ショートショート「ビール傘~車の走らない国~」 406字
「車?ここでは走らねえよ」
5年前この国で工場の爆発事故があった。
爆発した工場は世界で8割のシェアを誇る国営のビール工場。
その爆発以来国では毎日のように雨が降るようになった。
それもビールの雨が。
爆発により大量の麦芽やビール酵母などが空気に混ざったからだ、などとまことしやかな噂が流れるが真相は定かではない。
国営のビール工場が爆発したことにより国力が著しく落ちた。
それを打開した発明がある。
「ビール傘」だ。
その傘はコウモリ傘の形状で、傘の柄からストローが伸びている。
溜まったビール雨を埃などを濾過して飲めるようになっているのだ。
以来、街にはタダでビールが飲めると言う話でビール好きが集まり前以上に国力が増した。
道行く男に聞いた。
「この街では車を見かけませんね?」
男が答えた。
「そりゃ傘をささなきゃビールを飲めねえからな。」
そしてニヤリとして付け足した。
「しかも車に乗ったら全員捕まっちまうよ。」
ここは車の走らない国。
※お題「ビール傘」参加させてもらいました。
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