U-18 Midway Review 2023
いろいろな紆余曲折があって、関西Jクラブで唯一のプレミア参戦チームとなってしまったヴィッセル神戸U-18。2022シーズンはサガン鳥栖U-18と最終節まで優勝を争ったが、残念ながら得失点差で2位となった。トップチーム昇格を果たした3名だけでなく、他にもシーズンを通してレギュラーポジションを確保してきた3年生が多くいたことから、スカッドの編成としてみるとちょっとしたピークかなとも。2種(高校年代)のチームは3年間で選手が離れていく前提のもとで育成サイクルを回しているのであって、翌年に戦力がガタ落ちさせないよう残った選手の成長を促すトレーニングメニューを与えるなんてのはチームを問わず当たり前のように取り組んでいることだ。
その一方で、15歳前後で圧倒的に優れた素材を「最短距離」で磨き上げるために出場時間を与えるなど優遇することで成果を最大化しようとする考え方のアカデミーも存在感を強めている現状がある。チームよりも個の成長であって、カテゴリは不問。そうすると目の前のコンペティションで勝ち抜いていくことの価値はどうしても低くなっていく。
プロ契約に値する優れた個を育てればいいじゃんという志向との相克は、プロに最も近いJ下部のアカデミーにとって、根源的に抱えるジレンマでもある。極端にベクトルを振ってるところは話題になって目立つけれど、ヴィッセルにだってないわけではないと思う。なんとかしてA代表を育てたいというクラブの悲願が、アカデミーの現場とは別にずっとある。
全22節のうち11節までを消化して夏の中断期間に入っていたプレミアWEST、ヴィッセルは5勝3分3敗の勝点18。得点15失点12。順位は4位。とにかくディフェンスが堅いけども、得点が少ない。上位チームのゴール数が28、22、25なので、いかに渋いスタイルでロースコアのゲームをモノにしているかおわかりいただけるかと思う。スコア含めて圧勝したのは第8節の神村学園戦5-0のみ。それも相手が連戦後の遠征で明らかに疲労していたという側面は否めない。勝つとしたら僅差。昨年もそういう傾向があったが、今年は特に顕著に出てしまっている。
まずは才能に見合った規律を求め、チームディフェンスの構築から入る安部監督の志向が反映されているように思う。守備を多少おろそかにしてでもゴールを奪って勝たせれば解決という姿勢を評価するようなカルチャーがないので仕方がないとも。そういった風土的なことからすると、3年生が右SBの本間ジャスティンだけで、他3枚は下級生を起用した4バックでここまで失点を抑制できていることにディフェンスの素材が途絶えないヴィッセルらしさをめちゃくちゃ感じざるをえない。
特筆すべきは1年生ながら正GKを務める亀田大河だろうか。サンフレッチェにアウェイで0-3の敗戦を喫した次の第4節から起用されると、シャープなキックとボールコントロールという強みを活かしてポゼッションを好転させた。何より彼の課題だったシュートストップが明らかに上達したので、U-18の強度でトレーニングするって成長につながるんだなあと改めて痛感。代表での刺激もあるだろうけど。
リーグ戦に限らず、勝った公式戦を振り返ると、亀田のスーパーセーブと2年生でトップのトレーニングに招集される山田海斗の高さでなんとかしている面も強い。それでも、ディフェンスは間違いなく強みだ。
チームを牽引する10番主将の坂本翔偉は、2年生から物怖じしない態度で、3年生に遠慮せずゴリゴリとシュートチャレンジにいく野心的なスタイルが魅力的だった。3年生となった今シーズン、例年よりも人数が増えたチームをまとめ、昨年以上の成績を残そうとしているなか、ことピッチ上については悩みが多いようにみえる。去年はトップ下あるいは2トップに近い並びで前線から獰猛にプレスし、ゴールに近いポジションで得点に絡んで存在感を高めてきたが、今年は中盤2枚で試合をコントロールする役割を負っている。2年生の今富輝也か1年生の藤本陸玖と組み、トップ下で潰されずにボールを運べる1年生濱崎健斗やFW3枚と連動して、主軸としてチーム全体を動かす仕事。とにかく自分が獰猛な個であり続け、周囲に特長を活かしてもらえた去年のサッカーとはやはり違う。
第11節のアウェイの静岡学園戦では、ボランチだった今富のパスミス、そして坂本のボールロストからそれぞれ失点してしまい0-2で封殺された。ゴールの匂いがする時間帯もあり、決して圧倒され続けたとは感じなかったが、パスコースを選び出す冷静さを失ってしまい、相手のプレスを浴びる2人のプレイが気になった。首位を走る静学の強度とプレスの成熟度が高いという証でもあるだろうから、だからダメだということではないけども、彼らを乗り越えないと昨年以上に届かないのもまた現実。8月に開催された和倉ユースではゴールを重ねてMVPを獲得するなどチームを優勝に導く立役者となった坂本主将が、残りの公式戦でどういうタクトをふるうか注目してほしい。
433を基本フォーメーションとするヴィッセルにとって、前3枚の人選は難しい問題。昨年のワントップは昇格した冨永虹七が不動で2桁得点を挙げたエースだったが、今年は3年生のスピードスターの9番有末翔太と、まったくタイプの異なるポストプレイヤー渡辺隼斗との併用が続いてきた。渡辺は1年生ながら体格に優れ、ボールを懐に収めるスキルがあるが、持久力やアジリティでは先輩に及ばない印象。チーム全体のプレスの調和を維持するという点では有末の貢献が明らかに高いけど、相手の最終ラインと真っ向勝負するという点では渡辺を起用する方が効果的。
対戦相手や試合の流れによって方針が変わるとはいえ、3年生が先発でゴールチャンスを活かせなかった分、若い1年生が徐々に出場時間を延ばしていくという大きな流れは間違いなく感じる。出場時間を与えるならより若い下級生に、ということだ。
実際にはワントップのひとりをどうするかで決めているわけではなく、左右のウイングとの関係性、ユニットとしての期待値なども加味されるだろうから、右ウイングでポジションを確保した11番田中一成や7番の高山駿斗、左でポジションを争う2年生の吉岡嵐、馬力のある森田皇翔といったタレント、1年生の大西湊太や瀬口大翔などのスキルとアジリティを兼ね備えた選手がスタメンを争っていくことになると思われる。
やはり、1年生を多数Aチームに抜擢してこれまで継続していることがトピックと言えるだろう。やるべきことの理解を深めた上級生を中心にチームを組み立てていくのではなく、U-15所属の昨年末に冬の全国大会を制したとはいえ、1年生たちのドラスティックな起用に踏み切ったのは、安部監督にとってはかなり野心的なプロジェクトだったのではないだろうか。
これほど多くの1年生をAチームに抜擢するのはヴィッセルアカデミーの歴史で初めてのはず。それも、プレミア開幕前のテストマッチでのお試し的な起用で終わらず、体格などのウィークポイントも受け入れてシーズンインしたことにも驚いた。個人的にはどこかで見切りをつけて上級生による安定を採るんじゃないかと想定していたから。しかし、プレミアの水準でも通用するはずと決断したわけで、彼らを成長させるべき素材だと評価したのだろう。
ここから優勝を狙うなら、残り11試合で勝点2.0ペース、つまり40超えは最低目標。ちなみに去年は43で得失点差勝負だった。勝点22以上を積み上げるために、どれだけゴールを増やせるかがカギを握る。濱崎や渡辺といった下級生の勢いか、それとも高山や有末といった上級生の意地か、それとも別の誰かの爆発なのか。9月、10月と予定されている九州4チーム(東福岡高、鳥栖U-18、大津高、神村学園高)との対戦はすべてアウェイ開催。応援する方も大変やっちゅーねん。でも愉しいぞ。というわけで、まずは第12節。ヴィッセル神戸U-18の2023シーズン後半戦は、横浜FCユースとのホームゲームで幕を開ける。