取り乱す“スーパー吉原”(超短編小説)
私の名は吉原純也(ヨシハラ・ジュンヤ)。自分で言うのはおこがましいとは思うのだが、事実なのだから仕方がない。
私はバスケットボールの世界的な現役の名プレイヤーである。
バスケの本場アメリカのプロリーグで、六年連続で三ポイントシュートでの得点で一位を記録し、来シーズンでも記録の更新を狙っている。
そう、私は日本のみならず、世界中のバスケットボールを愛する者たちが認めるスーパースター、“スーパー吉原”なのである。
現在はシーズンオフであり、アメリカから日本に帰国していて、北海道旭川市の実家で過ごしている。
今はリビングのソファーに座ってテレビを観ている。
全国中学校バスケットボール大会の決勝戦の模様が放送されている。
『フリーになっている本間にパスが渡った、本間、スリーポイントシュート。決まりました」
男性アナウンサーの実況が部屋の中をこだまする。
『シューティングガードの本間は“スーパー吉原”の大ファンということでして、本日の決勝戦は、宝物である“スーパー吉原”のサイン入りのシューズを履いてこの大事な試合に臨んでいます』
(……そうだ、あの時の少年だ。私がシューズにサインしてあげたら泣いて喜んでいた子だ。大丈夫、君には“スーパー吉原”がついているんだ)
純也は握りこぶしを作って、テレビに映る本間に向けてエールを送った。
試合は終盤に差し掛かり、本間の属する中央中学は一点差で負けている。
残り時間三秒、本間は相手陣内に切り込んでレイアップシュートを決めようとした所で、相手チームの選手からファールを受けた。
本間には二本のフリースローが与えられ、二本とも決めれば奇跡の大逆転である。
本間は極度の緊張のためか一本目をはずし、そして二本目もはずしてしまった。
リバウンドを相手チームのセンターが取り、試合終了のブザーが鳴った。
中央中学校の選手たちはその場で泣き崩れた。
そんな中、本間の姿がアップされると、彼は“スーパー吉原”の直筆サインの入った右足に履いていたシューズを脱ぎ、“このクソが!”と言わんばかりに思いっきり床に叩きつけた。
「オレのせいかい! このクソガキが!」
スーパースター・吉原純也はソファーから立ち上がって、思わず声を荒げて取り乱してしまった。