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リッチは単に息子たちを勝たせるためにアメリカを改革したのではない- カートと彼の父親

特別な才能を持った父子が、ほんの数年間だけ、世界のエンデューロシーンに登場し、そしてまるでムービースターのような輝きの中で消えて行ってしまった。その功績は、何度でも書きとめてられるべきだ。


カートと彼の父親
文 / 春木久史


 2008年のISDEギリシャ大会。USAワールドトロフィチームは、かつてないメンバーを揃えてのエントリーとなった。KTMを駆るカート・キャッセリは、その中でもチームを牽引する活躍を期待される存在だ。デストリィ・アボット、リッキー・ディートリック、ネイサン・キアニー、ネイサン・ウッズ…USAのエンデューロ、クロスカントリーで気を吐く最強のラインナップは、まさに「ドリームチーム」。アUSA代表チームにとっての過去最上位は1996年のフィンランド大会における3位だが、この記録を塗り替える可能性も充分にあると目されるメンバーだった。ギリシャで待っていたのは、砂、ダスティなコンディション、そして暑さ。しかしそれはアメリカ西海岸を舞台に開催されるWORCS(ワールドオフロードレーシングチャンピオンシップ)にも慣れているメンバーにとって大きな問題ではなかったはずだ。
しかし、どのライダーにも等しく襲い掛かるエンデューロの難しさ。その犠牲となったのは、なんとエースとしての期待がかかるカート・キャッセリだった。3日目にクラッシュしてリタイア。もちろん他の5名はベストな走りを続けて、チームは3位の表彰台に上った。素晴らしいリザルトだが、これをもっとも残念に感じたのはキャッセリだったに違いない。なにがなんでも勝ちたかった。
 直前に亡くなった父のために。

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