(追記)
記事で取り上げた整体士に対する著作権侵害で発信者情報を開示されたアカウントの投稿によると、整体士が相談した医師兼弁護士は立憲民主党の衆議院議員、米山隆一氏のようである。
法律事務所の紹介を見る限り、米山氏は薬機法や景品表示法を専門としていないように思われる。
(追記終り)
側湾症患者に対して施術している整体士(以下、当該整体師)が、整体施術に関して医師免許持ちの弁護士(以下、当該弁護士)に相談して、聞いた意見をブログに掲載していた。
上記ブログで掲載されている当該弁護士の法的見解は
ということである。
昭和35年判決を維持し、無免許治療は人の健康に害を及ぼすおそれが証明されない限りは違法ではない、という解釈(以下、「通説」)をとるなら当該弁護士の見解も完全に否定できるものではない。
憲法22条の保証範囲
しかし通説が妥当でないことは食品衛生法第12条や、それに関する判決を見れば明らかである。
「人の健康を損なうおそれのない場合」として首相が定める場合を除いて、食品添加物等を製造、販売等してはならない、という条文である。条数や主務大臣は変遷しているものの、この条文と憲法29条第3項(財産権)が争われ、合憲判断がでている判決がある。
憲法22条の職業選択の自由は財産権(憲法29条)と同様に経済的自由に関する権利である。よって憲法判断も同様なものになる。
憲法22条は、人の健康に害を及ぼすおそれが無いと証明されていない治療行為を無免許または免許外の業務として行うことまでは保証していないと解釈すべきであることは、前掲のチクロ判決と同様の理屈で明らかである。
そして当該ブログ記事を読む限り、当該整体施術が人の健康に害を及ぼすおそれが無いと証明された旨は書いてない。なので当該整体士の施術はあはき法第12条に違反するものである。
当該弁護士の意見に関して
通達は旧厚生省や厚労省が出している行政通達であろうが、ガイドラインがどのガイドラインを指すかは明らかではない。しかし、現在策定中のあはき柔広告ガイドラインの無資格者に関する部分であろう。
ガイドライン案では無資格者の「広告に掲載すべきでない事項」として、慢性的な症状などに対する施術を挙げている。
もっともこれは「関係団体等による自主的な取組を促すものである。」と書かれており、現在の判例の下では法的強制力を持たない。
現在、昭和35年判決の維持が相当では無い状況であるとはいえ、最高裁が判例変更を明文化しない限り、行政としては昭和35年判決を前提としてガイドラインを書くしか無い。
なお、側湾症患者に対し、治療等以外の目的、例えば接待を目的にして施術することは問題無いが、症状の緩和など、治療を目的にする場合は医師法第17条やあはき法第12条に違反するおそれがある。
実際、当該ブログにおいては
と、痛みや痺れなどの軽減を整体施術の目的及び効果として明らかにしている。
よって昭和35年判決の維持を前提としても、人の健康に害を及ぼすおそれが無いことが証明されていない限り、あはき法第12条に違反する可能性がある。
当該弁護士は薬機法や健康食品については詳しく無いのだろうか?
健康食品の広告にも体験談はよく掲載されているが痛みなどの症状が改善された旨は書いてないのである。「膝の曲げ伸ばしが楽になりました。」「階段の登り降りが楽になりました」「アクティブな生活を送れるようになりました」と言ったような体験談はあるが、愛用者が膝や腰の痛みを抱えていたとか、それらの痛みが改善した旨の体験談は掲載されていないはずである。
そのような体験談を掲載すれば「疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物」と判断され、無認可医薬品の販売及び広告と判断される。
施術だって同様である。
確かに昭和35年判決と通説を前提にした場合は、症状の治療等の目的や効果を謳っただけでは違法とは言えないが。
どちらかというと景品表示法の話である。ただし、体験談は打ち消し表示をしても優良誤認表示になりうる。
当該記事のみではどのようなビフォーアフター写真か、不明であるものの、側湾症のコブ角の改善は「医療及び保健指導」に属する行為であり、治療効果の表示であり、当該整体施術が治療等を目的にしていることを示すことになる。
当該ブログの過去記事が削除されているため、当該整体士が問診や検査、症状の原因の判断などを行なっているかは不明である。
通説を前提にした場合でも、無免許業者に許されるのは、「患者に危害を及ぼすことがなく、判断要素に乏しい機械的な作業」に限定される(富士見産婦人科病院事件保助看法違反控訴審判決参照)。
無免許医業に関する最高裁判例を勝ち取った亀石倫子弁護士は、懲戒請求において、整体施術が違法では無い、という主張はしなかった。
整体士を紹介する投稿をした亀石倫子弁護士に対し、違法行為(医師法・あはき法違反)の助長として私が懲戒請求したことは以前に紹介した通り。
タトゥー事件で、無免許医業についての最高裁判決を勝ち取った亀石弁護士でさえ、紹介した整体院の施術の適法性を主張せず、違法だとは認識できなかったし、調査すべき義務は無かった旨しか主張していない。
以下は懲戒請求書の議決書に記載された、亀石弁護士の弁明である。
懲戒請求された弁護士の答弁書の提出期限は懲戒請求書を受け取ってから1ヶ月程のようだ。
ブログの整体士は
と書いているので、誹謗中傷対応の法律相談のついでに弁護士に聞いたものと思われる。
それに比べれば亀石弁護士の場合、1ヶ月程度の時間をかけて答弁書を書いたのだろうから、医師法・あはき法についての検討は整体院ブログの弁護士よりも行なっていると思われる。
それでも紹介した整体院の施術の適法性は主張しなかったのである。