彼方へ - Go Beyond - 連載 Vol.25
著 / 山 田 徹
第六章 最終章
其の一 シベリア強制収容所
二〇〇二年六月。
むし暑い日だ。ボクは成田空港にいた。ラリーレイドモンゴル八年目の試走に出発するのだ。この大会で、ひとまずモンゴルでの開催を打ち切る事にしていた。最終章だと、心に決めていた。決めてからの喪失感は大きかった。なにか自分の大切な人生のひとかけらが、砂に埋もれていくような感じがした。
「ここまで歩いてきた道のりは、大変だったけど、充実していた。失ったものは多かったが、得たものも少なくない。見えるものを失ったけど、目に見えないものを手に入れたって感じだ」
そんな風に感じながら、空港ロビーで行き交う人々を眺めていた。今回は二人のご婦人が同行する予定になっていた。大きな荷物を持った女性が二人、待ち合わせの場所に現れた。一目でそれとわかったのは先方らしく
「はじめまして、このたびは大変厄介なお願いをして申し訳ありません。こちらは娘です。どうかよろしくお願いいたします」
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