04.STORY WRITER
見る人によっては美しく見える夕日が落ちる瞬間。
MISAKIにとっては遅れた昼食を取り戻すように食べる夕暮れ時。
HIKARUの作ったサンドイッチを食べながらパソコンのディスプレイを眺め
「やっぱプロの機材買わないと…」
「プロの機材があれば俺もプロみたいな作品つくれるんだけどな」
1ヶ月に1回はそんなことを言いながら時間を潰す1日がある。
メジャーデビュー1歩手前で夢破れ、プロになったことがないMISAKIにとって「プロフェッショナル」という概念がものすごく遠い。
実体をつかんだことがないために妄想と想像で埋めることしかできず「プロとの差」がネットで検索する度に肥大化していった。
プロになる為には高い機材が必要
↓
高い機材を買うお金が無い
↓
機材がないからプロになれない
↓
仕方がない
自分の妄想で勝手に定義した基準によってMISAKIはプロになれずにいた。
機材に執着しないで違う方法を模索する道を自ら閉ざしていた。
MISAKIはもちろんそのことにも気づくことはない。
機材を買えばプロになれるのであれば一時的に借金してでも機材を購入しプロになり報酬を得て機材の借金を返却すればよいのだが、MISAKIは冒険できずにいた。
投資できないのは心の奥で、無意識の深いところで「機材を買ってもプロになれないかもしれない」気持ちがあるからだろう。結局自分の才能も信じられない。でもプロになれないのは自分のせいではない。そんな難しく苦しい内面を右往左往してプロにじゃない理由を探して過ごす。そんな日が今日だった。
プロになれない現状の理由に決着がついたところでWEBブラウザからメールブラウザへウィンドウを移動させた。そしていつもルーティン、「メール更新」ボタンを何度もクリックする。
行動的に言葉をつけるなら「どっかからメール着てないかな」x3
ってことになる。郵便受けを何度も見に行くような寂しさ…
メールが来てなければまたWEBブラウザに戻ってインターネットの世界へ…
「あー暇だな」とFacebookへアクセスすると赤い通知が一件。
「いいね!かな…なんて詳細を見るとメッセージが。
「木村?…さん?」
誰だろう。友達ではない木村さんのメッセージを読んでみると
『はじめましてクリプトの木村と申します。
ご連絡先が見つからず、FBのメッセージにて失礼致します。』
「ええ!クリプト?!」
「新音イフの会社からメッセージ?!」
MISAKIは久しぶりに大きな声の独り言を叫んだ
『急なお願いなのですが、来週末ニューヨークで開催されるイベント、New York Comic Conにて弊社で講演会を行わせていただくのですが、MISAKIさんのカバーしたcrean rockの『analog like』を使用させていただけないでしょうか?!』
「おお」
「マジか…」
これはスパムじゃないな。本物だ。
facebookは本人の顔と経歴が載ってるからスパムじゃないって思えた。
内容的には信じられない話だったけど、木村さんが実際にいる人のようだったから。
「なんだこの展開は」
MISAKIは新音イフの曲を投稿して再生回数138というとんでもない数字を出した後にいろいろ考えていた。
新音イフがリリースされたばかりの頃ならまだしもMISAKIがアップロードした時期2013年は飽和気味で毎日何曲もアップロードされていたので目立つことは難しい状態だった。
無名の新人がオリジナル曲をアップロードしても再生回数138。特別ではない話だった。
その時に殿堂入りボカロPになるには…ということをMISAKIは一生懸命考えていた。「人と違うことをしなければ」
誰もやっていないことをがむしゃらに探し続けて
…気がつけば英語の新音イフ曲を作ることにチャレンジしていた。
誰もやっていないといえば間違いなくやっていない。
日本語の新音イフはリリースされていたが英語の新音イフのソフトなんてこの世になかった。
誰もやっていないというか誰もできなかった。
日本語のソフトで英語の発音をさせるなんて力技でしかない。
そうして、はじめて英語の新音イフ曲を作った時は絶望でしかなかった。
英語に聞こえないし、日本語にも聞こえない。
誰にも理解できない曲で、こんな曲を聴きたい人は誰もいないような気がしていた。それでもMISAKIは作り続けた。
「これしかない」
なぜそう思えたのか、冷静になって考えると不思議な決意ではあるが…
「これをやめたら、もう道は無い」
確かに、これを諦めたらオリジナル曲も作れないし、作ったとしても目立つことはない。
でも道なんて最初から無いようにも思えた。
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