リンゴジャーニー Vol.0
はじめに
美空ひばりさんの『リンゴ追分』がさまざまなアーティストにカヴァーされているのはご存知でしょうか。その中でもThe Skatalitesバージョン、更にそれをカヴァーしたThe Trojansバージョンの「Ringo」が特に人気で、さまざまなDJがプレイし聴き継がれている。
なぜ今『リンゴ追分』なの?って、ことを簡単に書いておこう。
フジロックの夜中にだけ現れる『CRYSTAL PALACE TENT』。
ここはいつだって、音楽とアルコール、雰囲気。それら全てがいい塩梅の、夢のような現実空間だ。
初めて『Ringo』を聴いて「なんじゃこりゃ!?」となった場所は、このパレス。
熱気を帯びた満員のフロア。目線の先には白いスーツとハット、長い手足を動かし全身で踊るDJブースのGaz Mayall。筆者はエントランスを踏み入れてすぐの後ろのほう下手側にピットイン。この辺りは少し空間に余裕があって心地よかった。そこで突如流れたのが『Ringo』。
「美空ひばりだよな?え、でもスカ?は?」
って、なるでしょ、絶対!
Gazが2000年初頭にパレスでDJをしたのが2002と2006年。どちらだったか明確ではないが、おそらく2002年だろう、と記憶が曖昧である。ただ、その景色、赤い空間に白いスーツ姿のGaz、今でも鮮明に記憶に残っている。残念ながら写真は見つからなかった。そりゃそうだろう、衝撃すぎて写真を撮る余裕なんてなかっただろうから。
今でこそ音楽検索アプリで、誰のなんというタイトルの曲かその場で検索するのだろうけど、当時はそんな便利なツールどころかスマートフォンですらなかったのではないだろうか。
それから約20年の時を経て2023年10月、友人Tさんから頂いた1枚のレコードによってその衝撃的な記憶が呼び起こされてしまった。
そのレコードとは、ジャマイカのバンドThe Skatalitesの『Ringo』だ。
なぜ日本の曲がジャマイカでカヴァーされているのか。そんな単純明快な疑問、諸先輩方に聞けばすぐに解明できると思っていた。
ところがどっこい!諸先輩方も疑問に思い酒の肴として話題にしていたものの、インターネットという情報収集ツールが普及する前のことで、掘り下げることはなかったそうだ。早くも行き詰まってしまって意気消沈気味の私に有力情報が舞い込む。
今回の旅、名付けてリンゴジャーニーの一歩目を踏み出すきっかけは行きつけのクラブの友人からの情報だった。
なぜ?というパズルのフレームだけだった状態に、重要な1ピース目となる情報を投じてくれたのだ。
そこからは数々の情報、例えば本の内容、会話の記憶、レコードの情報、当時のレコードレーベルの背景、ジャマイカのスタジオ環境などなど。自分一人では到底辿り着けない情報や、呆れるほどマニアックな知識をたくさんの方が共有して下さった。
わたしはそれらのピースを一つ一つフレームに嵌め込むという、一番おいしい作業を楽しませていただいた。
独り占めしていたすべての貴重なピースを、このリンゴ追分の謎を紐解く楽しい旅行記、「リンゴジャーニー・シリーズ」で紹介していこうと思う。
旅に出よう🍎