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レガシーの意味

今年はTOKYO2020の開催があった。すでに巷で言われなくなって久しいが、一時期「レガシー」という言葉がメディアで強調されていたことは記憶に新しい。オリンピックの開催をきっかけとした投資やアイデアの実現による開催国の経済・社会への長期的に有効な貢献を指す言葉、とでも解釈すれば良いだろうか。オリンピックに対する拝金主義という批判へのカウンターとしてオリンピック当局側が使う用語であり、意味が分かりにくい言葉なのは横文字あるあるだ。

さて、今回取り上げたいのはTOKYO2020のレガシーではなく長野オリンピックの、しかも小さな小さなレガシーだ。そもそも、長野オリンピックの時代にレガシーという言葉はおそらく使われていないと思われるが、そこはご容赦いただきたい。

2021年12月上旬をもって、旧信越本線の長野県内区間を管轄するしなの鉄道から新長野色の115系が引退すると発表された。この「新長野色の115系」という組み合わせは長野オリンピックのあった90年代後半から2010年代前半までの長野県とその周辺の在来線のスタンダードであった。

115系新長野色。妙高高原駅にて撮影。
11月の終わりにして信州らしい雪に恵まれた。

新長野色は写真の通り、グレーの地色にアイスブルーと淡い緑色の帯を纏った塗装である。この塗装は、長野オリンピックの開催が決まって以降、長野地区在来線のイメージアップのために導入された塗装だ。冬の雪はもちろん、夏も避暑地として湖のある高原が楽しめる長野県のイメージにピッタリな、秀逸な塗装だ。

また、115系とは1963年以降国鉄が導入した電車の型式である。直流電化された路線のうち寒冷地および山岳地帯の路線に導入された。現在のJRと異なり国鉄は全国大の公社であったので、東北(宇都宮)線・高崎線をスタートに長野以外の地域にも全国的に投入、本州の西半分における普通列車の顔であった。現在でも新潟や岡山、下関などの都市を中心とした地域で115系は運行されている。

岡山地区の115系。尾道駅にて撮影。
塗装は違えど、車体や走行性能は同じだ。

新長野色の115系は、JR東日本からは北陸新幹線の長野〜金沢間が開業した2015年に消滅してしまった。しかし、2015年以前は中央線を軸に西は岐阜県の中津川駅、東は山梨県を越えて東京都の立川駅まで顔を出す運用範囲の広い存在であった。普通列車中心ではあるものの、私も折に触れては乗車する「偉大なる脇役」であった。

現在は東海道線や宇都宮・高崎線から転属した211系という型式が中津川や立川といった街へ走る長野地区における普通の列車運用を受け継いでいる。時代が降り車体は鋼鉄からステンレスになったが、帯の塗装には新長野色が引き継がれた。

211系長野色と高尾駅の天狗。
長野色はこれからも東奔西走する。

私が小学生の頃から高校生になるまで空気のように当たり前だった存在が居なくなるのは寂しい。しかし、同じ塗装の後継車両に「偉大なる脇役」の役割は引き継がれている。この脈々と引き継がれる役割と塗装は、レガシーの意味を確かに説明、体現しているというべきだ。

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