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東アジアの奇跡 – ヒップな台湾ガールズを探せ!その4/4


僕らはいまいち盛り上がりに欠けるそのクラブから足早に立ち去り次の行き場所を探した。クラブの外に出ると入る以前よりも多い人だかりが見える。その多くはどうやら隣接するビルの1Fの入り口に長蛇の列を作っているようだった。

「入場するまでには一時間近くかかるかもしれない、、、。」

列の最後尾に並ぶ男性は嘆き顏で僕らに教えてくれる。

この人気のクラブは入場制限をしていて少しづつしか客を入れていないようだ。平日にこの行列ぷりは有名なDJでも来ているのだろうか。

寒がりの僕らは、寒空のしたこの行列の最後尾に並ぶ気にもなれず、その列を横目にもう一軒奥のビルのクラブに行ってみようとその行列を抜けた。隣接するビルにもクラブが4〜5件入っている。この列を作る人気クラブは間違えなさそうだから最後に来ればいい。それが僕らの考えだった。

僕らの胸中はいつの間にか、"クラブに行く"というのを超えて"この辺りのクラブを片っ端から見る"というゲームに変化していた。

それはいつもの悪い癖だった。僕ら二人が揃うとすぐゲームを始めてしまう。スーパーマリオのやり過ぎか。ゲームを世代の宿命か。

僕らは隣接するビルの最上階を眺め、一番上から攻めて行こうとエレベーターに飛び乗った。


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この扉は何軒目だろうか、、、、。

気がつけば、先ほど入ったビルの中にあるクラブもすべて突破し、スタート地点の長蛇の列をつくる人気のクラブがあるビルも最上階からさらに順番にクラブの扉を開けていた。

台北のこの辺りのあるクラブはどれも似たような感じで、基本的にEDMをメインフロアにして、サブフロアではR&Bかヒップホップを流している。

平日という事もあり、エントランスがフリーだったり、いくらエントランス料金がかかる違いはあるが、内装の雰囲気もどれもフューチャーリスティックな画一的なデザインで、新しい扉を開けても何処かで見た空間が広がる。

はじめはいくらかそのフューチャーリスティックな素敵な内装に目を見張っていたが、繰り返されるその似た空間にいつしか僕らは抜け出せないデジャブの中にいる感覚に陥り、もはや自分が何軒目の何処のクラブにいるかも失うような状態になっていた。


「僕ら何しに来てるんだっけ?」

二人は息を切らせながら顔を見合わせて立ちすくんでいた。どこも初めに入ったようないまいち盛り上げりに欠けるクラブばかりで、そこに長く滞在する気にもなれずに、僕らは退場と入場をひたすらひたすら繰り返していた。

外のあの賑わいは何だったのだろうか。あの多くの若者の数もこれだけの多くのクラブがあると人数も分散化され、どれもいまいち盛り上がりに欠けるクラブに成り下がってしまうのだろうか。平日のクラブはやはりこんなもなのか。僕らは2件目に入ったビルをも出て、意気消沈気味に振り出しの場所に戻った。

元の広場に出ると何か様子が変わっていることに気がついた。それは何だかと考えてみると、少し前まで長蛇の列をなし入場に一時間も要すると言っていたクラブの列が短縮さてるではないか。それは望みを失いかけけていた僕らにとって最後のチャンスだよと小招いているようにさえ思える。

もうこれが最後の望みだと小さな列に僕らは並び、エントランスで左手の腕に入場のスタンプ押してもらい地下に続く階段へ向かった。

入場と退場を繰り返した僕らの腕には、いつの間にか数多くのスタンプが押されていた。

色々な国や街へ旅をしていると、一歩その地に足を踏み入れた瞬間に直感に似たインスピレーションを感じる事がある。その場にある鼓動というか、土地の磁場というか、街の人々のエネルギーというか、何か分からないけどワクワクして、「あっ、ここ好きだ。」というあの感覚。そういうインスピレーションを感じた場合大体において、楽しい事が起こる。良い事が起こる。

まさにその感覚を階段を一歩、また一歩と降りる度に僕は感じていた。僕の友人もそういう感覚に長けている人種のようで階段を降りる度に「何か分かんないけどワクワクするな!」とすっかりさっきまでの疲れを忘れた顔をしている。まるで今日一軒目のクラブに足を運んでいるように。

僕らの予感は的中していた。今日見てきたクラブの中で絶対的に一番盛り上がっているではないか。フロア全体を一つの熱気が包み、そこにはある種のグルーブ感が生まれていた。

ここのクラブ他のクラブに比べ音質が格段にいいようで、それもそのはずフロアに置かれたどでかいスピーカーは最新のもの使っていた。そのスピーカーから出される音は、爆音にも関わらず音の粒子が細かいようで、音の一粒一粒が細胞に浸透していくような。それにレーザービームや照明も最新の機材のでフロア全体を色鮮やかに、色とりどりにリズミカルに刺し照らす。

街中のイルミネーションも見て思ったが台湾人の色彩感覚は素晴らしい。僕ら日本人にはない種類の色彩感覚を持っている。


でもこのフロアを包むグルーブ感はそれだけでは説明がつかない。


ダンスミュージックが好きな人ならグルーブ感が生まれる稀さは知っている思うが、フロアを全体を包むグルーブ感っていうのは正直腕の立つDJでも中々生まれるものではない。

DJが流す一点の隙のない音楽にフロアで踊る人の息と鼓動が溶け合うように絡み合い、妙な一体感と高揚感がフロアを包む。まるで大きな音楽のシャボン玉がフロア全体を包み込み、その中で音楽と僕らの鼓動と息が乱反射するような。リズムに合わせて人々の吐息と熱気が一つの空間を包む高揚感。フロアはそんな雰囲気に包まれ高揚していた。

僕らは正直EDMの音楽は好きじゃなかった。大昔にイビザ島で流行っていた音楽の焼き増しのような、そんな感覚をEDM僕らは抱いていた。それでも僕らはその場で高揚していた。フロアの高揚が伝染してしまったかのように。好きとか嫌いとかそんなの関係なく、ただ単純に、僕らはフロア全体の一つになりその一つである感覚に陶酔していた。ジャンルの垣根を越えた何かが其処にはあった。

フロアを見ると20代くらいの若者がエッジの効いたファッションやメイクに身を包み、自信に溢れた表情と佇まいで肩を寄せ合い踊っていた。彼らは皆一様にHOOD BY AIRやOFF WHITEなどのストリートファッションに身を包み、それが仲間の目印かにするかのように指し示す。

それはどこかで見た光景だった。

10数年前の東京のクラブで見たような、10年前ロンドンのクラブで見たような。大好きな仲間とフロアの一体感に包まれて、「世界の中心は俺たちだ!」と自信とエネルギーに満ちたその姿。彼らの姿といつかの時代の姿が重なった。

そういえば、いつの時代もそうだった。新しい価値観を、新しいカルチャーが生まれる時、決まってこういう奴らが中心に居た。何の疑問もなく、世界が自分を中心に回っていると信じる彼らのような奴らが。そんな彼らが放つ熱気やエネルギーは、人々を巻き込み重なって、このフロア全体を包むグルーブ感を生み出していく。

このグルーブ感の中心は彼らだった。

そんな彼ら自信と喜びに満ちた笑顔や姿は此処で新しい何かが生まれる気にさえしてくれる。「こいつらカッコイイな!」と僕は心の底で頷いた。

ヒップな奴らは此処に居た。

台湾はこの10年の間に鴻海、エイサーをはじめエレクトロニクス産業、ハイテク産業で大きく経済的発展を遂げていた。その10年の間に文化的(ファッション的)にもインターネットを通してグローバルスタンダードの価値観を得て、東京にも劣らないカッコイイカルチャーを作り出そうとしているようだった。むしろ此処にいる人々の表情や話を聞いていると数年の間に東京を超えていってしまうような気概さえ感じてしまう。

正直に言うと、僕は日本が、東京が東アジアで一番ファッションにおいてもユースカルチャーにおいても発展していると変なプライドを持っていた。「俺はジャパニーズだぜ。」そんなダサい事さえ思っていたかもしれない。僕の愚かなプライドは、とてもカッコ良くとてもオープンな彼らの人柄に触れる度に、脆くも崩れ去った。そんな糞ダサいプライドを持っていた自分に恥じらえさえ感じるくらいに。

経済的に豊かになった彼らは世界に興味を持ち、世界へ飛び出し、世界に多くの台湾を伝えるだろう。そして多くの人々が台湾に訪れることになるのではないだろうか。僕がこうして来たように。それほど今台湾は、台湾人は魅力的なのだ。

中国語を話し、英語、日本語を操り言語の壁を簡単に超えてしまう彼らは、もしかしたら日本なんかよりも大きな可能性を秘めているかもしれない。彼らと乾杯を交わす度にそんな嫉妬にも似た感情を僕は感じ始めていた。

気がつくと乾杯を交わす度に覚えさせられた数々の中国語を片手に「ウォーアイニータイペイ!(愛してるぜ台北!)」と叫びながら肩を組んでフロアを横断しいる僕らが居た。熱い奴らと可愛い女の子の乾杯にはすこぶる弱い。

そしてお酒にもすこぶる弱い自分達を忘れていた僕を待っていたのは綺麗な真っ白な便器だった。

「おかえり。」と言うかのように便器の蓋を開けてくれた綺麗なトイレの好意に甘えて僕は遠慮なく顔を便器の中へ突っ込んだ。

どうやらまたトイレの神様に呼ばれたようだ。

嗚咽をあげながら真っ白な便器に顔に顔を突っ込んでいる僕の傍のドアの向こう側から友人の声が聞こえてきた。

「大丈夫かー?そー言えば、なんか別の場所でもう一軒面白いクラブがあるらしいぜ〜。」

そのひょひょうとした楽しそうな声を聞いた僕は、無理やり口の何に自分の手を突っ込み胃の中の異物を一滴残らず綺麗に絞り出し、ドアを開けた。


「よし!次行こう!!」

僕らは景気づけにイエガーを一杯づつ煽り、風のような軽ろやかな足取りで台湾の寒空の中へ歩を進めた。



台北の夜は眩しい。

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