映画『ファーストキス 1ST KISS』
2月7日の夜。
私のXのアカウントに、何件かの連絡が届いた。
「ファーストキス 1ST KISSを観て来ました。とてもよかったので、絶対観てください」
要約すれば、どれもそんな内容。
匿名ツールからの人もいれば、DMで直接おすすめしてくださる方もいた。
映画の存在は知っていたものの元々そう頻繁に劇場に足を運ぶタイプでも無く、「良い作品だったなら何よりだけど、私は特に観る予定は無い」と素直にそう告げたところ、割とびっくりするレベルの反発に遭った。
「そういうんじゃないんですよ」
「観るべきです」
「お家近い方、明日にでも連れて行って下さい」
挙げ句の果てにはスタバカードつきのDMが届き、もはやチケットで頬を殴られながら「観るつもりの無かった映画に行け」と責められる。
理不尽過ぎてまったく意味がわからないけど、さすがにそこまで言うなら…と、「なんでこうなったんだ???」と首を傾げながら仙台パルコへ向かったのが本日、2/10だった。
結果、とても面白かった。
ここ数年の中ではダントツで1位だし、恋愛映画カテゴリーの中では人生で1番面白い映画だった。
あの、「変な人と変な人が出会ったときの、他人には到底理解できない物語の始まり感」がとても好き。
お互い相手が変過ぎて、日によってどちらかが微妙にまともになる感じ。
物持ちが良く、ひとつの「お気に入り」を見つけたらずっとそれに夢中な硯くんが、人生において「ハルキゲニア」の次に見つけた「夢中になれるもの」。
きっと、それがカンナさんだったんだろうな、と。
松さんのマーガリンからトースターから何から何まで開けたら開けっぱなしなのめっちゃキャラ出てるし、感情表現も言葉選びもストレートで、良くも悪くも「こう!」って思ったら一直線。
だから「過去を変えて硯くんを生かす」という大きな命題を見つけて急速に行動的になり、その余波として荒れ果てた部屋の片付けも少しずつ進んでたりする。
周りも見てなきゃ深くも考えない、けど衝動性とパワーはある。
そんなところも、「交際1か月で結婚」に結びついてるんだろう。
硯くんも根っこは同じで、2人とも微妙に浮世離れてて子供っぽい。
だから勢いで結婚するし、大きな理由が無くても離婚する。
でもだからこそ、もしあのまま離婚した先で「あ、寂しいかもしれない」って気がついたら、硯くんはまたカンナさんに会いに来たと思います。
つまり結局運命の相手って、そういうことなんじゃないかなぁと。
2人が出会った15年前。
カンナさんはデザイナーとしてリゾートホテルのチャペルを手掛け、硯くんもまた、自分の好きなことを追求して生きていた。
現在は、カンナは劇団の小道具兼裏方雑用スタッフ的な仕事をしていて、硯くんは生活のために不動産屋に転職。
つまり2人とも結婚を決めたときが人生で最も華やかなタイミングであり、そこからの15年は、公私ともに緩やかに下降していった期間だったんじゃなかろうか。
だからカンナさんは、結婚生活そのものを「無し」にしようと考えた。
それで彼がもう少し長く生きられるなら、あんな悲惨な死に方をしないで済むのなら、自分との結婚、しいては出会い自体を無しにしてしまおうと。
けど、「これだ!名案だ!」とばかりに勢いよく立ち上がったカンナさんが、玄関を出る直前、ふと立ち止まって部屋の中をゆっくりと見回すシーン。
普段の衝動的で考え無しな彼女との対比で、とても印象に残ります。
硯くんと過ごした部屋が、ただの一人暮らしの部屋になる。
彼の私物も思い出も消えて、お互いの人生に影すら残さなくなる。
きっとそれを「寂しい」と思ってしまって、けどそんなことで躊躇っていたらやはり硯くんは亡くなってしまうと思い直して、慌てて玄関を飛び出したんでしょう。
この「寂しい」に関しては、最後に硯くんがとても温かい言葉で正解をくれます。
本当に硯くんの言葉も表情もとてもストレートで、そのすべてが「目の前の人が大好き」に直結していて、つい「うんうん、よかったね…」と口元を綻ばせてしまいました。
同行者には驚かれたのですが、かき氷の列に並びながら「一緒にパン屋をやろう」と言われた硯くんが咄嗟に列を抜けたとき、私はすぐに「ときめいたんだな」と分かりました。
だって、嬉しい気持ちを無理矢理噛み殺したような顔してたもん。
突然の恋と、そんな自分への戸惑い。
この映画全編においてはっきりと確実に見せつけられるのは、「何度違う条件で出会っても、2人は恋に落ちる。そこは何をどうしても変えられない」という事実であり、29歳の硯くんが言う通り、それは人間に必ず訪れる「生死」よりもよっぽど奇跡的な状況なのだ。
あのワープを見る限り、明言はされていないものよ、硯くんの寿命は寿命として、時間は決まっていたんじゃないかと私は思う。
だから変えられるのは「トウモロコシの茹で方」や「コロッケを買うか、別のものを買うか」などの細かい部分のみ。
けれど彼は「最初に恋した気持ち」を忘れないことの大切さを教わり、その気付きにより、その後の15年を幸せなものに変えた。
転職はしたものの、彼の部屋からは縛ってあった恐竜の本が消え、野球のユニフォームが消えた。
過去をきちんと昇華し、休日は上司でなく妻と過ごし、恋した人をきちんと愛し抜いて寿命を迎えることに成功した。
どこにでもいる夫婦の物語を、あるべき姿に引き戻す。
そして観ている私たちは気付くのだ。
「まだ間に合うかもしれない」
明日からの自分が後悔しないよう、たくさんの「もしも」が転がる世界で、もう一度「本当にそれでいいの?」と立ち止まるきっかけをくれる。
そしてやはり、「恋っていいなぁ」「人を好きになるっていいよなぁ」と思わせてくれるロマンチックさが満載なのが最高でした。
帰って来たばかりだけど、もう一度観たい。
本当に素敵な作品でした。
オススメしてくれた皆さん、ありがとうございました。
今日は、きちんと床暖房を消してから寝ようと思います。