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連載 Roadbook 「黄泉の国へ続く道」 三橋淳 No.241より
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第1回 「黄泉の国へ続く道」
文 / 三橋淳 Jun Mitsuhashi
ロードブック。日本の場合はコマ図、と言った方が馴染みがあるかな? 目的地までの道案内を走行しながらでも見られるように記号化したのが、写真にあるマップだ。
このコマ図を見てなんか書く、というのがこのコラムのコンセプトだ。しかし、このコマ図は、私が出場したことがないラリーのものである。いったい何を書けばいいのか? 無理難題ではないか…。
と思うでしょ?
このコマ図を見ると一番上に「Smara」と書いてある。Smara = スマラはモロッコにある町の名前だ。いや、正確にいうとモロッコではない。西サハラという実に微妙な存在の土地の名前だ。なんで微妙なのかというと、このエリアを巡ってはモロッコ王国とモーリタニア・イスラム共和国が互いに領有権を争っていて、暫定的に西サハラという名前で呼ばれている。が、現実的にはモロッコが実効支配しているので、ほぼほぼモロッコだ。というか、そう認識している人が多い。ただ、モロッコがフランスの支配を受けたことでフランス語が主流なのに対して、この西サハラはスペインが統治していたので、スペイン語が主流だ。そういう違いはあるけれど、まぁモロッコだ。
で、このスマラ。2001年、2002年のダカールのビバーク地として立ち寄った経験がある。この町から長いリエゾンを走ってモーリタニアに入国するためだ。
そう、「砂の国」モーリタニアの玄関口と言ってもいい。
もっともこのルートはダカールにのみ許されたルート設定だ。先に説明した通り、モロッコとモーリタニアは、領土を巡って対立しているいわば敵同士。その国境には地雷が数多く埋まっていて、さらに土塀が立ちはだかっている。その危険地帯をダカールラリーが通るためにわざわざ地雷を退けて、土壁を壊してラリーカーを走れるようにするのだ。ダカールほど規模が大きくない他のラリーではこのルートは通れない。巨大なマンモスイベントであるダカールだからなせる技と言ってもいい。
そしてこのスマラを出発するのは決まって朝4時頃だ。なぜならスマラから300~400kmも何もない土漠の道をひた走って国境を越え、モーリタニアに入ってからSSが開始される。日の出と共にラリーがスタートするために、それに間に合うように真っ暗な早朝にスタートするのだ。
しかし、地雷を除去してあるとは言え、真っ暗な土漠の中、ヘッドライトだけを頼りに走るにはあまりにも危ない。そこでモロッコ軍が地雷が確実にないピスト(車の跡がついた道)に両サイドに松明(たいまつ)を灯してくれているのだ。つまり、この炎の間だけは安全というわけだ。
これがとても幻想的だ。本来なら地平線が見えるくらい真っ平らな場所なんだろうが、認識できるのはヘッドライトに照らされた路面のみ。前後左右、ヘッドライトの灯が届かないところはまさに漆黒の闇だ。さらに、リエゾンとは言えそんな真っ平らなダートを走ればそこそこのスピードが出るわけで、前者が巻き上げる埃がひどい。それがヘッドライトで光ってさらに視界を悪くする。
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