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いつしかセンタースタンドは消えた - エンデューロ日記 No.40
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昔話をします。1990年代の初頭まで、エンデューロバイクと言えば、センタースタンドがついたものが多くありました。日本には、トレールバイクやモトクロッサーというカテゴリーはあったけれど、エンデューロバイクという考え方はなかったので、「オフロードバイクにセンタースタンド?」というと、珍しい感じもしますし、なんでそんなものを、と思いますよね。でも、KTMもハスクバーナも、欧州のいろんなメーカーでもエンデューロバイクにセンタースタンドというのは、割合、普通でした。KTMでも、確か、1991年モデルまではセンタースタンドがついていたと思います。ぼくの記憶では、tmレーシングのエンデューロモデルが、2000年頃までセンタースタンドを装備していたような…。と思いあたって当時の広告写真を見ると、確かに2000年モデルでもセンタースタンドが付いています。tmレーシングはイタリアの比較的小さなメーカーですが、物づくりに対する姿勢は通りいっぺんではありません。他のメーカーよりずっと長くセンタースタンドをやめなかったのも、一種の譲れない理由があったのではないかと、今にして思います。
バランシングスタンド、という言い方をする人もいました。前輪を外すとリアタイヤが接地し、後輪を外すとフロントタイヤが接地するような重量バランスになっているわけです。
エンデューロというのは、かいつまんで言うと、自分の力で走り続ける能力を試す競技です。ライダーは、最低限のスペアパーツ、ウエストバッグに詰め合わせた工具を頼りに、長く、困難な道程を乗り切ります。例えば、パンクしても、素早くチューブを交換して、また走り出さなければならない。エンデューロでは、あらかじめチェックポイントに到着する時間が分単位で決められています。パンク修理に10分もかかっているようでは、たちまち指定時間に遅れて、ペナルティを食らってしまう。今では空気入りのチューブに代わって、パンクしないムースが主流ですが、かつてはどのライダーも必ず、1本以上のスペアチューブを持って走っていたのです。そこで威力を発揮するのが、センタースタンドでした。熟練のエンデューロライダーたちは、ものの5分もあれば、切れたチューブを引っ張り出して新しいチューブを入れ、ホイールを組み付けて再び走り出すことができました。
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BIGTANKマガジンは、年6回、偶数月に発行されるエンデューロとラリーの専門誌(印刷されたもの)です。このnoteでは、新号から主要な記…
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