BioPhenolics社のMVV
(この記事はNoteに書く初めての記事のため、文量が多くなっています。)
(この記事はBioPhenolicsという会社に興味がある人向けの記事です)
起業した時に決めたことの一つはMVVでした。
現時点では想像できないが、困難なことが起きるであろう、そしてその時々で方針がブレるだろうと自分の性格上容易に想像できました。方針がブレそうな時に修正するための羅針盤として以下のMVVを設定しました。(執筆時点2024/11/23で、1年10ヶ月経過)
【ミッション】
社会実装可能なバイオ-化学工学技術を開発し、社会貢献する。
【ビジョン】
バイオ由来の多様な芳香族化成品を大量かつ安定的に供給し、現代社会の基盤を支える。
【バリュー】
早くやって早く失敗して早くリカバリーする
社会実装に必要な技術開発を幅広く行う
大量生産へのチャレンジ
異文化コミュニケーション
これらを説明すると以下の通りになります。
前提としてBioPhenolicsはバイオものづくりのスタートアップで、2032年に年産10万トンの工場を保有することを目標にしています。
【ミッション】
社会実装可能なバイオ-化学工学技術を開発し、社会貢献する。
まず、BioPhenolicsは実際にモノを作って世の中に届けることがしたい。これが「社会実装」という言葉です。
BioPhenolicsの技術領域は「合成バイオ」と呼ばれるものになります。2010年代から出てきた言葉で脱炭素の文脈で注目を浴びている技術です。一方でワードは流行っても「バイオ化学品」が上市している例は少ないのが現状です。当社はこの状況を打破して、バイオ化学品が世の中に普及する社会を作りたいと考えています。
「バイオ-化学工学」
究極の目的は石油化学品をすべてバイオ化学品に置き換えることです。当然、バイオ技術にも限界はあり、石油化学品のすべてをカバーすることは出来ません。そのため、バイオ化学品を原料に化学変換して、石油化学品と同等の製品を作ることを目指しています。
「社会貢献」
これを忘れると目先のカネのために魂を売ることになります。
2023年時点の社会背景から「CO2削減と化学品安定供給の両立」を通して社会貢献しようと決めています。社会背景が変われば社会貢献の形が変わってきますが、当面はこれで進めようと考えています。
特に2020年代に入って、気候危機による悪影響が自分たちの生活圏に及んできたことを感じ取れるようになりました。地球温暖化の主要因を大気中のCO2増加と捉えるのであれば、CO2削減に出来る事は何か、という事になります。
個人それぞれがそれぞれの出来る範囲で対策をとれば良いのですが、たまたま私は「合成バイオ技術」を保有しており(自称ですが、相当かなりハイレベルと思っています)、これを活用する事により、大きな社会貢献をしうるのでは無いかと考えました(大きな力には大きな責任がある、とかなんとか)。
大企業の中で合成バイオ技術の社会実装を目指していましたが、色々な事情があり、社外で実現しようと決めて(円満)退職しました。
【ビジョン】
バイオ由来の多様な芳香族化成品を大量かつ安定的に供給し、現代社会の基盤を支える。
「芳香族化成品」
得意分野で勝負するべきだと考え、私と共同創業者のT先生の得意な芳香族化学品をターゲットとして、事業を開始しました。
バイオ化学品で先行している品目は「燃料」でした。エネルギー産業は化学産業の10倍の規模があり、超大量安価の世界です。バイオ化学品ですので、大気中からCO2を除去できるのですが、すぐに燃やしてしまうため、カーボンニュートラルであるが、ネガティブでは無いというカテゴリーです(無論、石油燃料より大幅にCO2発生量を減らすことが出来る)。
当社はプラスチックなどの原料になる化学品のバイオ化を進め、最終製品であるプラスチックをリサイクルしながら100年使うことにより、大気中のCO2を地上に固定化したいと考えています。
「芳香族化成品」のみをターゲットにするメリット
・スマートセルの開発コストが相対的に小さい。
芳香族化合物を作る代謝系の改良のみに集中すれば良く、効率が良い。
・精製プロセスの集中化
バイオ化学品は培養液中(水系)に溶け込んでいるため、水から回収する必要があります。これを精製と言います。精製法は化学品の物性に依存するため、芳香族化学品は2~3程度の精製プロセスで精製が可能です。
ラボでは大した問題になりませんが、工業化する際には設備投資にダイレクトに効いてくる重要ポイントです。
「大量に供給」
事業戦略としては、「少量高付加価値」と「安価大量」のいずれを選ぶのか?という観点です。当社は石油化学産業をバイオものづくり産業に置き換えるという大目標を前提とすると「安価大量」を目指すことになります。つまり製造業になることを目指しています。
これはITサービスと違って、実際の「モノ」が最終製品になるためです。「モノ」を出すためには設計+製造能力を持つ必要があります。製造能力=工場と言い換えることが出来ます。
工場を作るには当然、設備投資が必要になり、「アセットが重い」事業になります。また、工場建設や運営に関する様々な能力が求められます。
「少量高付加価値」は「少量」のため、このために工場を建ててしまうと固定費が高いため、事業性がなくなります。これを解決するための手段が幾つかあります。
一つ目は「少量高付加価値」製品を多数並べて、物量を増やして、相対的に固定費を下げる方法です。一見理想的ですが、「少量高付加価値」製品は最初の一つは見つけられても続けて見いだすことは難しいという課題があります。また、複数見つかった場合でも、化学構造が全く異なるため、スマートセルの開発コストが増大したり、精製プロセスが発散するため、最終的に製造コストが上がるため事業家が難しくなります。
二つ目は「安価大量」が成立している工場で「少量高付加価値」製品を作ることです。すでに「安価大量」製品が固定費を十分に下げているため、前述の「固定費が高い」問題を回避することが出来ます。
これを踏まえて、当社では「安価大量」と「少量高付加価値」を組み合わせて、中程度の利益率の工場を目指しています。
「安定的に供給」
これは社会的責任として、当然のこととして安定供給を目指しています。これには原料調達も含まれており、別途記事を作りたいと思います。
「現代社会の基盤を支える」
バイオ化学品はインフラになるべきと考えています。現状、バイオ化学品は製造技術が未熟など様々な理由から製造コストが高い傾向があります。これを抑えるべくグリーン税制などの政策誘導があります。
この記事を読んでいる方は「意識が高く、気候危機に対して何らかのアクションをしたい」と思っている方と思います。このような方は、実のところ極めて少数と思います。仮に1000万人がこのようなやや高価なグリーン製品の購入をしたところで、全人類80億人のうち、意識の高い1%が活動しても、わずかに0.125%に過ぎません。多くの方に普及して使っていただく(これにはグローバルサウスの月収2ドル以下の層も含む)には、安いことが絶対条件です。
全人類の意識を変えることは無理です。こちらから敷居を下げて、誰でも使えるようにする必要があります。何も考えずに買ったら、それは脱炭素製品だった。。。という状況を作り上げる必要があります。
これはSDGsの誰一人取り残さない、という考え方と通底していると思います。
【バリュー】
早くやって早く失敗して早くリカバリーする
「Fail Fast, Learn Rapidly+Recover」
スタートアップが大企業に勝つには、これしか無いと思っています。大企業と比較して、ヒトモノカネの全てが圧倒的に劣るのがスタートアップです。
勝てる要素を挙げると「スピード」しか思いつきません。
「いやいや、Deep techのスタートアップなんだから技術だろ?」と思われるかもしれません。技術はいずれ追いつかれます。足りないところはキャッチアップ、優位なところは差をつけ続けるにはどうしたらよいか。「スピード」しかない。
この方法論はまた別途記事にしたいと思います。
社会実装に必要な技術開発を幅広く行う
前述の通り、バイオに拘らず、トータルコストが下がる方法を追求したいと思って決めました。また、ラボだけで活動しているとどうしても視野が狭くなるため、当社では「工場で使える技術」を開発すると決めています。
「現場で使えるとは」については別途記事を作りたいと思います。
大量生産へのチャレンジ
ラボだけでは無く、工業化技術を開発することを常に思い出すためのワードです。
当社は10万トン工場を建てることを2030年の目標にしています。
そのため、人材採用、原料選定、ターゲット選定、開発技術の選定、パートナリングについて、大量生産が実現できそうか、という軸で考えています。
異文化コミュニケーション
「異文化理解力」(エリンメイヤー著)に影響をもろに受けています。
私がよく考える軸は二つです。
組織の形態:アカデミア-大企業-スタートアップ
人類の公益のために活動するアカデミア vs 利益を追求する存在である大企業/スタートアップ、
既存事業を中心に活動する大企業 vs 新規事業で勝負するスタートアップ
文化、時間軸、KPIが異なるため、日本語で話していても通じていないことがままあります。
自分がいずれの組織でも社会人になってから、それなりに時間を過ごしているため、背景を理解して対応することが出来ます(2大学4年、SU2社12年、大企業2社5年)。この辺の理解が足りないと組織間の連携がうまくいかないため、Valueに入れています。
地理的文化的背景:日本ーアジアー欧米
東南アジア2カ国で仕事をした経験から、日本とは全く違う状況を体験しています。大量生産の製造工場は東南アジアを想定しています。具体的にはベトナム、タイ、インドネシアです。当社のメンバーはいずれ同地で工場の立ち上げ、技術の導入を行うため、意識付けのためValueに入れています。
2024/11/23 貫井執筆