティには大きなスペースが残されていました。その時点でクロスを上げてもよかったと思います。もちろん、マークの位置や距離を考慮してボールを守ったのだと思いますが、あのままキープしていてもシティの選手が次々と帰陣してチャンスにはならなかったでしょう。コンセイサオからボールを引き取ったロカテッリはすかさずクロスを入れています。ロカテッリにはペナルティエリア内にブラホビッチとガッティという空中戦に強い選手がいて、なおかつ未だスペースが状況がチャンスと見えていたはずです。

認知と判断

ボールを扱う技術に疑いはなく、ドリブルは一級品です。低い姿勢から積極的に仕掛けるドリブルは相手にとって脅威となっています。ここに的確な認知と判断が備われば鬼に金棒。より危険なウインガーへと変貌していくことでしょう。

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