お笑いにおける本来の『天丼』〜浅草三大コント〜
「天丼」ってどういう意味?
お笑い用語の「天丼」というと、同じくだりを繰り返して畳みかけたり、前に出てきたくだりを忘れた頃に使ったりなど、同じフレーズを繰り返して笑いを取る手法として知られている。一方で、天丼の語源をインターネットで調べてみると、とある老舗天ぷら屋さんのホームページには「話が逸れるが、漫才やコントなどで、同じボケを何度も繰り返すことを「天丼」と呼ぶが、これは同じネタを並べるという意味の掛詞で、天丼には必ずエビが2本以上乗っていることが由来とされている。」と書かれていたり、「『天丼の出前が来ない』というボケを何度も繰り返すネタが語源であるという説」と書かれていたり、ハッキリとした詳細は出てこない。ということで、いろいろ調べてみたところ、天丼、そしてかつてコントの基礎とされていた『浅草三大コント』の実態が浮かび上がってきた。
現在は、同じフレーズを繰り返す手法として知られている「天丼」だが、1978年に出版された辞典『笑解 現代楽屋ことば』の「てんどん」を引いてみると
と書かれている。天丼は元々コントのタイトルであり、時代とともに意味が転じて現在の形になったようである。そして、いろんな芸談をまとめた自分のメモを見返してみるとこんな記述があった。
萩本とは、もちろん欽ちゃんかと萩本欽一さんのことである。これによると、浅草には三大コントと呼ばれるものがあり、そのうちの1つが天丼。そして他に、仁丹、丸三角というコントがあるとのこと。そうなると気になるのは天丼・仁丹・丸三角がどのようなコントだったのかだが、偶然「浅草三大コントについてはこの本に詳しく語られている」という記述を見つけた。キーパーソンはやはり萩本欽一さんだった。
浅草三大コント〜天丼・仁丹・丸三角(先後)〜
それは、萩本さんと作家の小林信彦さんとの対談本『ふたりの笑タイム』と、2018年に出版された萩本さんの著書『ダメなときほど笑ってる?』に書かれていた。ということで、天丼・仁丹・丸三角がどんなコントだったのかまとめていきたい。
天丼
まとめると、天丼は「やり方を教えるもののうまく伝わらず全くストーリーが進行しない」コントのこと。ワンシチュエーションでツッコミ続けるコントで、漫才ではあるがモグライダーさんのネタにかなり近い。
仁丹
仁丹とは1905年に発売された薬の名称で、パッケージにナポレオン帽を被った男性が描かれていることで知られている。オチに大きな帽子をマイムで表現し、「仁丹!」と正解を出すパターンもあったようだ。
また、コント55号のコント作りにも参加していた滝大作さんの著作『笑いの花伝書』によると、
とのこと。すなわち仁丹は、トリオで行うコントで、ツッコミ役とボケ役二人に分かれ、ボケ同士の意思の疎通がうまくいかず、その様子をツッコまれるという構成。そう思ってみると、たしかにトリオ芸人は、ツッコミ1人+ボケ2人というシチュエーションが多い気がする。ちなみに、滝大作さんによると、『仁丹』は、警官・八波むと志、ルンペン1・石田英二、ルンペン2・佐山俊二のものが最高傑作で、ネタ尺が30分を超えることもあったらしい。
丸三角(先後)
いわば、丸三角はコントの中で設けられたルールに引っ張られるという笑い。ルールにがんじがらめになって本来の目的を忘れてしまうという展開もあれば、ルールを極端に守ることでトンチンカンな振る舞いをしてしまうというものもある。ジャルジャルさんが『M-1グランプリ』で披露した『国名分けっこ』なんかもこの部類に入るかと思われる。
ちなみに、萩本さんは、東洋劇場からフランス座に出向していた時代に安藤ロールさんという人とコントをしていたとのことだが、初めて披露したコントは丸三角(先後)の変形で、メガネをかけているときは堅物でおどおどしているが、メガネを外すと性格が変わるというもの。この安藤ロールさんが、のちの相方・坂上二郎さんである。
(余談だが、この『丸三角』の詳細を見つけるまでにかなり時間がかかってしまった。)
まとめ
『ダメなときほど笑ってる?』によると、関東のみならず関西もこの「天丼・仁丹・丸三角(先後)」を基本としてお笑いを学んでいたようである。また、萩本さんよりも少し後の世代であるビートたけしさんから浅草三大コントについての記述を見たことはないので、萩本さんの世代で止まってしまった言葉なのかもしれない。
テレビでは常に新ネタを披露していたコント55号は、設定を決めて「これは天丼で」「これは先後で」など、アドリブでネタを行っていたらしい。また、萩本さんは上記では『マラソン』のネタを天丼として説明しているが、別では『先後』の例として説明しているなど、実際には当時から三大コントの要素を複合的に絡めながらネタが作られている。より複雑化している現代でこれらがネタ作りの役に立つのかどうかは全く分からないが、知識として覚えておいてもいいのかもしれない。いや、覚えておく必要もないのかもしれない。
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そんな高崎さんから、本物の仁丹をもらった。二日酔いの日に飲んでみたい。