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帝国神霊学院 第二章 社への生贄

その日、星天学はそこぶる機嫌が良かった。晴天のもと、弟子の一人、瀧晴也を連れて電車で岐阜駅に降り立った。ホームには大勢の客がたむろっている。心地よい初夏の風が天学の頬を撫でていく。
「ふわーぁ、眠いなぁ、でも、瀧くん気持ちが良いね」
眠たげに両手を高く伸ばす星。瀧と呼ばれた少年が不満そうに呟く。
「もう、先生!しっかりして下さいよ。今日は昭和時代に残った人身御供の調査なんですから」
この瀧は若干10歳のあどけなさが抜けない子供ではあるが、名古屋で神童と呼ばれた英才児であり、その霊能力は帝国神霊学院筆頭の林青年と、並び評されるほどであった。
「ふふふ、こりゃいかんな」
星が軽く頭をかいた。
その瞬間、 空気の流れが変わった。「ん!?」 
瀧の目が輝く。
「そこかぁ!」
人々の間隙を縫って一体の気配が逃げ去ろうとした。気合と同時に波動で敵を追尾する。
「シャーン」
瀧の波動で砕け散る気配、ホームには一羽の鳩がボロボロになって落ちている。「こっ、これは、、」
星天学がしはし驚愕する。
「先生、ひとの、人の顔をした鳩がいます」
瀕死の状態の鳩を瀧が抱え、ゆっくりとした口調で話かける。
「お前、誰に頼まれた?」 
すると鳩が人間の顔のように醜く歪ませ、血を吐いた。
「ゲボゲボ」
滝が焦った感じで、人面鳩の身体を激しくゆする。
「おい、お前!なんとか言ったらどうなんだ」  
すると鳩は不敵な笑いを浮かべ
「ふん、やなこった。お前らどうせ土蜘蛛さまの手にかかり死ぬんだからな」
瀧少年が激昂する
「なんだ!!その土蜘蛛ってやつは!」「グフっ」
人面鳩はそう言い残すと絶命した。
「おい!」
もう人面鳩は反応しなかった。それをクールな表情で見つめていた星がため息混じりに呟いた。
「ほう、人面鳩かあ」
「先生、これってやっぱり」
「やっこさん、こちらが乗り込んでくることをお見通しのようだ」
懐からの手紙を取り出す瀧少年。
「本日の日付と儀式の場所が書かれてあります。手紙の差出人が生贄にされる本人です」
初夏の岐阜はその日、
ーーー格別に暑かった。

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