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Jordi Viladoms Dakar rookies Training 「ジョルディのラリースクール」- No.236より

生まれつきラリーの才能を持っているライダーはいない。レッドブルKTMファクトリーチームの監督、ジョルディ・ビラドムは断言する。だから勝利を目指すトップライダーも、初出場での完走を目指すアマチュアも、すべてのライダーに「学習」が必要なのだと。スペインで開講している彼のラリークリニックに潜入しその詳細を調査した。


「生まれつきラリーの才能があるライダーはいない。だからすべてのライダーは学ぶ必要がある」というのがジョルディの信念だ

「生まれつきラリーの才能があるライダーはいない。だからすべてのライダーは学ぶ必要がある」というのがジョルディの信念だ

最新のイリトラック、GPSでレッスンを受けることができるのだ

最新のイリトラック、GPSでレッスンを受けることができるのだ


ラリーステーション

 クロスカントリーラリーへの挑戦は誰にとっても大きな冒険に違いない。未知なる世界への扉を開くこと。レッドブルKTMファクトリーラリーチームのマネージャー、ジョルディビラドムが主宰するラリークリニックは、そのための正しいアプローチのひとつだ。
 ジョルディがその役目を担っているのは特に不思議なことではない。彼は長くKTMファクトリーチームのラリーパイロットとして活躍。2014年には、マルク・コマに続く2位でダカールを走り切ったベテランだ。重要なことは、彼がコマと同じくISDEライダーでもあり、ラリーではウォーターキャリー(トップライダーのクイックアシスタンス役)から叩き上げたライダーで、すなわちラリーの裏表を知っているということだ。その経験は、ラリーのルーキーに多くのノウハウを伝授する役目にふさわしい。
 2020年には、初めてラリーに参加するダニエル・サンダースにラリーのすべてを教え込む役割を引き受け、ダカール初参戦にして総合4位という快挙につなげることに成功した。ジョルディはまた、スペイン北部を拠点とする「Viladoms Rally Station」というクリニックを運営。ラリーという複雑なスポーツのあらゆる側面を理解したいライダーにとって貴重なリソースとなっている。
 「生まれつきラリーに適応した能力を持っているライダーはいない」とジョルディは考えている。すべてのライダーが、それを一から学び、身に着ける必要がある。「ラリーはモータースポーツの中でももっとも予測困難な要素が多く、ライダーを困難に陥れる可能性に満ちている」。
 ジョルディのクリニックはダカールに参加しようとしているルーキーに必要なことを、基礎から教える。それはどんなライダー、どんなラリーにも通用するものだ。


ラリースクールは不可欠だ


 「ラリークリニックは特別なリザルトを求めたり、特にラリーに不向きな人のためにあるのではなく、すべてのライダーが受講すべきものだと私は考えています」とジョルディは断言する。「ラリーにはみなさんが知らないことがたくさんあり、知らないと危険なこともたくさんあります。最初のラリーはいろいろなことがうまく行かず、ストレスが溜るものです。だからこそ想定可能なあらゆるシナリオを立ててそれに対処する方法を学ぶ。その後、よりストレスが少なく、リラックスして実力を発揮できるラリーがやってくるんです」。

2014年、ダカールで2位となったジョルディの勇姿

2014年、ダカールで2位となったジョルディの勇姿

ジョルディ・ビラドム。長くKTMファクトリーライダーとして活躍。ダカール最高位は2位。現在KTMラリーチーム監督

ジョルディ・ビラドム。長くKTMファクトリーライダーとして活躍。ダカール最高位は2位。現在KTMラリーチーム監督

ジョルディがライディングしたファクトリーマシンの部品が…

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ロードブックは世界基準であるとはいえ年々アップデートしているので常に最新の情報を入手しなければならない

ロードブックは世界基準であるとはいえ年々アップデートしているので常に最新の情報を入手しなければならない


そのバックグラウンド

 彼のラリー経験は、同名の当時のトップライダー、ジョルディ・アルカロンスのサポートライダーとしてスタート。その後、多くのラリー経験を通じ、彼はラリークリニック設立の必要性を強く感じることになった。それは、現役のライダーを引退し、リッドブルKTMチームのマネージャーに就任し、自由な時間ができたことで実現することになったのだ。
 「長い間クリニックの構想を練っていました。私はチームで、プロのライダーにラリートレーニングをする方法を知っていましたが、このクリニックでは、もっとリラックスした方法でラリーについて学ぶことができるようにしています」。
 「もともと私はナビゲーションが得意なライダーで、ロードブックを読み解くことも好きな作業でした。だからこそチームでは、それを他のライダーに教える役目を担ってきました。クリニックは妻のティナと、トレーナーのアルマンド・モンレオン、写真とビデオカメラマンのリッキー・ロジャースのサポートを受けて設立にこぎつけたものです。アルマンドもダカールに6回出場し、現在はジェラルド・ファレスのナビも務めている経験豊富な選手なんですよ」。彼のクリニックは、合計22回のダカール出場経験があるスタッフらによって運営されているのだ。


最初に理論、その後に実践

 「このトレーニングスクールは、ダカールラリーだけではなく、あらゆるラリーレイドに備えたカリキュラムを持っています。理論だけを集中して学ぶ時間は少なくとも1日、ラリーの実戦を想定したシナリオに基づいて行うロードブックトレーニングを3日間行います」とビラドムは話す。理論を学び実践によって「発見」することで、自分のペースを見つけることができ、ミスを防ぐことができる、とジョルディは説明する。


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予測不能な出来事

 「実際のラリーが始まると、説明しきれないほど多くのことが起きて、その多くが予想もしなかったことばかりです。それに対処できるのは多くの経験と知識です。そのためにスクールでは多くのケースをシミュレーションします。GPS、ルールブック、ロードブックなど、他の分野では見られない多くのことにも慣れなければなりません。バイクの乗り方を知っているだけではまったく不十分です」。ビラドムは続ける。
 「学ぶべきことがたくさんあるので、「私たちは段階的に進んでいきます。理論をクロスカントリーラリー、ナビゲーション、コンセプト、セキュリティの4つの大きなブロックに分割し、ひとつひとつ丁寧に講義していきます」。
 受講者のほとんどはダカールでのフィニッシュを目指す外国人。この取材をした時も、ジョルディはダカールの前にアンダルシアラリーに出場する受講者を見守っていた。

スクールは丸1日かけての座学から開始。ラリーの全容を理解してから実践に移る

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バイクに乗ってのレッスンは3日間に及ぶ

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レッスン用のバイク。ダカールマシンと同じナビゲーション機器を完全装備してい

レッスン用のバイク。ダカールマシンと同じナビゲーション機器を完全装備してい


究極のゴールへ

 オフロードライダーなら誰でも、一度ぐらいはダカールのフィニッシュを夢見たことがあるだろう。だが、実際にはどのようなことがライダーに求められているか、そのスピードのこと以外はほとんど知られていない。ラリーの複雑さをジョルディはどのように説明するのだろうか。
 「本当に基礎からスタートします。スペシャルステージとは何か、リエゾンとは何か、チェックポイントの機能は? 給油はどのようにするのか。簡単そうに思えることでもクリアにしておかないと、どこかで曖昧さが邪魔をすることになります。ルーキーらしいミスというものもありますが、それがダカールを困難なものにすることが珍しくありません。スペシャルステージのフラッグに近づいていく時の方法、タイムカードの渡し方等々もです」。
 最高のライダーやチームでさえ、単純なミス、ルールブックの誤解、無理解によって勝利を逃すことがある。それはダカールの歴史が何度も証明してきたことだ、と。
 ビラドムのクリニックでは、ラリーの1日についてもシミュレーションする。「朝、ツェルト(テント)を出てから午後にまた到着するまで...または夜。 ブリーフィングの重要性、目を離さないでおく必要のあるもの、ジャケットのポケットに入れておくのを決して忘れてはならないものまで。サウジアラビアではスタート直後が寒いので、小さく折りたためるウインドブレーカージャケットが必要だということ。携帯用の食糧として適したもの、ビバークでの食生活での注意など、ラリーに必要なノウハウ、知っておくべきコツがたくさんあります。もし、そうしたことをあなたがすべて知っているとしたら、それはあなたがすでに過酷で長いレースやアウトドアでの冒険を経験してきた、ということに他なりません」。


新しい用語と概念

 ラリーの基礎的な知識を学んだら、次はナビゲーションのカリキュラムへと進む。ロードブックとトリップメーターだけではなく、GPS、イリトラック、それらを操作するボタンの類が、すべてのライダーの仕事場に取り付けられている。
 「もちろんナビゲーションはラリーライダーの最大の課題です。ロードブックをどのように解読するか、ということを学んでいくわけですが、ロードブックのフォーマットも年々変化し、新しい要素、新しい用語が増えていきます。業界標準のロードブックといっても、ラリーによって違いがあったり、ラリーディレクターによっても変わってきます。現在のダカールではデイビッド・カステラの癖も知る必要がありますよね。それも含めて、最新のロードブックを学ぶんです」。
 「それからラリーで使用するGPSシステムと衛星電話についても詳細に説明します。すべてラリーで使用されているのと同じ最新の機器を使い、操作方法を完全にマスターするので、どのラリーに行っても戸惑うことはありません」とビラドムは保証する。
 さらにこう続ける。
 「こうした機器の操作は、ラリーの直前やラリーが始まってからでも充分にマスターできると考える人もいますし、間違ってもいません。実際、そうやっている人も多いでしょう。ですが、重要なことは、精神を完全にクリアにしてラリーに臨むことです。ひとつの心配事もなく、スタートしたらすぐにラリーに、ナビゲーションに集中することができるようにする。それがベストなリザルト、確実にフィニッシュする唯一の方法です。こうしたことを何も知らずにラリーに臨んで、成功した人はいないと私は確信しています。ただし、1979年に優勝したシリル・ヌブーがどうだったかはわかりませんが…」

コンセプトと実践

 「概念の勉強をしっかりとした後に、実際にバイクに乗ったトレ―ニングに移ります。ウェイポイントを設定し、ロードブックとGPSを駆使したナビゲーションをやってみます。GPSの矢印がどのように機能するのかが理解できるように、エラーを修正しながら自信が持てるようになるまでみっちり繰り返します。FIMとASOは協働して、安全性の向上のためにいろいろな変更を行っていますが、そのためにナビゲーションの比重が高まっています。それでも、パウロ・ゴンサルベスの事故が示すように、リスクは依然として小さくありません。ラリーのリスクとはどういうものか、ということもしっかり学び、またイリトラックの機能、操作方法、救援装置のアクティブ化の方法などももちろん学びます」。


スピードは重要か?


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