東アジアの奇跡 – ヒップな台湾ガールズを探せ!3/4
僕は便器に顔を突っ込んでいた。
またこれだ。はっと我に帰ると床にひざまずき両手で便器にしがみつき、便器に顔を突っ込んでいる自分に出くわす事がたまにある。
ひざまずいたのを後悔する程ゴミと汚物で汚れた汚いトイレ。大理石の床のパウダールーム付きの広い綺麗なトイレ。隣で同じようにひざまずいている人の姿が見える扉が下反空きの狭いトイレ。様々なトイレでこうやってひざまずいてきた気がする。
はたして人生でもう何度目だろうか。多過ぎて数える気にもなれない。こうして何かを乞うように便器にしがみつき、ひれ伏している自分は一体何なのか。僕はもしかするとトイレの神様に大きな貸しがあるのかもしれない。
「頭が痛い、、、、。」
一体僕に何が起きたのか。一体ここは何処なのか。僕の腕の中には真っ白な新品のような便器。その便器の下には美しく磨かれたタイル貼りの床が見える。どうやら僕はどこか綺麗な建物の中にいるらしい。
少し記憶を巻き戻してみる事にしよう。
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夜の台北の街はコートが必要なくらい風が吹いていた。
台北101の駅を抜けると色鮮やかなビル群が目に入った。そこにはATT4FUNという巨大なショップやレストランが多く入る複合商業施設がある。そこにはクラブが4〜5件ほど入っているとの話だ。そこに隣接するビルにも数件クラブがありとりあえずそこに行けば何か面白いイベントが必ずあるよとの情報を事前に得ていた。僕らは胸に微かな期待を秘めて、日中では考えられないほどの冷え切った風に身を縮めながら早足にそのビル群へ向かった。
ATT4FUNのビルに着くと、平日にもかかわらず若者でごった返していた。コンビニの前でヤンキー坐りしたむろしている大声で笑う男達。数人で腕を組み風を切って歩くSEX&CITYのような女の子達。赤ら顔でビルになだれ込む男女のグループ。それに欧米人の姿もちらほらと。今日は平日なのにも関わらず週末の東京のクラブ街のような風景を目の当たりにした。
僕と友人は辺りの様子にあっけにとられていた。その若者達の多くは台北の昼間の街中で見る事のなかったようなエッジの効いたファッション、メイクに身を包む人々の姿だった。昼間の台北の街で見た、おさげの眼鏡っ娘の姿なんて人っ子ひとり見当たらない。それは、一体台北の何処に隠れていたのだろうかと思うほどの数で、まるで祭りが始まるかのような賑わいがある。そしてその若者達の群れは引っ切り無しにどんどんビルの中へ入っていった。
僕と友人は足早に入り口に近寄りどんなイベントがやっているかを確かめようとした。しかし中国語で書かれたポスターからは一体中でどんなイベントがやっているかは一切読み取る事はできない。エントランスの兄ちゃんやセキュリティのいかつい黒人に聞いても
「EDMだよ。ヒップホップもやっているよ。」
とか皆同じよな答えで何が良くて何が悪いかなんて見当もつかなかった。
僕らは基本的にテクノミュージックが好きなのだが、僕らの好みの音楽はないらしい。僕らが入り口付近であーでもない、こーでもないとしばらく思い悩んでいるとエントランスにいる兄ちゃんが大事な事を一つ教えてくれた。
「基本的にどこのクラブも再入場可能だから覗いてみれば?」
僕と友人は顔を見合わせ意を決してその提案をしてくれた兄ちゃんのいるクラブに入る事にした。この際ジャンルなんてどうでもよかった。台湾の"今"を見たかった。盛り上げっているのはどんなイベントでどんな人達がいるのかを知りたかった。エントランスは日本円で1500円ほど。気に入らなければ店を変えればいい。僕らは颯爽と階段を降った。
フロアに着くと中は外の賑わいほど盛り上がってはいなかった。音楽はチャラめのEDMが中心で別の部屋ではヒップホップもやっているようだ。雰囲気的に六本木にあるチャラいクラブに近い感覚だ。
しかし不思議なのが全体の箱の大きさに比べてやたらにダンスフロアが狭い。そのフロアを囲むように大きめのソファーがかなり数置かれている。これは日本にもあるVIP席のようで、早くもそのVIPを陣取っている輩がちらほら見られる。これからの盛り上がりを待つかのようにゆっくりソファーに腰掛けお酒を飲みながら談話をしていた。
あまり盛り上げっていないフロアを横目に僕らはお酒でも飲んで様子を見る事にしてバーカウンターに近づた。そこで二人でジントニックを頼み乾杯しようと財布からお金を出そうとすると、バーテンダーがそれを突然引き止めた。
意味が分からず「What ’s up ? いくら? なんで?」としつこくお金を出そうとする僕を見つめてバーテンダーは驚いた顔で呟いた。
「何を言っているんだ。飲み放題だよ。チップならもらうけどね。」
僕らは二人ギョッと顔を見合わせ絵に描いたように驚いた。世界中の何処のクラブに飲み放題なんてシステムがあるのだろうか!?ここは一体何なんだ?
話を詳しく聞くと、どうやらこの辺りのクラブの多くは飲み放題システムを取っているらしく、その代わりに席を多く用意し、席代として別に請求する。だからその辺で立ちながら飲んでいると、通りすがりのスタッフがそこに座らないかと勧めてくる。それでもその席は決して日本のクラブのVIP席みたいな法外な値段ではない。割と何人か友達集まれば気軽に払える金額だ。
世界は広いと僕らは二人はまじまじとその話を聞いて納得した。
しかし僕らはそんなソファーにまったり座って酒を飲む嗜好はなかった。こんないまいち盛り上がっていない場所でウダウダ酒を飲むつもりはさらさらなかった。さらに言うと僕らは恐ろしくお酒が弱かった。そしてジントニックを飲みながらいまいち盛り上がりに欠けるフロアを横目に見ながら僕と友人はある同じ一つの結論の達していた。
「この際この辺りのクラブ全部覗いてみようぜ。」
僕らは意気揚々と階段を駆け上がり再び賑わいの広場に顔を出した。
時計の時刻はもうすぐ0時になろうとしていた。
台北の夜は始まったばかりだ。
つづく、、、。