No.105から - Parc Ferme - FRANCE 2001
「朝のワーキングエリアはエンデューロを象徴する時間と空間」
FIMインターナショナルシックスデイズエンデューロ 2001年 フランス大会から
Photo & Text : 春木久史
この写真は2001年のISDEフランス大会の時のものだ。ISDEのスタートは、また朝の暗いうちに始まる。その年にもよるが300~600名のライダーがエントリーするから、スタートするだけで数時間を要する。
スタートしてからゴールするまで7~8時間走り続けるので、スタートが遅い選手が日没前にゴールするためには、どうしても早朝からスタートを始めなければならないのだ。日の出前からパルクフェルメの前に並び、スタートの15分前になって自分のマシンの側に行く。夜の冷気のせいでシートが霜で白くなっていることもある。スタートの10分前になるとワーキングエリアへの移動が許される。混雑するワーキングエリアで最終的な整備をして、スタートラインに着く頃、ようやく空が白んでくるという具合だ。
スタートの時刻が来たライダーは、2度、3度キックを踏み下ろしてエンジンを始動する。数秒の間、エンジンの回転が落ち着きを取り戻すのを待って、ライダーはゆっくりとマシンを前進させる。多くの場合、スタートしてからしばらくは市街地を走る。ライダーたちは、まだ眠っている街角を曲がって最初のスペシャルテストへと向かっていくのだ。
朝のワーキングエリアの独特の静けさは、ISDEという競技の在り方を象徴するものだ。レース=競走ではない、個々の技量のテスト。だからライダーは静かに自分の内面と向き合っている。今日一日に直面するであろう、困難や試練を思い描き、そして絶対にへこたれるまいという強い意志が、彼らを少しうつむき加減にするのではないだろうか。
わずか10分という時間で、マシンの調子を整えなければならない。ライダーも、工具や部品を手渡しするヘルパーも、無駄口をたたいている余裕はない。わずか10分が、その日の試合の良し悪しを左右することにもなる。
日本の2日間競技、SUGOでも、パルクフェルメとワーキングエリアには同じような緊張感がある。少し違うのは、朝が遅く、すでに日は高く気温も上がっている時間帯にスタートするということだろう。やや、ほんわかムードなのだ。10月の日高や夕張では、午後4時には暗くなってしまうことから、必然的に、ISDEのように未明からスタートの準備が始められることなる。寒さと薄暗さは、ワーキングエリアに漂う緊張感をいやがうえにも増幅していた。
最近は、あまりハードにすると楽しくない。とか、いい季節にレースをしたほうが楽しくていい、というような空気が支配的だ。手軽なレジャースポーツとして、そういう考え方をするのは、おかしいことではないし、ぼくもそういうことに否定的ではない。あまりひどくて競技として成立しないようなものでは困る。だが、つらくて、困難なことをやり遂げる、そんな遊びの形があっていもいいし、本当はそういうものを求めているライダーだって多い。雨や、早朝の寒さだって、自らを試すいい機会だ。コースの難易度にあれこれ文句をつける、批評するのもいいが、絶対にへこたれない、絶対に走り抜くという気概を持つことも、楽しむためには大切なことかもしれない。
END
2007年3月号に掲載
ダビデ・フリティニエはMXから転身、エンデューロ世界選手権、ISDEで活躍して後、フランスヤマハからダカールラリーに出場するようになる。2008年に南米に移ってからまもなくダカールラリーの2輪部門は450cc以下に限定されたが、当時はまだ大排気量車が走っていて、BMW R900RR、KTM660ラリーが主役だった。その中でフランスヤマハは450ccクラスにフォーカスしていて、WR450Fのラリー仕様が、フリティニエのマシンだった。一時期は、2輪駆動の2 Tracsも担当した。
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