彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.20
著 / 山 田 徹
第四章 ラリーを主催するということ
その十一 緊急手術
「緊急連絡だ」
ウランバートルを任せた鹿児島のドクターからだった。
「血圧がゼロだっ、緊急手術をしたいのだが、誰が判断するのか」
「なにを言っているのですか、判断するのはあなたでしょ」
「最高責任者の君が、そんな物言いでいいのか」
「手術が必要かどうかの判断は、自分には出来ない。あなたの判断で必要と思うなら、手術をする、とそう言ってください。そうすれば、その判断を支持します」
「ここに来い」
「行けなくはない。しかし行ったところで、自分があなた以上に出来ることはないのだ。それに最前線を放棄することのほうが危険でしょ」
「誰にものを言っているんだ。何様のつもりだ」
「冗談みたいな話はやめてくれ、よく聞け、この大会の責任者が医療部門と話をしているのだ。問題は各部署で解決しなければならない。この部分においての解決手段は、今そこにいる者の判断に頼るしかない」
「人の命がかかっているんだぞ」
「だから、こちらからも言う。あなたの判断をボクの判断だとする。でいいでしょ。だいいち血圧がゼロになった負傷者がいて、どうしてこの二人が電話でこんな話しをしてなきゃいかんのか」
受話器を投げてしまった。まわりで成り行きをオロオロしながら見ていた本部のスタッフが、受話器に飛び掛った。
「やめてください、この電話が壊れたら、どうするんですか。そんなことより尾崎さんはどうなんですか」
「血圧がゼロだと」
「と言うことはどういうことですか」
「ほとんど生きていないという状態だ」
「SOSのメディカルジェットはどうなっているのでしょう」
「シンガポールは出ているはずだ」
「北京で給油ですか」
「日本で給油してくれていることを望むよ。北京空港は、公安のコントロール下にあって不定期便への給油など、そうスムースに行くものではないのだよ。下手するとビザまで要求されるはずだ」
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