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タイの報道を読む 転売ヤー大臣

最近トイレットペーパーやマスクがスーパーやコンビニなどで常に売り切れ状態だがネットオークションで高値で売られている状態が続いている。俗に転売ヤーと呼ばれる人々が社会に迷惑をかけて荒稼ぎしているようだ。「在庫管理に困りながら破産すればいいのに」と世間では思われている。しかしタイでは2億枚のマスクが中国に1枚14バーツ(約45円)で転売されていた。全てが出荷されたのかは知らないが関係者によれば「中国から注文があった」という。

このビジネスの頂点にいたとされるのがタンマナット農業・協同組合省副大臣(現在54歳)。暴露したのは有名FBページの「メム・ポーダム」。このページは管理者が「身の危険を感じて」閉鎖宣言をしたが、現在また新しい記事が投稿されている。下記リンクはマティチョンの「メム・ポーダム」の暴露を伝える記事。タンマナットの名前は無いが「閣僚側近が数百万枚のマスクを備蓄している」との旨が記されている。それはともかく何故身の危険を感じたのか。


タンマナット副大臣は1993年にヘロイン密輸でオーストラリア当局に逮捕され実刑判決を受けている。当時は別名で逮捕されたのだが出所してタイに戻ってから2度改名し「タンマナット」になった。元は陸軍大尉だったのだがタイの軍や警察が麻薬密売に関与しているのは公然の秘密。しかも元々タクシン派だった彼は2019年3月24日の出鱈目な総選挙で成立した軍事政権の与党第一党、国家国民の力党を「家族」と言い切り忠誠を誓っている。タイの政治は金権政治。麻薬マフィアもカネを積めば閣僚になれ、上納金を納め子分を養うために違法な商売に手を染める。

「メム・ポーダム」はそんな男の汚職を暴いた。身の危険を感じて当たり前なのだ。彼女にコネが無ければとっくの昔に逮捕され、行方不明になっていたことだろう。

新型コロナウイルス厳戒態勢のタイではマスク不足が伝えられ、商務省が国外輸出を禁じている。タンマナット副大臣は「私とは関係の無い者がやったことだ」と主張し、「メム・ポーダム」告訴の姿勢を見せた。だがネチズンは誰も彼の言うことを信じない。

2月23日に解党処分を受けた新未来党会派がタンマナット大臣補佐を含む6閣僚に対する不信任討議を議会内外で行い、同月28日に投票が行われた。対象になった6閣僚を記しておく。プラユット首相、プラウィット副首相、ウィサヌ副首相、アヌポン内務相、ドーン外務相、そしてタンマナット副大臣。全員信任票を得たものの、タンマナットの信任票数は6人中最低の269票だった。

そして国外転売目的のマスク大量備蓄の暴露。身内びいきのプラユット首相も困り果て、タンマナット副大臣と会わず、記者の質問にも渋面を作り答えず、「問題山積みで少し疲れた」と弱音を吐いた。

何故タンマナットが閣僚になれたのか。それは現国王の忠臣だから。こう書くと江戸幕府の話みたいだが、なにしろ諸般の事情でアメリカも「親米政権なら批判しない」という姿勢を貫いているタイ王国。どうしても江戸幕府化してしまう。

どんな「諸般の事情」があるのか興味のある方は上記NOTEを参考にしてほしい。ヘロイン密輸など麻薬マフィア関連についてはまた別にまとめてマガジンにしてあるがこのNOTEが読みづらくなるのであえてリンクは貼らない。ただお読み頂くと戦後のタイがアメリカと中国のパワーバランスの中で上手く立ち回ってきた様が分かるだろう。

しかし、「新型コロナウイルスは収束に向かっている」「マスクは余っている」と言われる中国に何故2億枚のマスク輸出が必要だったのか。中国の新型コロナウイルス感染拡大は止まっていないからだろう。国内生産も間に合っていないのだ。

タイでもマスク生産は全く間に合っておらず、医療機関が廃棄したマスクをいいかげんに処理し販売していた業者が摘発されるなど社会問題になっている。その状況下での中国へのマスク不法輸出。タンマナットは密売するものをヘロインからマスクに変えただけなのだ。これには政府側連立政権に参加していたタイ民主党から「泥棒の乗る船の櫂を漕げというのか」と脱退をほのめかす声が上がった。タイ民主党は戦後まもなく創設され、現存する政党の中で最も歴史が長い党。議員にも王族関係者など上流階級出身者が多くイサーン出身のプラユット首相と仲は良くない。最初はプラユット首相も「脱退するならすればいい」と啖呵を切ったが後に謝罪。

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