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Parc Ferme 「コマ図が描く世界」 No.242より
いろいろなモータースポーツの中でもラリーが好きな人は、もしかすると数字に強いタイプなのかもしれない。ただし、ぼくは極端に数字が苦手で、簡単と言われる計算すらまともにできない。その代わりハンバーグは大好きなので、ハクション大魔王に強い親近感を抱いている。
そんなぼくが最初に出会ったラリーは、1980年代の日本の4輪ラリーである。当時のラリーも、リエゾンとスペシャルステージが存在し、リエゾン--すなわちチェックポイント間―を指定時間通りに走り、SSは所要時間の少なさを競う。チェックポイントのペナルティとSSのタイムの合計が成績になるのは、現在のラリー、またエンデューロとも違わない。
当時のラリーが今と違うのは、リエゾンの指示が、所要時間(到着時刻)ではなく、平均速度で示されていたことだ。コマ図には「ここから時速25キロ」「ここからは時速32キロ」などと書かれている。ナビゲーターは、それに従ってクルマを走らせるようにドライバーに指示する。そうなんだけど、それが難しい。距離と指示されている速度から、現在どの地点にいるべきかを導き出し、それと実際にいる地点との差を算出する。その差を、2秒先行している、3秒遅れている、という具合にリアルタイムに把握し、常に「正解時刻」で走行させ、チェックポイントに滑り込む。距離と速度が与えられているといっても、コマ図を作った計測車と、自分のクルマのメーターには誤差があるし、しかも路面状況やタイヤの周長の変化(温度や気圧で変化する空気圧)でも狂いが生じる。これを常に補正しながら走る。ラリーコンピューターという機械があって、これがナビの強い味方なのだが、それでもノーペナルティで走るのは至難だ。
どうだメンドクサそうだろう。とてもじゃないが、ハクション大魔王にできる仕事ではない。スペシャルステージでの数秒の差が、ナビゲーターのウデ次第で、チャラになることはザラで、実に責任重大。ぼくも何度かナビとしてラリーに出場したことはあったが、同じドライバーから声がかかることはもちろんなかった。
ちなみにこの指示速度方式のラリーというのは、常に主催者が設定した速度で走らせることができるため、一般道路で競技を展開するのに都合がよく、それが日本で普及した理由だが、同時にガラパゴス化にもつながってきた。アメリカのAMAナショナルエンデューロも実は、同様の指示速度方式で、これはICOというラリーコンピュータの生みの親にもなった。ICOはトリップメーターとして有名だが、実はまさにラリコンと呼ぶべき多機能な製品なのだ。そして同じくガラパゴス化に悩み、2000年代に入って競技形態をFIM方式に近づけて人気を回復したという歴史を持つ。
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