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「フリックスター」


©️billy


月の裏側、星を見ていた、
絶える間近のイヌの死骸を、ついばむ鳥の嘴は、
艶やかにも赤だった、黒に見紛うほどに赤くて、
垂れた雫が十字描いた、だけどそいつは不味いらしくて、
這い回るアリたちに、まるごと全部くれてやるって、

白から始まるすべての色を、
五十音順、並べた花のグラデーション、
尽きるころには星を一周、それからまた始まる白と、
ひとひらずつ踏みつける、律儀で優しさなんて忘れた、
今は農夫の宇宙飛行士、名前はミスター・フリックスター、
「誰も彼も見返りばかり欲しがっていた、
一言くらい、マシなことを言ってみろ」って、
左側の上下のふたつ、犬歯を見せて作り笑いを浮かべてた、
ライフル構えて引き鉄には爪のない指、

ドブネズミが朝からワインをラッパ飲み、
あちらこちら欠けていた、それから灰に薄汚れ、
だけどそいつはヒトだった、
睨んでいるフリックスター、ヒトもネズミも大差はないと、
月まで来てお喋りな、群れなすヒト科をまとめて殺す、
シナリオ、アタマに描いてた、

飛び方なんて忘れちまった蝙蝠たちが息を潜める夜の森にて彼はいま、
風にはためく前世紀の空想フィルムに焼き付く月がなぜに赤いか知りたいなんて思いもしない、
原野に還る荒れた農地に種を齧るウサギたち、そこから咲くはず花の色ならすべて見てきたフリックスター、
「そいつはそもそも君らのものだ」と、浮かべた貌は満ち足りた、
星に願った少年期の微笑みだった、





artwork and words by billy.

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