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仕事の出来る夫は必要なのかな

強くて仕事のできる男が好きだった。
自分の夫が職場で「仕事のできないやつ」という目で見られているなんて耐えられないと思っていた。なんだか、恥ずかしい、と。

わたしは仕事人間で、飲みニケーションどんとこい、休日も勉強や研修に費やし、なんなら仕事が自分のアイデンティティ、仕事がなくなったら自分には何も残らないんじゃないかという強迫観念のようなものを持って生きていた。

価値観が少し変わったのは祖父の葬式の時のこと。
教員をしていた祖父は、校長まで勤め上げ退職した。仕事ばかりしていて家庭では存在感がなく、祖母と二人暮らしになってからは家庭内別居のような状態だった。認知症になり施設へ入居したこともあって、家族とはますます関係性は希薄になったように思う(母方の祖父のためもともとわたしは年に1~2回会う程度だった)。
祖父の葬儀のときには同じく教員をしていたかつての「仲間」が駆けつけ弔辞を読んでくださった。校長という立場でありながら校庭で児童と汗を流す先生は教員としてうんぬん、それはそれは立派な言葉でたくさん褒めてくれた。しかし家族の中で涙する人はいなかったし、悲しそうにしていた仲間の皆さんたちとて施設に会いに来てくれた人はいなかったよね。
正直、学校で、仕事で、じいさんがどう活躍していたかなんて家族にとってはどうでもよかったのだ。もちろん、世の中に語り継がれるような功績を残す人たちは家庭を顧みない人だってたくさんいるのかもしれないし、それを誇りに思っている家族を持つ人もいるだろうから、一概には言えないものだけど。

その後わたしは職場内結婚をすることになる。わたしより後に入ってきた夫には始めこそ注意したりもしたけど、基本的に頭がいいので同じことを二回注意する必要はなく、スマートに仕事を覚えていく人だなあと思っていた。好きになったのは仕事ができるからでなく、もっと全人的に人を見るところとか、いろいろあったので、いつしか夫が仕事ができるかどうかはどうでも良くなっていた。

結婚し、子どもが産まれると夫は驚くほど早く帰宅するようになった。もともとだらだら働くことなんてなくて、いつも効率を考えている人だったが、「子どもが産まれたら早く帰りたいけど、これ以上どうやって効率を上げればいいんだろう‥」と悩んだりもしていた。それでも、だ。
もちろん早く帰れない日もあるけど、基本的には早く帰ってくるようになったので、職場で干されてはいないだろうかと少し心配になる。昔のわたしだったら「恥ずかしい」な、と思っただろうな。

今は早く帰ってきてくれる夫には感謝しかないし、これから少しでも長い時間一緒に過ごしていくにはどうしたらいいのかと毎日考えるくらいには夫が大好きだ。

ただやっぱりわたしは仕事が好きなので、「わたし、定時で帰ります」で終始ブラック上司として描かれていた福永さんが最後、「仕事を頑張るってそんなに悪いことかな?」と主人公の結衣さんに投げかけるシーンはぐっときたし、This is meに乗せて熱く仕事への想いが描かれる中村倫也と菅田将暉のCMにもどうしたって胸が熱くなっちゃう。

そんな単純なところもあるよ。

下の階に住むママ友さんの旦那さんはとても仕事熱心なのだそうだ。いつも遅くまで仕事や勉強をしてから帰ってくる、朝も早く出ていく、その代わりに休みの日はたっぷり息子と遊んでくれる、という話をよく奥さんから聞いている。その旦那さんはいつ会っても自信に満ちた表情をしているように見える。そんな男が昔は好きだった。強く見えた。でも今のわたしはずいぶんと価値観が変わってしまったんだなあと実感する。粛々と自分の好きなことをしながら、仕事に必要な勉強もやりつつ、子どもの世話も一生懸命やって、静かに本を読んでいる夫のことがより愛おしくなった。

人生は面白味もなく、オチもないな。
ただ最高の夫と結婚出来て本当に幸せだなって話。

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