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Book of SIXDAYS - Brazil 2003 - No.241より
ISDEはどの大会も印象深いものだ。競技は6日間だが、全体では少なくとも10日間、ライダーだったら2週間はそこに滞在して、世界中のエンスージアストたちと一つの街で過ごす。その国、その土地の風物、文化に親しみながら、一番好きな"モーターサイクル"にどっぷりと浸るのである。長年、ISDEに通い続ける人は、通えば通うほど、そこが故郷のように感じてくるのだろう。知り合い、友人が増え、思い出も積み重なっていく。ライフステージにおけるいろいろな出来事も、ISDEの開催地とその開催年とともに記憶しているんだよ、という人に会ったことがある。「息子が結婚したのは、そう、イタリア大会の年だったから1997年だったね」と。
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エバーツ、キャッセリ、そしてメリマン
Text & Photos : Hisashi Haruki
ぼくがISDEを始めて訪れたのは、1994年のアメリカ、オクラホマ州のタルサという街で開催された大会だった。アメリカでは2度目の開催ということだった。アメリカで初めてISDEが開催されたのは1973年である。BMWファクトリーチームがアルバート・シェックらが開発したISDTトロフィモデルを持ち込んだ大会として有名だ。優勝したのは分離独立前のチェコスロバキアチーム。ジュニアトロフィを獲得したのはアメリカチームで、この中のメンバーにはあのオフロードレジェンド、マルコム・スミスも入っている -- 現在、ジュニアトロフィチームは23歳以下のライダーで構成されるものになっているが、当時は年齢制限がなく、国代表のトロフィチームに次ぐセカンドチームというような位置づけだった。
初めて欧州外で開催されたのがアメリカだった。続いて南半球で初めて開催されたのが1992年のオーストラリア大会。そして初めてラテンアメリカで開催されたのが、2003年のブラジル大会。南米大陸は広く、開催地のフォルタレーザは、ヨーロッパから近い、大陸の北東部に位置するビーチリゾートの街だった。
毎日40度を超す気温。
内陸部は乾燥しているがさらに気温が高く、そしてスペシャルテストの路面は乾燥した土がカチカチに硬い。海岸に近いところでは湿度が高く、体温が下がりにくい。スペシャルテストは異例のサンドデューン(砂丘)。
イギリスのマット・ボーデンという軍人ライダーが熱中症で亡くなった。公式発表ではもともと心臓に持病があったとのこと。この大会を指揮していたフランコ・アチェルビスは、改めて「水分と同時に塩分を摂ることを忘れないように」という注意喚起を行った。
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この大会が特別に記憶に残っているのは、ステファン・エバーツが参戦したためでもある。ベルギーの英雄は、父、ハリー・エバーツに倣い、ISDEでゴールドメダルを受けることを目標に初参戦。モトクロスから引退した直後で、ブラジルは得意のサンドが多いということで、ベルギー代表の一員としてエントリーした。エバーツは、当時のトップエンデューロライダーたち -- ユハ・サルミネン、ステファン・メリマンら -- と僅差の戦いを続け、最終的には個人総合のベストタイムを記録して優勝した。
モトクロスの伝説的なライダーは、ISDEを走ることで揺るぎない評価を受けることになった。
エンデューロを知るものにとって、ステファン・エバーツは、モトクロスライダーであると同時に、史上最も優れたエンデューロライダーの一人として記憶されることになる。
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