この記事は2024年5月8日に新宿で起きた西新宿タワマン殺人事件に関する記事です。事件の詳しい説明は端折ります。
この事件は殺害された人物が一方的な「被害者」、殺害した人物が一方的な「加害者」と言えるものではないと考えるので、殺害された人物を「被殺害者」、殺害した人物(この事実について、争いは無いと思慮する。)を「殺害者」と記述する。
殺害者は希少な車やバイクを売却し、被殺害者に金銭を渡したが、その後出禁にされ、詐欺だと主張していたようである。
殺害者は被殺害者に対してストーカー行為をしたなどとして警視庁から警告や接触禁止命令を受けている。
警視庁に対し、被殺害者は殺害者から受け取った金について「店の料金の前払い金」と主張した旨が報道されている。
元特捜検事は、本事件を単純なストーカー殺人事件と捉えることに疑問を呈している。殺害者の返金要求は法的に正当な要求だった。
この事件が単純なストーカー殺人事件とするのは適切では無く、正当な返金要求に対し、警察の対応が「冤罪」だった可能性が元検事の前田恒彦氏により指摘されている。
私がこの事件で主張したいことのほとんどは書かれている。
「前払金」の未利用分は残っていたはず
殺害者は2021年(令和3年)11月15日および同年12月16日にバイクと車を売却した旨、インスタグラムに投稿している。
同年12月には被殺害者が殺害者を通報しているようである。
1,000万円をいつ渡したのかは不明だが、車とバイクの売却後と考えれば1ヶ月足らずで通報と出禁である。
上野のガールズバーの相場を調べてみたが、下記サイトで値段が明らかなのだと高くても1万円いかない程度の模様。
女の子用のドリンクを別としても1回10万円はいかないと思われる。
1,000万円の前払金を使い切るには100日、約3ヶ月は必要ではないか。
そうなると前払金のうち、未使用金がかなりあると推認される。
「前払金」であれば被殺害者と殺害者の関係は「事業者」と「消費者」である。未利用分の前払金は返金しなければならない。
被殺害者はガールズバーの経営者であるから「事業者」である。そして殺害者から受け取った金を「前払金」として受け取っているのだからその関係は「事業者と消費者」である。
消費者が事業者とした契約であれば消費者契約であり、消費者契約法の規制対象である。そして消費者契約法では消費者に一方的に不利な契約や条項を無効としている。
当然、前払金の未利用分を返金しないという、消費者が一方的に不利な契約は無効である。よって前田氏が書いたように、未利用分は原則として返金しなければならない。
被殺害者は殺害者に対する返金を交渉すべきだった。
被殺害者は殺害者から受け取った金を「前払金」と認識していたのだから、出禁にした時点で未利用分を返金をすべきだった。
1,000万円の「前払金」返還請求なのだから弁護士に相談するのは大袈裟でもあるまい。
BtoCの事業者を顧客としている弁護士なら消費者問題を専門にしていなくても消費者契約法は把握しているだろう。
というより一般的な民法の問題かもしれない(筆者は法律の素人であり、民法を含む法律一般の話がわからない。医療や消費者問題などの特定の法律を知っているだけである。前田氏は民法の一般論(債権論)でコメントしていると思われる。)。
「前払金」を受け取っていたとして相談した時に、未利用分の返金を(裁判所に提訴されるまで)しなくて良いと回答する弁護士はいないと思われる。
被殺害者が弁護士に相談しているかどうかは不明であるが。
国民生活センターのADRや東京都消費者被害救済委員会により、未使用分の払い戻しが成立した事例
独立行政法人国民生活センターには紛争解決委員会というADR(裁判外紛争解決手続)機関がある。
これで解決した事例には後掲(長いので)のように、整体の回数券を購入して、未使用分の払い戻しが受けられた事例も存在する。
また東京都消費者被害救済委員会ではパーソナルトレーニングの未使用回数券の払い戻しで解決している。
48回、約30万円のプランを契約したが、14回目のトレーニング時に腰を痛め、医師からも辞めるように言われたので解約と返金を求めた事例である。
とのことである。それで同ページには
と記載されている。
繰り返しになるが、消費者に一方的に不利な契約等は消費者契約法で無効なのである。
警視庁は殺害者に対し、消費生活センターに相談するように勧めるべきだった。
警視庁が被殺害者から、殺害者から受け取った金を「前払金」と主張されたことは報道のとおり。
それなら消費者問題と判断して、殺害者に対して消費生活センターに相談するように勧めるべきだった。
さすがに東京都消費者被害救済員会の存在まで知っている警察官は少ないだろうが、消費生活センターぐらいは知っているだろう。
行政機関である警察に、行政同士の連携を求めるのは過剰な要求だろうか。
警視庁も悪質商法への注意喚起を行なっているわけで。
殺害者が被殺害者に対する恋愛感情や、恋愛感情に基づく怨恨が有ったかどうかの判断は難しく(金銭に関する怨恨はあるわけで)、警視庁によるストーカー認定が誤りだったとは現時点では判断しにくい。しかし金銭の問題は放置され、ストーカー扱いされたのでは殺害者が公的機関に頼ることはできず、自力救済しかないと追い込まれるのは心理としては理解できる(正しいとは言ってない。)。
今回の殺人事件は被殺害者および警視庁による不適切な対応が原因ではないか
そんなわけで、被殺害者の主張を前提としても、被殺害者は殺害者に対し、未利用分の前払金の返金義務がある。
前払金の返金交渉をしていたとか、一部を返金したという報道は本記事執筆時点では確認できていない。
未利用分の前払金の返金すら拒んでいるのでは悪徳業者と言われても仕方あるまい。
警視庁も、正当な返金要求をしているにもかかわらず、殺害者をストーカー認定して逮捕や接触禁止命令を出しているわけで。
それがやむを得なかったとしても、消費生活センターや法テラスを紹介するなど、返金請求に適切な機関の紹介をすべきではなかったのか。
国民生活センターADRによる整体の回数券に関する事例