あの日に向かって走れ! 走れ!(超短編小説)
夢は叶わなかった。高校サッカーで全国大会初出場を目指していた準帝王高校は、地区大会ベスト八で、三年生は高校生活最後の試合を終えることとなった。
選手たちは、グラウンドの上で泣き崩れた。当初は仲間というよりも、レギュラーの座を争うライバル心のほうが強くあった。
だが辛い練習、様々な難局を乗り越えていくうちに、いつしか部員たちは、心から信頼を寄せ合うようになっていった。
ただのチームメートから仲間となり、親友となり、家族と言っても過言ではないほどに、強い絆で信頼し合っていくようになった。
そんな三年間がこの日で終わったのだ。皆は控え室で、ユニホームから学校指定ジャージに着替えると、近くにある広場へと移動した。
到着すると三年生は横一列に整列して、その後ろに二年生、そして一年生と続いた。
部員たちが整列を終えると、正面に監督が立ち語り始めた。
あの、視聴者の涙腺を崩壊させる、有名な場面である。
テレビを観ている第三者が涙を流すのだから、現場にいる監督、部員たちは、嗚咽、嗚咽の嵐である。
そして、監督が最後の言葉を語り始めた。
「三年間、頑張り抜いた君たち、ここで過ごした日々を誇りに想い、生涯の宝として、この先の人生、自信をもって生きていって下さい。未来にどんな困難が待ち受けていようと、君たちなら必ず乗り越えていけると信じています。ありがとうございました! 三年生、この場をもって解散! あの日に向かって走れ!」
監督は、涙を流しながらそう言った。
それに対して三年生も、監督に向かって「ありがとうございました!」と、泣きじゃくりながら頭を下げて、次に体を反転させると、後輩たちに一礼した。
「解散! みんな、監督の最後の激励の言葉だ! あの日に向かって走ろう!」
キャプテンがそう言うと、三年生は泣き叫びながら、それぞれが別の方角に向かって走り出した。
「……えっ?」
監督と後輩たちは動揺する。
「……おまえたち、オレの言った“あの日に向かって走れ”を、いったいどのように解釈したんだ」
監督と後輩たちは、喫茶店でアイスコーヒーを注文したら、ポリバケツの中いっぱいに入って出てきた時のような、唖然とした表情をしている。
三年生部員たちは、自分が産まれた病院に向かって、それぞれに走り出したのであった。