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UCL Match day 4 リール vs ユベントス
リールとの一戦は1-1のドロー。勝ち点3を積み上げることはできませんでしたが、モッタはリールを相手に色々と試していたように思います。
vs 4-4-2②
リールは4-4-2をベースに、守備をしてきました。積極的にハイプレスにも出てきて、あわよくばユベントス陣内でボールを奪ってカウンターを仕掛けようという姿勢も見られました。
ユベントスはUCLの2節で同じく4-4-2をベースに守備をするライプツィヒを相手にボール保持で上回っていました。その時は4バックと3CHでビルドアップを試み、ハイプレスに出てくるライプツィヒの前6人の真ん中でフリーになったファジョーリを使って前進するというスタイルでした。ピッチ幅を広く使い、ボールホルダーがマーカーを引きつけている間にファジョーリがパスラインを作ってボールを引き取る。ファジョーリのクイックネスとスピード、テクニックをフル活用したビルドアップでした。
リール戦ではファジョーリではなくロカテッリを起用。ロカテッリはファジョーリほどのクイックネスとスピードはありません。どちらかというと前もってポジションを整えておくことで相手のスピードに対抗するタイプの選手です。例えば、CBのポジションまで下りて、相手のFWやCHにどこまでマークについてくるか駆け引きを仕掛けていくようなプレーを得意としています。シュトゥットガルト戦でロカテッリが出場して以降のビルドアップはこのパターンで、苦しめられていたシュトゥットガルトのハイプレスをいなしてユベントスが押し込むことに成功していました。しかし、リール戦ではロカテッリはCBの位置まで下がることはほとんどなく、2トップでハイプレスに来る相手に対して後方で数的優位を取りに行こうとはしませんでした。
つまり、ライプツィヒ戦、シュトゥットガルト戦で見せたスタイルのビルドアップはいずれも敢えて捨てて、新たなスタイルのビルドアップにトライするということです。
新たなビルドアップ
さて、新しいスタイルのビルドアップとはどのようなものだったのでしょうか?
ピッチで起きていた現象から推察すると、テュラムもしくはコープマイナースをサイドでフリーにするパターンを試していたのではないかと思います。左サイドでは、ユルディズが高い位置でサイドに張り出し、4バックの形を維持して後方でボールを保持していました。リールの右ウイングのジェグロバはカパルに食いついてきましたし、右SBはユルディズを警戒していました。その間にテュラムが現れてボールを引き取り、相手のSBとウイングの間でフリーでボールを持つ。テュラムを起点にしてそのまま左サイドを攻略するか、左サイドに人を集めて逆サイドに振ってコンセイサオのドリブル突破の機会を作るか。右サイドも同様で、リールのウイングとSBの間でCHをフリーにする配置とボールの動きを何度も目にしました。
モッタのチーム作り
さて、試合はというと、ハイプレスに出たところでカバルのプレスをジェグロバのフィジカルとスピードで外され、擬似的なカウンターを喰らって失点。ユベントスは上記のメカニズムでボールを支配して攻撃を仕掛けますが、得点には至らず。後半、セットプレーのカウンターからコンセイサオがPKを獲得して追いついたものの押し込んだ展開から得点することはできませんでした。
リールのジェグロバはカバルとカンビアーゾをドリブルで振り回して何度となくチャンスを演出していました。カバルのプレスをモノともしないフィジカル、細かなタッチのドリブル、カンビアーゾを置いていくスピード。早ければこの冬、ビッグクラブへ移籍しても不思議はないクオリティの選手だと思いました。
さて、ユベントスの話です。前節に続き、勝ち点3を得られなかったユベントスですが、試合を見ていて疑問に思った点があります。
なぜ、ロカテッリをCBの位置まで下げないのか。
シュトゥットガルト戦でロカテッリが出てから、あれだけ苦戦していたシュトゥットガルトのハイプレスを止めることができました。それはロカテッリがCBの位置まで下がってシュトゥットガルトの2トップに対して3vs2の数的優位を作り出したからです。ファーストプレスが機能しない以上、ハイプレスの勢いは弱まります。リールの守備のベースフォーメーションもシュトゥットガルトと同じく4-4-2。ロカテッリをCBの位置まで下げていれば、敵陣に押し込んでプレーする時間をさらに増やすことができたかもしれません。少なくとも、リールのハイプレスにハマってGKまで下げなければいけないシーンは減っていたはずです。そして、シュトゥットガルト戦で証明した通り、ロカテッリはポジショニングで相手と駆け引きができる選手です。それでもCBの位置まで下がらなかったということは、モッタの指示があったと考えるのが妥当でしょう。
では、何のために?
相手のハイプレスにハマるかもしれないリスクを負ってまで、モッタは何を狙っていたのか。推察するに、チームに(選手に)ビルドアップの形を植え付けようとしているのではないかと思います。ファジョーリ(フリーマン)を使うパターン、3バック化するパターン、CHをサイドでフリーにするパターン…様々なシチュエーションと解決策を、実戦の場で体験させることによって選手たちの戦術メモリーを蓄積しようとしているのではないでしょうか。そして、最終的には選手たちが相手の出方をピッチ内で観察し、分析し、判断して最適なビルドアップを選択できるように。そのためには、それぞれのビルドアップの方法のメカニズムはもちろん、その時に生じるリスクや相手の対応などを経験し、リスク・リターンの収支や有効な状況などを学んでいく必要があります。これらは、公式戦という実戦の場でこそ、学び取れることでしょう。さらに、ビルドアップの先のフィニッシュまで繋げていくためには、何度も繰り返してそれぞれのビルドアップのメカニズムを試行してその先の局面を見据える場面を経験していかなければいけません。
モッタ監督は、選手たちがピッチ内で決断するための引き出しを増やそうとしているように見えます。そのために試合を練習のように使っているのではないでしょうか。週2試合のスケジュールでは、チームの練習とはいえコンディション調整に重点を置かなければいけなくなると思います。ましてやこれだけケガ人を抱えてしまえば練習の強度も上がらないでしょう。公式戦とはいえ、序盤の試合をある意味で先行投資として「捨てる」決断をしているようにも思います。
おそらく、モッタ監督の頭の中にはチームの完成予想図がすでにあり、そのためのレッスンを履修させて行っているような感覚なのではないでしょうか。トレーニングだけでなく、実戦経験の中で学べることを学び、チームの完成に近づいていくのでしょう。そのためには、シーズン序盤はうまくいかないこともある。その中で一度しか負けていないということは上出来なのではないでしょうか。まあ、もともと過渡期にあり、長い目で見なければいけない時期であることは間違いありません。モッタのユベントスを、気長に、長期的な視点で観察していきます。