『緊張の緩和』に関するメモ
笑いが起こる法則として、『緊張の緩和』という言葉がよく使われる(『緊張“と”緩和』ではない)。これは、桂枝雀師匠が提唱した理論であり、この『緊張の緩和理論』『緊緩の法則』については、ちくま文庫から発売されている『らくごでDE枝雀』に詳しく解説されている。
枝雀 (中略)すなわち「緊張の緩和」がすべての根本なんですわ。はじめグーっと息を詰めてパーッとはき出す。グーッが「緊張」でパーッが「緩和」です。「笑い」の元祖ちゅうことンなると、我々の祖先が大昔にマンモスと戦うてそれを仕留める。戦うてる時はエラ緊張でっさかい息を詰めてる。けど、マンモスがドターッと倒れたら息をワーッとはき出して、それが喜びの「笑い」になったんや……とねェ。
要するに『緊張の緩和理論』、「人間の笑い」の根本は、緊張した状態が緩和されるときのホッとした気持ちや喜びにあり、全ての笑いのパターンは『緊張状態の緩和』で説明できるということ。また、枝雀師匠は、笑いには、知的な笑い「変」、情的な笑い「他人のちょっとした困り」、社会的・道徳的な笑い「他人の忌み嫌うこと」「エロがかかったこと」といった種類があると記している。
詳しくは、『らくごDE枝雀』を読んでもらうとして…。先日『のらくろ』シリーズを描いた漫画家・田河水泡著『滑稽の研究』という本を読んでいたところ、『緊張の緩和』に似た表現が登場していた。
『滑稽の研究』は2部構成になっていて、前半は哲学者が考察した滑稽(冗談・ユーモア)に関する記述の引用と解説、後半は『史料編』として、様々な芸能や文芸・絵画がどのように滑稽を捉え発展してきたのかという歴史が書かれている。内容が難しく、チンプンカンプンになりながらザーッと読んだだけなのだが、ドイツの哲学者・カントが『緊張の緩和理論』に近いことを述べていたことが書かれていた。
滑稽は、緊張した期待がとつぜん無に変わるときに起こる一情緒であり、自分自身の思考の過程の変化である
枝雀師匠の『緊張の緩和理論』とかなり似ている。神戸大学に入学するほどの学力を持っていた枝雀師匠なので、もしかしたら笑いを研究するうえでカントのこの記述も目にしたのかな…という気もするし、これをより発展させたものが『緊張の緩和理論』なのかもしれない。
※参考文献&備考
ちくま文庫『らくごDE枝雀』桂枝雀
https://www.amazon.co.jp/らくごDE枝雀-ちくま文庫-桂-枝雀/dp/4480027777
『らくごDE枝雀』は、枝雀師匠の落語の速記と、落語や笑いのメカニズムに関する対談が掲載されている。『緊張の緩和』の解説以外にも、枝雀師匠が考えた落語のサゲ(オチ)の4分類や、図を用いた解説、上方落語の代表的な話が4分類どれに当てはまるのかを書いた全リストなど、盛りだくさん。
講談社学術文庫『滑稽の研究』田河水泡
https://www.amazon.co.jp/滑稽の研究-講談社学術文庫-田河-水泡/dp/4062923793
『のらくろ』で知られる田河水泡先生だが、漫画家として活躍する前の時代に落語作家として活動されていた(新作落語『猫と金魚』が有名)。先日、神田の古書店をうろついていたら『田河水泡新作落語集』という本を見つけ、喉から手が出るほどほしかったが高かったので諦めた。
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