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終わりの始まりを意識する~人生の転機を活かす”間(ま)”の存在

※誤って記事が削除されたため、2020年9月14日の記事を再掲致します。

人生には幾度となく転機が訪れる。
例えば、仕事やキャリアでは、就職、転職、転勤、異動、昇進などの転機が訪れるし、
人生では、卒業、学生から就職、結婚、子供、介護などの転機がある。

人生やキャリアの転機では、住まいや人間関係、生活習慣がガラっと変わる。
慣れない変化から、戸惑いや不安を感じ、心の乱れが生まれる。心理的なストレスが溜まる。
一方で、人間的な成長を促し、価値観を進化させる好機でもある。

前回は、日常生活の”余白”が創造性の高い価値を出すという記事を書いた。

(参考)「イノベーションは”余白”作りから~過剰努力の罠に陥らないために」


今回も同じく”余白”がテーマだが、日常的な余白ではなく、
人生やキャリアという長いスパンでの”余白”(トランジション:過渡期)に意識を向けてみたい。


モノゴトは「終わりから始まる」

僕が人生の転機を明確に意識するようになったのは、7年前、友人から紹介された一冊の本がきっかけになった。


著書のウィリアム・ブリッジズ氏の提唱する「トランジション理論」
人生の転機は「終わりから始まる」という考え方を紹介した本である。

一般的に、何か新しい事が始まるとき、人は”始まり”に注意をはらう。


しかし、トランジション理論では、
転機(トランジション)はまずは「終わり」を迎え、「混乱や苦悩の時期」を経てから、新しい事が「始まる」
”終わり”が最初にくる。

人間の転機は機械のスイッチのごとく、パチパチと切り替わってはいかない。

春に学校を卒業し、新しい会社に入社する場合、
社会的には3月31日に学生の身分は終わりを迎え、
4月1日には入社した会社の社員となり、新しい役職が付与される。

しかし、人間はその瞬間をもって過去を決別し、未来の時分に生まれ変わるわけではない。
機械のようにON/OFFが切り替わるわけではない。

9月1日で人事異動が発令された場合も、
社内の所属部署は8月31日に旧ポジションを離任し、9月1日付で新ポジションに就任する。
別の国に異動する人もいれば、関連会社へ出向する人、オフィスの別の階へ席を移動する人もいるだろう。

この場合も、人間の意識は同日をもって瞬間的に古いポジションに別れをつげ、新しいポジションを受け入れるわけではない。
徐々に時間をかけて変容していく。

詳しくは本を読んで頂くのが良いが、簡単にトランジション理論の要諦を紹介すると、

1.「きちんと終わらせる事」が重要。
新しいものや考えを手に入れるためには、何かを手放す、離れることが必要。
特に現代社会はスイッチやキーでスタートする世界に生きている。しかし、人間は単純なスイッチのように切り替える事ができない。

新しい考え方を許容するには、自分の思い込みや古い考えを捨て去り、過去と決別するのが先である。

2.何かが始まる時には、終わりと始まりの間に「ニュートラルゾーン(過渡期)」があり、ニュートラルゾーンとしっかり向き合う事が転機を活かすうえで最も重要。

ニュートラルゾーンとは、過去・現在の自分(BEFORE)と未来の新しい自分(AFTER)との間に挟まれた中途半端な状態である。
この時期は心理的につらい日々が続く期間でもあり、苦しく心の混乱を招くため、早く終わらせよう(早く新しい環境に慣れよう)としてしまいがちである。

しかし、このニュートラルゾーン(過渡期)こそが、内面と向き合い、じっくり考える局面だとしている。

3.徐々に受け入れる感覚を意識する。
新たな始まりはとても曖昧で徐々に始まる。新しい何かを掴むためには、十分なニュートラルゾーンを経て受け容れる状態を作る必要がある。

新たな始まりを経験する時に、その転機が大きいものであればあるほど、始まりは抽象的でぼんやりした流れの中から始まる。
変わりたくないという内面の抵抗や、周囲の反対もある。
新たな始まりは(ニュートラルゾーンを経て)変容の準備が整う事で生まれる。

というものである。

このリンクの【終わりは始まり】〜ブリッジズの理論〜 の説明を抜粋すると、

私はトランジションとは、芋虫が蝶になるまでの過程みたいなものだと思っています。

ある日、体の変化から、芋虫である自分の「終わり」を向かえたことを悟ります。そして、地面というフィールドを自由に這っていた自分を手放すという決断をします。地面大好きなのに。
やがて「ニュートラルゾーン」であるさなぎの期間を経て、自分はこれからどうなりたいのか、じっくり考えた結果、今度は地面ではなく、空という新しいフィールドで挑戦してみたいと考え、自分からさなぎを破って羽化し、蝶としての自分が「始まる」。強引ですが、なんか自分の中ではこのイメージがしっくりきました。笑

人間は蝶のような劇的な変化を遂げる訳ではありませんが、人間も思考のトランジションを経て、どんどん進化していく生きものなんだと思います。もちろん蝶で終わりでなく、その先も進化し続けることが大切です。

今、何かもやもやしていることがある方は、トランジションのまっただ中にいるのかもしれません。


終わりと始まりを意識する

「トランジション」理論に触れてから、人生の転機に意識を向けるようになった。
以前の考え方と、今の考え方を比較するようになった。

僕は毎年末に、3-4日じっくり時間をかけて、一年間を振り返る。
この振り返りの中で、過去5年間、2年間、そして直近1年間で、考えや価値観にどういった変化が起きたか?を意識し、記録するようになっていった。

定期的に続けると、より長いスパンのトランジションに気づくのがおもしろい。

例えば、2016年末に、「2015年までのxxxに終わりをつげ、2016年の前半のニュートラルゾーンを経て、2016年後半から新たなページが始まったな」と認識していたものが、

2018年末に見返すと、「2015-2016年に徐々に終わりを告げた事が、2016年-2017年の2年間をかけて消化していき、2018年の第一歩に繋がったんだな」と、2016年はまだまだニュートラルゾーンの真っ最中だったと気づく。


一例として、2013年に会社を辞めて起業してから現在に至るまでの起業・経営者の変容プロセスについて紹介したい。

①サラリーマン~フリーランス
会社を辞めてアフリカに渡航したのが2013年12月/2014年1月だったのだが、8年以上も勤めたサラリーマンの感覚が抜けるまで1年以上の歳月が必要だった。

一つ紹介すると、
サラリーマン時代は普通に仕事をしていれば、月末には銀行口座に一定額が振り込まれている。無駄遣いをしなければ、日々の資金繰りを気にする必要はなかった。

当然会社を辞めれば、収入は無くなる。当初は全く収入が無かったため、どんどん口座残高が減っていくストレスと上手く付き合えるまでに時間を要した。

会社を辞めたからといって、すぐにサラリーマン的な感覚から抜け出せるわけではない。
今から振り返れば、独立した事を受け入れストレスなく自然と振る舞えるまでに1-2年の時間を要した。


②フリーランス~自営業
半年ほどの調査を経て、人材育成事業を始めたのは2014年7月。

なぜ、この時期を経営者ではなくフリーランスと書いているのは、会社法人を設立したとはいえ、実態は自分一人で人材育成のサービスを提供だけに過ぎない。
当時は経営者の感覚でいたが、今から思えばフリーランスのより自由な状態だったと言える。

人材育成のサービスが増えていく中で、営業マンやトレーナーを雇い育てるようになっていった。
より会社経営者のマインドになっていったのだが、次の事業会社経営者との間の隔たりは大きい。

”自営業”という言い方が適切かは分からないが、私のやっていた人材育成事業は士業に近い。
メインのトレーナーは自分が行っていた。
初期の設備投資も必要なく、固定費があるわけでもなく、業務オペレーションがあるわけでもなく、プロフェッショナルな人材がサービスを提供する事業体だ。

社内の人材も正規雇用ではなく業務委託契約で、歩合制やスポットで手伝いをお願いする形態だった。


③自営業~零細企業経営者

人材育成事業が上手くいかず、貯金も底をついた。
諦めて会社を畳み日本に帰国する事も考えたが、諦めたくない気持ちもあり、何とか次の事業の種を模索した。

半年ほどの調査(や出稼ぎ)を経て、2016年5月、今の宅配事業CourieMateを始めた。
宅配事業の経営は人材育成事業の経営とは大きく異なった。
いわゆる小さな事業会社の経営者になった。

ある程度の先行投資も必要で、日々のオペレーションを回すスタッフ、ドライバーなど固定費も増えた。
宅配業務のオペレーションを作り、自分は日々のオペレーションを徐々に手放し、より経営全般や新規事業開発に重点を置くことになった。

自営業経営と比べて、先行してコミットする(先にリスクを取る。先に貢献する。先にGIVEする)重要性が一気に高まった。
固定費も増え、需要の浮き沈みも大きい中で、自転車操業の資金繰りを管理する。
なるべく日々のルーティンの作業から自分を切り離し、将来の方向性を考え、新しい種を模索し、形にしていく。

宅配事業の創業は2016年5月だが、いきなり経営者のマインドになるわけではない。
徐々に従業員が増え、社内のオペレーションが育つ中で、僕自身も失敗を繰り返しながら成長していった。
何とか半人前の経営者になるまでに創業から2年程度の時間はかかったと思う。


④零細企業経営者~スタートアップ的経営者

これまでは外部の資金を入れず、自己資金で自転車操業の経営をしていた。
大きな業態変化を夢見つつ、身の丈にあった事業サイズで小さく、倒れないような経営をしてきた。

2019年の初めから、外部の資金や経営的なサポートも活用しながら、新たな経営局面を迎いつつある。
堅実に日銭を稼ぎ、既存事業の収益を再投資してスケールするモデルではなく、
短期間で市場全体のゲームチェンジをするサービスを生み出すモデルへの変容である。
外部からの大きな資金投資をえて、数年間は巨額な赤字を出しながらサービスを作り上げ、規模を広げ、そして後から回収するモデルである。

この違いは、ビジネス戦略、事業計画、投資判断、日々の収支管理から人事判断、営業スタイルまで全く違う思考を求められる。
まだまだ、このトランジションの中にいる。


上記は、経営者としてのマインドセットの変容を例に挙げているが、
生活習慣、人間関係など、色々な変化を振り返ってみるとおもしろい。


ニュートラル期間を楽しむ

始まりと終わりを可視化すると、自分の考え方の変化の波が観測できる。
価値観の変容(トランジション)の流れが見えてくる。

「2年前はまだこんな考え方をしていたんだよなー。懐かしいなー。人間として成長したな―。」
「2-3年前はもがいていたな。そのもがきが今年一年の成長の糧になったのだな」
と捉えられるようになった。

以前、こちらの記事の中で、「価値観の変化の起こし方」について書いた。

上の記事では、価値観の変化を、どうデザインするか?が中心になっている。
では、実際に価値観が変化したとして、自分で気づくことができるのだろうか?

価値観のアップデートは静かに始まり、徐々に変容する。
意識しなければ、変化を認知する事は難しい。


しかし、終わりと始まりに意識を向けると、
年々、価値観がアップデートされている事に気づく。
一度の価値観の変化だけでなく、時系列で段階的にアップデートする様子が観察できる。
トランジションが人間的成長に大きな影響を与えていると、実感できる。

以前は、転機が訪れるたびに不安や戸惑い、焦りを感じる事もあった。
変化の過渡期(ニュートラルゾーン)には、「この先どうなるんだろう?」と心が落ち着かず、心理的なストレスを感じていた。

しかし、トランジションが与えてくれる成長の実感が積み重なるにつれて、
ニュートラルゾーンを無理やり早く終わらせようとしなくなった。

むしろ、幼虫からさなぎ、蝶になるまでの成長プロセスであると前向きに捉えるようになり、
「次はどんな成長があるのだろう」とワクワクして、前向きに迎え入れるようになった。

何かが終わる時も、それが自分の意思によるものでなくとも、自分の望まない外部の状況によるものであっても、
必要以上に落胆したり、抗ったりする事がなくなった。

強がるのでもなく、
「次のステップを踏み出すのに必要な転機だったのだな。」と自然体で受け止められるようになった。

成長には必ず変容のプロセスをたどる。
変化に伴う戸惑いや不安は成長に必要不可欠なものとポジティブに受け入れるようになった。

持続的な価値観の変化を促すために

連続的なトランジション(変容)のプロセスを実感すると、自然と「この先に何があるのだろう?」と将来に目が向く。

「私って、2年でこんなに考え方が変わるんだなー」
「僕って、半年だとこのくらいの変化で、2年だとこのくらいの変化、5年だとこんな変化になるんだな」

と過去や現在の変化が捉えられると、

「2年後には今よりもこれだけ成長するのかな?」
「5年も経ったら、どんな自分になるんだろう?」

と将来の成長を点ではなく延長線で捉えるようになる。

もちろん、上記の記事(どうして「視野」を広げるだけでは不十分なのか?~不確実性時代のキャリア志向)で述べたように、どんな価値観に変化するかはあらかじめ予測できない。
変容前に「将来、こんな考え方になっているだろう」と想像できた時点で、それは価値観の変化とは呼ばない。
今の視点、視野、視座の外にあるから、価値観が変わったと呼べる。


変化後の価値観を予測する必要はない。
ただ、流れで捉えた時に、私の価値観は流動的に変化しているのか!と実感することが重要に思う。

成長に応じて価値観は変わるのだから、今抱いている価値観に必要以上に固執する必要はない。


いま、まさに入学、就職、異動、転勤や転職の真っただ中にいる人。
慣れない新しい環境に不安な気持ちもあるだろう。


トランジションを意識すると人生の転機をポジティブに捉えやすくなる。
変化に抗わず、リラックスして自然体で受け容れるようになる。

僕自身もいま、人生の大きな転機の真っただ中にいるように感じる。
この機会に改めて自分のトランジションを俯瞰して、焦らずに次を迎える準備をしていきたい。


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Jun Ito
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