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無謀な企て

学生時代、たまたまもらった美術館の入場チケットで、「ルネ・マグリット展」を観に行った。
展示会場の中は、不思議な絵であふれていた。
ルネ・マグリット)Wikipediaより


順路を進む私は、誰かの夢の中を覗いているような、そんな感覚だった。

ある絵の前で、腕を組みながら、「うんうん、うんうん。」と頷いている一人の中年紳士がいた。その絵をすごく理解できる、という様子だ。

無謀な企て


私もその絵を観てみる。「うーん、、、。」
会場全体の不思議でシュールな感覚はバンバン伝わってくるけれど、「理解できる。」とか「分かる。」とかいうところに、私はたどり着けなかった。
だけど、なぜか心にひっかかる絵だった。
その絵には、「無謀な企て」という題名が添えられていた。

そうして美術館を後にし、時が過ぎる。
その後たまたま読んだ本で知った。
ルネ・マグリットが生涯を共にした妻は、熱心なキリスト教徒で、ルネ・マグリットが一時所属したシュールレアリストは無宗教を推進していたことを。

それを知った時、あの絵の前で、紳士が納得の表情を見せていたことに合点がいった。

絵の中の男性はマグリットで、裸の女性=妻を描こうとしている。
裸の女性は妻そのものであり、それをマグリットが描こうとすることが、無謀なのだと。

マグリットは、決して自分の思想を妻に押し付けることはなかったのだろう。それが、「無謀な企て」であること理解し、生涯を妻と共にしたのだろう。

私も結婚をして、家族を持った。
ついつい、パートナーにも子どもにも、自分の考えや理想をあてはめそうになってしまう時がある。


そんな時はこの絵を思い出す。

それは「無謀な企て」なのだと。