整体士が公開した、整体施術に関する弁護士の意見に関して

(追記)
記事で取り上げた整体士に対する著作権侵害で発信者情報を開示されたアカウントの投稿によると、整体士が相談した医師兼弁護士は立憲民主党の衆議院議員、米山隆一氏のようである。
法律事務所の紹介を見る限り、米山氏は薬機法や景品表示法を専門としていないように思われる。

取扱分野
医療訴訟・医療過誤、企業法務、商事紛争、事業承継・事業再生、海外進出・外国人労働者関連法務、不動産関連法務、医療機関・介護福祉施設関連法務、インターネット・IT関連法務、保育施設・学校関連法務、遺言・相続、一般民事事件

https://www.otaka-law.com/lawyer/

(追記終り)

側湾症患者に対して施術している整体士(以下、当該整体師)が、整体施術に関して医師免許持ちの弁護士(以下、当該弁護士)に相談して、聞いた意見をブログに掲載していた。

上記ブログで掲載されている当該弁護士の法的見解は

整体師が側弯症患者さんに施術することは構わない。整体はカイロプラクティックではない。そもそも、それ以前にガイドラインや通達は法律ではないので、たとえカイロプラクティックが側弯症患者さんに施術した場合でも違法にはならないし、罰則規定もない。

個別の側弯症患者さんのコブ角や不定愁訴が改善したことを、個別の事例として紹介しても構わない。特異体質やプラセボでの改善も含め、個別にはそういうことが起こり得る。個別の事例として、「このように側弯症の改善を実感しているお客様がいる」と紹介する分には、それは事実なので紹介して構わない。弁護士の先生も学生時代にあるスポーツをしていて、スポーツのフォームの改良のために姿勢に気をつけて生活すると、わずかに身長が伸びることを経験している。健康な人間でもそうなるのだから、側弯症患者さんが姿勢に気をつければ、コブ角が改善することがあっても不思議ではない。ただし、すべての側弯症患者に一般化してはいけない。あくまでも個別の事例として紹介すること。また、医療行為ではないということや、施術とコブ角改善の因果関係が証明されていない点にも言及すること。

個別に改善した事例を一般化させてはいけない。個別の改善事例をもとに、側弯症患者全員にも同様の効果があるとか、どの患者にも同じ施術が有効だというような主張や宣伝をしてはいけない。そのような主張をするためには、研究して論文にする必要がある。

ビフォーアフター写真(作為的な画像加工をしていないもの)、お客様の感想は掲載しても構わない。ただし、「個人の感想です」とか「すべての人に同様の効果があることを保証するものではありません」「永続的な効果を保証するものではありません」などの打消表示を必ずつけること。

などを守れば、法律上、今後も側弯症患者さんへの施術は可能ということになります。

https://ameblo.jp/seseragi-seitai/entry-12871337019.html

ということである。
昭和35年判決を維持し、無免許治療は人の健康に害を及ぼすおそれが証明されない限りは違法ではない、という解釈(以下、「通説」)をとるなら当該弁護士の見解も完全に否定できるものではない。

憲法22条の保証範囲

しかし通説が妥当でないことは食品衛生法第12条や、それに関する判決を見れば明らかである。

第十二条
人の健康を損なうおそれのない場合として内閣総理大臣が食品衛生基準審議会の意見を聴いて定める場合を除いては、添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、又は販売の用に供するために、製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。

食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)

「人の健康を損なうおそれのない場合」として首相が定める場合を除いて、食品添加物等を製造、販売等してはならない、という条文である。条数や主務大臣は変遷しているものの、この条文と憲法29条第3項(財産権)が争われ、合憲判断がでている判決がある。

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

日本国憲法

 五 食品添加物の指定は、これに基づき当該食品添加物を使用して食品の製造、販売をする業者の営業上の利益を保障する趣旨でなされるものではない(なお、被控訴人がチクロ使用を控訴人ら業者に勘案するような行政指導を行つた事実を認めるに足る証拠はない。原審及び当審における控訴人代表者の供述は右の事実を認めるに十分ではない)。
そしてチクロの場合の如く、一旦は食品添加物の指定を受けながら、その後の自然科学の発達によつてその安全性に疑問が抱かれて、指定の取消がなされることがあつても、それは、化学的合成品である食品添加物に本来内在する制約であるというべきである。従つて、チクロの食品添加物指定を信頼して、チクロを使用して食品の製造、販売をなしていたという控訴人が、右指定の取消によつて、チクロ含有の商品の販売上損失を蒙つたとしても、特別の規定をまたずに、禁反言ないし信義誠実の原則によつて当然に被控訴人が控訴人の損失を補償すべきものである、とはいえない。
また、なにびとも人の健康を害する虞れがないとは認められない食品添加物を使用した食品を販売する権利、自由を有するものではないから、前記のような理由で本件指定が取消されて、控訴人がチクロ含有の食品の販売制限を受けるに至つても、特別な規定をまたずに、公用収用に準ずるものとして、被控訴人に控訴人の損失を補償させるべきである、とは解し得ない。以上のように解することが憲法二九条三項の要請に反するものとはいえない

東京高裁昭和52年(ネ)1673号
訟務月報24巻12号2650頁
判例タイムズ380号94頁

憲法22条の職業選択の自由は財産権(憲法29条)と同様に経済的自由に関する権利である。よって憲法判断も同様なものになる。

第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

日本国憲法

憲法22条は、人の健康に害を及ぼすおそれが無いと証明されていない治療行為を無免許または免許外の業務として行うことまでは保証していないと解釈すべきであることは、前掲のチクロ判決と同様の理屈で明らかである。

そして当該ブログ記事を読む限り、当該整体施術が人の健康に害を及ぼすおそれが無いと証明された旨は書いてない。なので当該整体士の施術はあはき法第12条に違反するものである。

当該弁護士の意見に関して

・整体師が側弯症患者さんに施術することは構わない。
整体はカイロプラクティックではない。
そもそも、それ以前にガイドラインや通達は法律ではないので、たとえカイロプラクティックが側弯症患者さんに施術した場合でも違法にはならないし、罰則規定もない。

https://ameblo.jp/seseragi-seitai/entry-12871337019.html より。
装飾・改行は筆者。以下同様。

通達は旧厚生省や厚労省が出している行政通達であろうが、ガイドラインがどのガイドラインを指すかは明らかではない。しかし、現在策定中のあはき柔広告ガイドラインの無資格者に関する部分であろう。
ガイドライン案では無資格者の「広告に掲載すべきでない事項」として、慢性的な症状などに対する施術を挙げている。

(6) あはき師法、柔整師法等に抵触する内容を含むもの
無資格者の行為は、国家資格が必要なあん摩業、マッサージ業、指圧業、
はり業、きゅう業若しくは柔道整復の業務とは全く異なることから、国家
資格を必要とする業を行っていると利用者に誤認を与えるような表示は不適切であり、これは、写真、画像等を用いた場合においても同様である。
また、「腰痛」、「膝の痛み」等の痛み症状に対する施術、慢性の「肩こり・
疲労」等の常態的な症状に対する施術の表現は、特定の疾患に対する施術
或いは疾患の原因となる可能性を含んでいる症状に対する施術に当たる
可能性が高いことから、広告及びウェブサイト等に表現すべきでないもの
である。

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001274733.pdf#page=41

もっともこれは「関係団体等による自主的な取組を促すものである。」と書かれており、現在の判例の下では法的強制力を持たない。
現在、昭和35年判決の維持が相当では無い状況であるとはいえ、最高裁が判例変更を明文化しない限り、行政としては昭和35年判決を前提としてガイドラインを書くしか無い。

なお、側湾症患者に対し、治療等以外の目的、例えば接待を目的にして施術することは問題無いが、症状の緩和など、治療を目的にする場合は医師法第17条やあはき法第12条に違反するおそれがある。
実際、当該ブログにおいては

当院の施術で目指していたのは、頭の重心や骨盤の位置の異常などの各部位の非対称性や前傾/後傾を修正することで姿勢が改善し、痛みやしびれやコリや疲労感などが軽減することによって、側弯症を抱えた日常生活が楽になり、側弯症とうまく付き合っていけるようになることでした。

https://ameblo.jp/seseragi-seitai/entry-12871337019.html

と、痛みや痺れなどの軽減を整体施術の目的及び効果として明らかにしている。
よって昭和35年判決の維持を前提としても、人の健康に害を及ぼすおそれが無いことが証明されていない限り、あはき法第12条に違反する可能性がある。

・個別の側弯症患者さんのコブ角や不定愁訴が改善したことを、個別の事例として紹介しても構わない。
特異体質やプラセボでの改善も含め、個別にはそういうことが起こり得る。
個別の事例として、「このように側弯症の改善を実感しているお客様がいる」と紹介する分には、それは事実なので紹介して構わない。
弁護士の先生も学生時代にあるスポーツをしていて、スポーツのフォームの改良のために姿勢に気をつけて生活すると、わずかに身長が伸びることを経験している。
健康な人間でもそうなるのだから、側弯症患者さんが姿勢に気をつければ、コブ角が改善することがあっても不思議ではない。
ただし、すべての側弯症患者に一般化してはいけない。あくまでも個別の事例として紹介すること。
また、医療行為ではないということや、施術とコブ角改善の因果関係が証明されていない点にも言及すること。

https://ameblo.jp/seseragi-seitai/entry-12871337019.html

当該弁護士は薬機法や健康食品については詳しく無いのだろうか?

健康食品の広告にも体験談はよく掲載されているが痛みなどの症状が改善された旨は書いてないのである。「膝の曲げ伸ばしが楽になりました。」「階段の登り降りが楽になりました」「アクティブな生活を送れるようになりました」と言ったような体験談はあるが、愛用者が膝や腰の痛みを抱えていたとか、それらの痛みが改善した旨の体験談は掲載されていないはずである。

そのような体験談を掲載すれば「疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物」と判断され、無認可医薬品の販売及び広告と判断される。

施術だって同様である。
確かに昭和35年判決と通説を前提にした場合は、症状の治療等の目的や効果を謳っただけでは違法とは言えないが。

・個別に改善した事例を一般化させてはいけない。個別の改善事例をもとに、側弯症患者全員にも同様の効果があるとか、どの患者にも同じ施術が有効だというような主張や宣伝をしてはいけない。そのような主張をするためには、研究して論文にする必要がある。

https://ameblo.jp/seseragi-seitai/entry-12871337019.html

どちらかというと景品表示法の話である。ただし、体験談は打ち消し表示をしても優良誤認表示になりうる。

体験談に関する景品表示法上の考え方
今回の調査結果から、実際に商品を摂取した者の体験談を見た一般消費者
は「『大体の人』が効果、性能を得られる」という認識を抱き
、「個人の感想
です。効果には個人差があります」、「個人の感想です。効果を保証するもの
ではありません」といった打消し表示に気付いたとしても、体験談から受け
る「『大体の人』が効果、性能を得られる」という認識が変容することはほとんどないと考えられる

このため、例えば、実際には、商品を使用しても効果、性能等を全く得ら
れない者が相当数存在するにもかかわらず、商品の効果、性能等があったと
いう体験談を表示した場合、打消し表示が明瞭に記載されていたとしても、
一般消費者は大体の人が何らかの効果、性能等を得られるという認識を抱く
と考えられるので、商品・サービスの内容について実際のもの等よりも著し
く優良であると一般消費者に誤認されるときは、景品表示法上問題となるお
それがある。

消費者庁:打消し表示に関する実態調査報告書(概要)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_170907_0003.pdf#page=12

・ビフォーアフター写真(作為的な画像加工をしていないもの)、お客様の感想は掲載しても構わない。
ただし、「個人の感想です」とか「すべての人に同様の効果があることを保証するものではありません」「永続的な効果を保証するものではありません」などの打消表示を必ずつけること。

https://ameblo.jp/seseragi-seitai/entry-12871337019.html

当該記事のみではどのようなビフォーアフター写真か、不明であるものの、側湾症のコブ角の改善は「医療及び保健指導」に属する行為であり、治療効果の表示であり、当該整体施術が治療等を目的にしていることを示すことになる。

当該ブログの過去記事が削除されているため、当該整体士が問診や検査、症状の原因の判断などを行なっているかは不明である。
通説を前提にした場合でも、無免許業者に許されるのは、「患者に危害を及ぼすことがなく、判断要素に乏しい機械的な作業」に限定される(富士見産婦人科病院事件保助看法違反控訴審判決参照)。

無免許医業に関する最高裁判例を勝ち取った亀石倫子弁護士は、懲戒請求において、整体施術が違法では無い、という主張はしなかった。

整体士を紹介する投稿をした亀石倫子弁護士に対し、違法行為(医師法・あはき法違反)の助長として私が懲戒請求したことは以前に紹介した通り。

タトゥー事件で、無免許医業についての最高裁判決を勝ち取った亀石弁護士でさえ、紹介した整体院の施術の適法性を主張せず、違法だとは認識できなかったし、調査すべき義務は無かった旨しか主張していない。

以下は懲戒請求書の議決書に記載された、亀石弁護士の弁明である。

2 対象会員の投稿1から4は違法な行為を助長するものではなく、品位を失うべき非行は存在しない

(1) 弁護士職務基本規程第14条の「違法若しくは不正の行為」とは、「詐欺的取引、暴力」が例示されていることから、詐欺的取引に匹敵する欺瞞行為ならびに暴力に匹敵する威嚇力や強制力を伴う脅迫行為あるいは威力誇示行為等を含むと解される ので、Aが姿勢矯正専門整体院で行っていた施術がなんらかの客観的法規範に違反していると仮定しても、欺瞞行為や脅迫行為、威力誇示行為等には該当せず、本条にいう「違法若しくは不正な行為 」にあたらない。

(2) Aが整体院で行っていた施術になんらかの違法性が認められるとしても、対象会員にはAの施術の違法性の認識はない
 対象会員は、単なる顧客としてA整体院を訪問し施術を受けたに過ぎず、Aのホームページを閲覧したこともなく、A整体院が実施する施術を全て把握しているわけでもない。
 また、整体師が行う施術一般が違法な存在であるとの社会的な共通認識は存しない。
 このような状況において、仮に、A整体院の施術に違法性が認められたとしても、単なる顧客にすぎない対象会員はそれが違法であるとの認識を有していなかった。

(3) 懲戒請求者は、対象会員が医師法に関する解釈が争点の一つとなったタトゥー事件の主任弁護人であったことから、本件施術の違法性を認識していたはずであると主張するが、A整体院が提供する施術が違法か否かは一見して明らかなものではなく、個別事案ごとに慎重に判断されるものであるところ、対象会員は、弁護士としてA整体院との間で委任契約等を締結しているわけではなく、単なる顧客としてA整体院を訪問し施術を受けただけであり、A整体院の施術が違法か否かを調査・判断する権限はなく、したがって、仮にA整体院の施術になんらかの違法性が認められるとしてもそのことを対象会員が認識していなかったことについて何らの落ち度もない

(4) 弁護士職務基本規程第14条の「助長」とは、違法・不正であることを知りながら、これを第三者に推奨したりすることによ って、違法・不正の実現に手を貸したり、その存続または継続を支援したりすることをいう。本条違反というためには、違法又は不正な行為と知っていたことが必要であり、これを知らなかった弁護士に対し結果責任を負わせるものではない (日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説弁護士職務基本規程[第3版]』32頁)。

 また、対象会員による投稿1から4は、その内容からして、対象会員が弁護士の立場でなんらかの法的意見を示すものではなく、単なる顧客として本件施術を受けた感想を素朴に述べたものに過ぎず、違法・不正の実現に手を貸したり、その存続又は継続を支援したりするものでない。

(5) よって、対象会員による投稿1から4は、違法行為の助長 (弁護士職務基本規程第14条)に該当せず、品位を失うべき非行(弁護士法第56条第1項)は存しない。

大阪弁護士会2021年(網)第93号における亀石倫子弁護士の弁明

懲戒請求された弁護士の答弁書の提出期限は懲戒請求書を受け取ってから1ヶ月程のようだ。

ブログの整体士は

ただし、現在はまずは当院に執拗な中傷を続けている人物への対応が先で、今のところそれで手一杯です。

弁護士の先生もお忙しい方ですし、相談時間にも限りがあるので、そんなにあれこれと手取り足取りお聞きする時間は取れず、お聞きしそびれた点もあるかもしれません。

https://ameblo.jp/seseragi-seitai/entry-12871337019.html

と書いているので、誹謗中傷対応の法律相談のついでに弁護士に聞いたものと思われる。
それに比べれば亀石弁護士の場合、1ヶ月程度の時間をかけて答弁書を書いたのだろうから、医師法・あはき法についての検討は整体院ブログの弁護士よりも行なっていると思われる。
それでも紹介した整体院の施術の適法性は主張しなかったのである。

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