エッセイその81. 夫婦の長短
うちの夫が、毎日出勤をしなくなってもう、1年と2ヶ月経ちました。
初めの頃は週2回行っていたのですが、感染者の非常に多い米国が本社なため、感染予防に対する意識も高く、どんどん会社に行かなくなり、最近では月に2回だけ出勤した、ということもありました。
最初のうちは、我が家でも急に始まった変化にとまどい、日に2回、時間通りにきちんと昼ごはんを出そうとするのもストレスになり(うちの夫婦は朝ごはんを食べません)、くだらないことでしょっちゅう喧嘩をしていました。
喧嘩の原因は、夫がのんびりで、私がせっかちだというところが大きいです。
象とネズミが同居している感じです。
(ところで、落語の長短というのをご存知でしょうか。
私は志ん朝と小さんのが良かったなぁ。
全てにおいて気の長い人と、むちゃくちゃ短気な人が友達で、
それを一人の人が演じ分けるのがすごく面白いです)
私は短気さゆえ、なんでもいっぺんにやろうとします。
例えば料理をして、ご飯を出そうと言う時です。
ご飯が出来上がって、お盆に載せるのが面倒なため、両手にできるだけいろいろ持ち、半開きだったシンク下の観音扉の一方を膝で押して閉めながら、
「ご飯できました〜。誰か取りに来て〜」
と言いながら、すでにどんどん居間との境の引き戸に歩いて行き、その扉は片方のつま先を使って、苦労して開けようとしています。
流れるような優雅な一連の動作です。
せっかちですので、引き戸を開け始めたその時にはすでに、その向こうに「誰か」がいてほしい気満々になっています。
けれども夫を見やると、今しも音楽を止めようとしながら、
・・・・・・・・・・うん? 何か言った?
などと言っているのが普通ですので、私はむっき〜、🙉 となってしまいます。
んんん〜、たくもう〜、誰か来てって言ったのに〜・・
とか言いながら、ドスドスと入っていって配膳します。
これは、熱いものは熱いままに食べ始めたいからもあります。
と言って、毎食天ぷらなどではないので、こだわらなければいいのですが、作ったらすぐに食べたいほうの女。
娘たちが家によくいた頃は私の様子を見ながら、
お母さんさぁ、誰か来て〜って言いながら、もう自分で2往復してるよね?
と言われたものでした。
もう暖かくなってきたので、夫の大好きなバスロマンを入れての毎晩のお風呂も、だんだんシャワーのみに移行してきそうですが、そのお風呂。
お風呂入ろうかなぁ。では、お風呂を仕立ててきます!
お風呂先に入る?
と言いながら、私はもうお風呂の方へ消えていきます。
夫はその後で、
うん? なにか言った?
などと言っています。(耳が遠いわけではありません)
うちのお風呂は、お風呂が自動で満水になったときと、追い焚きのときは、それができるとまず、「人形の夢と目覚め」のメロディーがオルゴール様の音楽で鳴って、「お風呂が、沸きました」と言ってくれます。
(どうでも良いことですが、必ず「お風呂が、沸きました」と
分けて言うのがいつも気になります)
ところが、台所の壁にあるコントロールパネルではなく、お風呂場のやつでスイッチオンすると、このお知らせを出してくれないことが たびたびあります。
なので、私は2回も3回もお風呂を見にいきます。
考えてみれば、追い焚きにかかる時間と、0から満水になる時間を一回でもチェックしておけば、そのころにお風呂に行けばいいので楽だと思うのですが、それをしようしようと思いながら11年経ってしまいました。
無駄な動きが全体に多いですが、どんまいです。
で・・、
夫おっと、お風呂できました。先に入る?
なんとも親切です。
夫は、
・・・・え?・・・・・・う〜ん・・・・入ろうかな。
と言いながら、Netflixの画面か、読んでいる本に目を据えたままです。
そんなに何分もかかるわけではないのですが、
んんん〜、遅い!
お先にいただきます!
となり、私はいつも更湯でお風呂に入っています。
ほぼこうなるので、さっさと入ればいいのですが、長短なやりとりが、ここでもあるわけです。
昔は、すぐに返事やアクションが返ってこないと、よく、
あんたはあれか! 恐竜か!
と言っていました。
恐竜は反応が遅く、足を踏まれてから三日目に「痛ぇ!」となると聞いたことがあり、それが頭にあったので言いましたが、全然通じませんでした。
たまに夫がごはんを作ります。
台所は私が使いやすいようになっていますし、何が下拵えをしてあり、何が冷蔵で何が冷凍かは、たまにやる人にはインプットされていません。
もののありかもわからないことが多いです。
なので、私もなんとなく、近くに控えている感じになります。
なんとなれば、
ポテトマッシャーある? (お芋などを潰すやつですね)
コーンスターチある?
ハインツのホワイトソースある?
りんごを8等分にするやつある?
チーズグレーターある?(チーズをすりおろすやつですね)
などと、聞いてくるからですが、それは普段使わないので、大抵吊り戸棚や、すぐにはアクセスできないところにあり、聞かれるたびに台所に行って、一緒に探します。
一方、私が料理をするときは、時短を目指しています。特に昼ごはんは、自分のレッスンが11時半に終わることなどが多く、お昼は12時には出したいので、すごく急ぎます。
在宅ワークの夫は、お昼休みしか休まないからです。
そこで私が台所にいますと、インスタントポットとオーブンとガス台を同時に使いつつ、こっちでは電気ケトルをオンにして半熟卵作り器(正式名称わからない)を引きずり出し、などというふうに、コマネズミのようにバタバタします。
そのうち、IP(インスタントポット)が、食洗機が、コーヒーメーカーが、電子レンジが、てんでにピーピーピーピー言いながら、
「奥様! できました〜」
と言ってきます。
狭い台所でくるくる回って、全部ピーピー音を消したはずなのに、まだピーピー言っている。
なぜ?
なにが?
・・あ、冷蔵庫がずっと前から扉がきちんと閉まっていませんでした、
みたいな、騒々しいことになってしまいます。
一方 夫が休日の夜などに料理するときは、全然違います。
音楽を聴きながら悠然と野菜を切り始め、ふと手を止めて、おもむろにコーヒーを淹れたかと思うと、戸棚の深いところから、年に何回かしか使わない、すごく簡単に缶の蓋を開けられる缶切りを取り出し、取り出してから、つくづくと缶を見て、
「・・・おお、この缶は・・・これはプルトップだった・・・」
と、缶切りをまた元のところにしまい・・・
と言う具合に、本当に一歩一歩、慎重に進めていきます。
(いつもガン見しているわけではありませんが、こんな感じです。
うちは、片方が料理をしているときに、片方がそばに突っ立って、コーヒーやお酒を飲みながらおしゃべりをすることが多いので、様子がわかります)
夫が家事をするについては、新婚当時からすごく助けられているので、料理に対する行動の違いはこれは気にせず、私も長期戦で待ちます。
もちろん、夕食が午後9時開始、ということもありますので、お腹が空いたあまりに気が荒くなって(私がです)喧嘩になってはいけないので、チーズやりんごなど、おやつを食べながら、これはのんびり待つようにしています。
年をとってきて私も多少丸くなってきたかもしれません。
コロナ時代、一緒にすごす毎日は、まもなくやってくる二人だけのリタイア時代のリハーサルをしているようです。
ありがたく修行を積んでいきたいと思います。