【Otonoha①】笑顔で隠した心
”どっちにしろ、お断りしようと思ってたの
ごめんね!”
え、、
笑顔で伝えられた。
必死に涙をこらえた。
いっぱいにふくらんだ風船に
針を刺された瞬間だった。
あまりにも、あっけなかった。
わたしだって努力してきてたのに。
いまのわたしにもできることあるはずなのに、
できるよ、即興ででも。
せめて、舞台に立ちたかった。
でも、それがゆるされないようだった。
声をあげるエネルギーなんてなかった。
ただ、しぼんだ風船をみつめるしかなかった。
わたしは半年間、なにをしてきたんだろう。
わざわざおしごとの休みをとって、
つかれたからだで眠い目をこすりながら
エネルギーと時間を費やしてきた場所。
それが、その場に行ける日と
エネルギーがなくて行けない日もあったけれども
少なくとも、行こうと葛藤して
たくさんエネルギーと時間を費やしてきた。
今までのわたしの努力はなんだったんだろう。
ここに来るまでの楽しみと緊張感は
なんだったんだろう。
わたしの存在がしぼんでみえた。
自分の立場が、わからなくなった。
だいすきで大切な存在だったはずが、
だいきらいになりそうで怖かった。
いや、正確には、なりかけていた。
そう感じている自分が、嫌だった。
大丈夫。
やることがへったのだから。
肩の荷が軽くなったのだから。
毎日キャパオーバーしてるわたしには
それくらいがちょうどいい、
だって、このやることがあったから、
縛られているようで、やらなければいけなくて
うまくできなくて、苦しかったんでしょ。
そこから解き放たれたんじゃない。
いいじゃないの。
そう考えてみようとしてみた。
こんなにもわたし努力してきていたのに。
その努力が泡になるじゃないか。
どうしても、この想いのほうが
つよかったみたいだった。
ほんとは、わたしもやりたかったけど、
どうしようもない、
わたしの心はただしんとしていて
わたしの役割をしずかに探した。
カメラを手にした。
そして、カメラにすがった。
そう表現するのが正しいだろう。
みんなといることがたのしかったはずなのに
みんなもきらいになりそうだった。
いや、なりかけていた。
どうして、平然とこの状況を
うけいれてるのだろう。
わたしと踊れなくなること歌えなくなることを
さみしいと感じてくれてないのだろうか。
わたしだったら、ともに舞台に立つメンバーが
ひとりへることは重大事項で
とってもさみしさを感じるだろうと。
そもそも、どうなってこうなったのか、
最近、練習に来れていなかったから
もう全然わからない。
みんながどれだけこの状況を理解しているか、
これっぽっちもわからない。
わたしも理解していなくて、
いや、おそらくそれどころではないはず。
ばたばたばたばたと、過ぎ去ってゆく時間。
孤独だった。
わたしってなんだろうと思った。
尊重してもらえていないと感じた。
じゃあ、わざわざ来なくてよかったやん。
そう思ってしまった。
居場所がなかった。とてつもなく帰りたかった。
でも、帰るなんて言い出せるわけがなかった。
だから、カメラにしかすがれなくて
カメラを手にすると、
みんなを撮るしかなかった。
こんなにもやもやした心で
笑顔を切り撮るのははじめてだった。
なんで、みんなそんなに全力で笑ってるの?
わたしは寂しい。
なんだか、わたしの存在が無視されている、
消えてる心地がした。
透明人間になって、カメラだけが浮いてる感覚。
ひとまず、「今」に追いつくことで必死だった。
それでも、1枚、2枚、
その笑顔が、わたしの心を溶かしてくれるのかもしれないと感じて、撮り続けた。
この日の終盤。本番3日前。
みんなで輪になって、
今の想いを打ち明ける時間。
本番、「届けたいひと」
わたしも、打ち明けてみた。
”舞台に立ちたかった。
でも、おしごともあったり、ほかにも活動してるなかで、十分に時間がとれなくて。
今までダンスをやってきたのに、やっぱり、わたしがダンスを覚えるのが苦手なせいで、舞台は立てなかった。
悔しいけど、今の自分にできることを考えて動こうと思う。”
涙が止まらなかった。
悔しくて悔しくて、たまらなかった。
あぁ、わたしがわたしの脳でなければ、
出れたのかな。
もっと、記憶力がよくて、
要領よくできていたのなら。
ADHDじゃなかったら、、
久しぶりに、この脳で生まれてきたことを
否定してしまっていた。
数年前に置いてきた思考が、ちらついた。
そんな自分も嫌だった。
もう自己否定はしないって、
愛でてあげるって決めてたのに。
否定されてるわたしも、つらそうだった。
ほんと、ごめんね。
わたしはわたしのままが、いちばん。
だから、こうなった意味がきっとあるはず。
そして、みんなひとりひとりにも、
抱えているものがあった。
ひとりひとりの涙が美しかった。
だから、写心にのこそうと、シャッターをきった。
わたしの話を、笑顔できいてた。
それも違和感しかなかった。
そんな、すぐに受けいれて前を向こうって
ことばではそう言ってたかもしれないけど、
心では全然できていなかった。
今日言われて今日のことだったもの。
わたしの涙は、まだ笑顔に変えられるものではなくて。
涙は涙で、受けとってほしかった。
悲しさは悲しさとして、受けとってほしかった。
もう過ぎ去ったことのようにされてしまって。
それも苦しかった。
23人のなかのひとり。
わたしの想いや涙なんて、
このみんな23人全体のなかでは、
ちっぽけなものに過ぎないんだ。
そう感じてた。
それでも、わたしという存在に
スポットライトを当ててくれたキャストがいた。
”届けたいひとは、エミ”
なんて言われたのかわからなかった。
”舞台に立たないって決めたと思うけど”
あぁ、ほんとにわたしのことだ。
でもちがう、わたしは決めてない。
そうなっただけだった。
そうせざるをえなかったみたい。
わたしには決める権利はなかった。
いや、正式にはあったのだろう。
でも、ながれを覆すほどのエネルギーは持ち合わせていなかった。
ということは、これがよかったんだろう。
”みんなの写心を撮ってくれて”
わたしの行いにまちがいはなかったんだな。
よかった、涙ながらに安堵がもれた。
”だから、エミに届けたい”
そう想ってくれるひとがいるんだ。
だれもいないからエミにしよう、
そんな考えだとしても、お世辞だとしても、
そのことばが嬉しかった。
わたしがこの場にいることを、
はじめて肯定されたようだった。
冷たくかたくなった心がすこし、
あたためられ、ゆるくなった。
わたしの心の支えになった。
今までたくさん話して仲を深めたひと!
とは言えないような子だったからこそ、
とっても驚いた。
とともに、そうやって想える心があることが
素晴らしいと感じた。
ありがとう。
みんなの場がおわって、伝えにいった。
通し練習。
わたしはひたすら、カメラを構えた。
それでも、みんなは
ほんとのことを知らないんだと。
ただの綺麗な場として、
まるくおさまってそうだった。
みんなそれぞれ、物語があるなか、
わたしは、わたしの物語のなかの主人公であって。
その主人公の感情なんて、知らないんだろうと。
しかたなかった。
とりあえず、この日を終えることにした。
大きなもやもやが、のこったまんま。
本番、4日前。
こうして、リハーサルの日がおわった。
明日と明後日はおしごと。
また、この場にくるのは3日後、
子どもたちと練習とワークショップをする。
それも、午前中はすでに予定があって。
ひとまず、さよならを告げた。
だれも知らない、わたしの物語。
つづく_
Otonohaこどもミュージカル Vol.3 ①
2023.10.5 Thu