美人新妻は“目覚ましプロ”(超短編小説)
私は世界中の人々のみならず、宇宙人たちからも、幸せな奴めこのクソ野郎、と書かれた嫉妬のピンポン球を投げつけられているような気分であった。
私は高嶺の花だと思っていた会社のマドンナ、智美(トモミ)さんとお付き合いし、そして結婚することが出来たのだ。
太陽系からのバッシングなんて何のそのである。
そして、この日は結婚生活の初日である。付き合ってからは同棲はもとより、お泊まりすらした事もなく、文字通り二人で日付をまたぐことになる、記念すべき最初の日なのである。
「明日は、何時に起こせばいいの?」
就寝の時間が近づいた頃、ソファーで私の隣に座りながらテレビを観ている智美さんが、正面を向いたままそうきいてきた。
「七時半には家を出たいから、六時に起こしてくれると嬉しいよ」
「はい、分かりました。朝食のメニューは、起きてからの楽しみにしていてね」
「わん!」
私は、智美さんとの夫婦な会話に興奮してしまい、思わず人間を忘れかけていた。
「もう、大きなワンちゃんなんだから。じゃあ、先に寝るね」
智美さんはそう言うと、ソファーから立ち上がって寝室に行った。
(……よし、私も寝るとするか)
私は智美さんとは別の部屋に行き、布団を敷き消灯すると、明日の仕事に備えて眠りについた。
寝室は別々、私たちはピュアな夫婦なのである。
翌朝。「チリリン・チリリン・チリリン・チリリン・チリリン、チリチリチリチリチリ……」
私は目覚まし時計の音で目を覚ますと、閉じていたまぶたを開こうとした。
(……あれ、何かおかしいぞ。昨日、目覚まし時計なんてセットした覚えはないし、それにこの音……)
私は恐る恐る瞳を開いて、音のするほうを見た。
カーテンが開けられていて、窓から差し込む太陽光が眩しく、すぐには焦点が定まらない。
目が光に順応して対象物の姿が明確になっていくにつれて、私の頭の中は混乱していく。
「……智美さん?」
智美さんは、仰向けになっている私の横に立ち、胸の辺りで両手で握りこぶしを作りながら、脚を肩幅ぐらいに開いて重心を低くして、自分の発する声の調子に合わせて生まれたての子鹿のように、脚をカクカクと震わせている。
私は結婚生活二日目にして、この先の智美さんとの生活に絶望感を抱いたのであった。