遠回りに見える近道を探して/大野微住:前編
文:伊藤 ゆか
冬の大野にやって来たのは、AJさんと、息子のハーハ君。
二人がやってきたことで、大野の熱い一角が、それまで以上に熱を帯び始た。
現在大野で微住に参加している「荒島社」メンバーは、大野市の中心の商店街にツイタチビルという拠点をもっている。(荒島社について詳しく知りたい方は、下のリンクを参照してほしい。)
400年以上前に大野城が築かれ碁盤目状の城下町が形成された市街地は今もその風情を残しており、北陸の小京都とも呼ばれている。しかしその市街地にある商店街も、シャッターを下ろす店が増えてきた。
荒島社は商店街を活性化するため様々な取り組みをしている。その中で彼らは微住に出会い、新たな挑戦を始めた。
今回やって来たAJさんは、建築家兼大学講師のBibiさんと「Booksite」という場所を台中でつくっている(上記リンク参照)。
大野チームが注目したのは、AJさんとBibiさんがリノベーションのプロフェッショナルだという点。また、台中というローカルなエリアに特化している点も大野と相性がいいと考えたそうだ。
荒島社メンバーは実際にBooksiteを訪れ、大野へ来てくれないかと話をして微住が実現することになる。
ちなみに取材をしていた伊藤は、AJさんに「どういう職業で紹介するといいでしょうか?」と聞き、「あえて言えば編集者だけれど、たくさんのことをやっているから、簡単には表現できない」と言われてしまった。(その後、彼の魅力の深さを徐々に実感していくことになる。)
AJさんはまず商店街を歩き、商店街で商売をしたり生活したりする人々と交流した。
台湾はリノベーションカルチャーの醸成が日本以上に進んでいる。
2002年に台湾政府は「文化創造産業発展計画」を打ち出し、文化に関する一連の政策を提案。政府がリノベーションを後押ししてきた。けれど政府の後押しだけが醸成が進んだ要因ではないだろう。
AJさんにリノベーションのお話を聞くと、「アーカイブ(歴史)」「軌跡(ストーリー)」をとても大切にしていることが分かった。
ただ格好いいものを作るのではなく、その建物と周辺地域を深く理解し、どのように利用するか編集するのが、AJさんのやり方だ。
そういったことを大切にしているのは、台湾が外からの影響を受け複雑な歴史を歩んできたからかもしれない。台湾の人々は、日本以上に自分たちの歴史やルーツを理解しようとしている。
大人たちが白熱した議論をしている中で、ハーハ君はちょっと退屈ぎみな時もあった。そうなると伊藤、ハーハ君を抱っこしてご機嫌をとりながら議論を盗み聞くことに。シッターとライターと、ついでに翻訳係を両立するのはなかなか難しい。特に翻訳は、専門的な話になっていくほどに脳みそがショートしそうだった。
商店街を見て大野の人々の話を聞き、AJさんが注目したのが「看板」だ。
シャッターを下ろした店が多いので、商店街にはもう使っていない看板も多く存在する。地域のアーカイブである看板をホステルの1階に設置することで、微住者と商店街を繋ぐアイコンにするアイデアが生まれた。
中編では、そのアイデアが実現していく様子を紹介していきたい。