「パット・メセニーの曲をビッグバンドアレンジして大当たり!!」という印象が強いが、実はジャズ・ビッグバンド分野の教育者としてとんでもないレジェンドである「Bob Curnow」さんのお話
はい、ビッグバンドファンです。今日はパット・メセニーさんの曲をビッグバンドアレンジした作品でお馴染みの「Bob Curnow」さんについて話していこうと思います。実はこの方、ビッグバンドの特に教育分野におけるレジェンドであるということ、あまりご存じないと思うのでその辺含めて触れていこうと思います。
Stan Kenton Band Clinicsとの出会い
生まれは1941年、現在79歳ということでもう大ベテランでございます。キャリア初期はStan Kenton楽団のトロンボニスト兼アレンジャーとして活躍されていた方です。Wikipediaに出ている入団経緯が面白いのですが、大学卒業した翌日に入団したとなってます。
On May 19 of 1963 (1 day after college graduation) Bob Curnow started as a trombonist with the Stan Kenton Orchestra at the age of 21
そもそもこのBob Curnowさん、1961年まだ大学生の時ですがStan Kentonさんが開催していた「Stan Kenton Band Clinics」に参加したことがキッカケになってその2年後の入団に繋がっているそうです。ちなみにこの「Stan Kenton Band Clinics」、先日の山野ビッグバンドジャズコンテストにおいてもエリック宮城さんが講評の中で触れていましたが、後々大活躍する人を沢山輩出したクリニックとして知られています。ざっと挙げるだけでも、David Sanborn、Dave Weckl、Steve Smith、Jim McNeely、Lyle Mays、Keith Jarrett、Tim Hagans、Randy Brecker等々錚々たるものです。なお、Peter Erskineも受講生のようですが、なんと11歳だったとのこと。凄いですね。
1972年から1977年の5年間、Stan Kenton楽団の最晩年にプロデューサーとして大活躍
ところが1965年に一旦退団、その後1967年には博士号を取得、更に1973年までは教員として音楽を教える立場で仕事をしていました。この時代、ビッグバンドは商業的に本当に苦しい状況でしたから、こうやって様々な形で仕事をしながら道を模索するというのは当然だったのではないかと思います。しかしBob Curnowさん、後々この教育者の道でとんでもないレジェンドになっていくのですが、それはまた後の話としましょう。
そうこうしながら1971年、再びStan Kenton楽団にアレンジ提供をもちかけました。実はBob Curnowが初期の在籍時に提供した「God Save The Queen」のアレンジを気に入っていたStan Kenton、Bob Curnowがもちかけてきた話に乗りまして、1972年にはメインのアレンジャー・コンポーザー、そしてプロデューサーとして迎え入れることとなりました。ここから1977年に再び楽団を退団するまでの5年間、1979年にはStan Kentonがこの世を去りますのでまさに最晩年、Bob Curnowさんが大活躍します。Stan KentonはBob Curnowを迎え入れてから亡くなるまでに7枚レコードを出しますがそのうちの6枚をBob Curnowがプロデュース、ヒット作となった「Plays Chicago」もBob Curnowのプロデュース作品です。
しかし相当嫌なこともあったようで、wikiにこんな言葉が載っています。
I was burnt out...I really didn't like the record business...it's a dirty game working with the big players and all the crap that goes on there
まぁ古今東西、この手の話は色々あっただろうなぁと思います。
ジャズ・ビッグバンドの教育におけるレジェンド
というわけで、Bob Curnowさん、再び音楽教育の舞台に戻ってきます。ここから再び無双の働きをします。1976年から1987年まで教員として仕事をしますが、1981年から1989年までの8年間はMcDonald's All-American High School Jazz Bandの指揮も務め、全米をツアーしながら多くの才能ある若いジャズプレーヤーを発掘していたそうです。なんと若かりし頃のエリック宮城さんがこのバンドで演奏していたそうで、映像もあります。
他にChris Bottiも乗っています。勿論演奏している高校生も凄いのですが、教育者としてこうした若者をツアーを通じて発掘するBob Curnowさんの行動力、慧眼もかなり凄まじいものがあります。かつて自分自身がクリニックを通じて発掘されたこと、その後ビッグバンドが商業的苦境にさらされる中、それでも新しい音楽を取り入れつつ道を切り開いてきたこと、あまり知られていないですがBob Curnowさんにはそうした側面があったことは知っておいていいかと思います。ちなみに2005年にはペンシルバニア州ウェストチェスター大学音楽学部より「Distinguished Music Alumnus Award」という賞を受賞しているのですが、この経緯がまたすさまじく、なんとBob Curnowさんこの音楽学部に約6万ドル相当の楽曲、CD、書籍を寄贈したそうで、それを受けての受賞ということです。本当にジャズ・ビッグバンドの教育分野においてレジェンドといっても過言ではないこと、このエピソードからだけでも分かるとおもいます。
Sierra Musicを設立したのもこの人
またBob Curnowさん、実は1976年にSierra Music Publicationsという譜面の出版社を立ち上げています。黄色の表紙が特徴的なあのシエラです。
Bob Curnowさんの譜面がやたら多いなぁと思っていましたが、まさか自分で立ち上げた出版社だったとは、驚きです。About Usのページの文章を引用しておきます。
Sierra Music Publications was created in 1976 by Bob Curnow to help satisfy the continuing need for high quality literature for jazz big bands and other ensembles. It has remained a one-owner company. Although the perceived focus of the company has been to publish music from the many professional big bands in jazz (i.e. Stan Kenton, Bill Holman, Count Basie, Buddy Rich, Woody Herman, Pat Metheny, Maynard Ferguson, Oliver Nelson, Les Hooper, Doc Severinsen and others) , Sierra Music has also commissioned new music from many new, outstanding composers over the years (i.e. Dan Haerle, Ellen Rowe, Fred Stride, Fred Sturm, Rich DeRosa, Patty Darling, and others). The mix of classic, recorded, professional-level charts with the new, original pieces which have been written for younger bands makes the Sierra Music catalog unique in the world. We continue to reach into the contemporary world with projects such as the many wonderful arrangements based on the music of Radiohead. Another unique factor is that none of that music has ever gone out-of-print.The company started with two pieces in 1976 and has grown to nearly 800 pieces. Along with big band charts, there are also pieces written for 9-piece band (5 horns, 4 rhythm), trombone quartet and percussion ensemble.
常に先進性の高い楽曲をビッグバンドに提供し続けてきた
このように若かりし頃はStan Kenton楽団で活躍、その後は教育者として活躍、そして1994年にはついにあのパット・メセニーさんの楽曲をビッグバンドアレンジした「Bob Curnow's L. A Big Band Plays of Pat Metheny and Lyle Mays」をリリースします。
このアルバムはまさに現代のビッグバンドアレンジの代表例とも言ってよい秀逸な作品となっており、2011年には第2弾となる「The Music of Pat Metheny & Lyle Mays, Volume II」も発表しています。
また2003年にはSWR BigBandとの共作でパット・メセニーの楽曲だけでなくStan Kentonへのオマージュも含めた作品「Towednack」もリリースしています。
どの作品でも共通していること、それこそStan Kenton楽団のプロデューサーとして活躍している頃から一貫しているのは「先進性の高い音楽をビッグバンドというフォーマットで提供する」という点です。かつてのビッグバンドスターの最晩年において活躍したアレンジャーという意味では、あのカウント・ベイシー楽団で活躍したSammy Nesticoさんにも通じるものがあります。楽器も同じトロンボーンですし、Sammy Nesticoさんも「Night Flight」というアルバムを自身のビッグバンドで出されてかなり売れましたし、SWRから共作のアルバム出しているところまで同じですし、非常に共通点が多いように感じます。
そんなお二人もSammy Nesticoさんは先日亡くなられ、Bob Curnowさんも79歳です。お二人がかつてのビッグバンドスターの薫陶を受けつつ新しい音楽を取り入れながら切り拓いてきた道、これをこれから更にどのように発展させていくか、それが今を生きながらビッグバンドという音楽に携わる人間として考えていく道なのかなとそんな風に思います。
いかがでしたでしょうか?意外に知らないことって多いということで、今後もこうした掘り起こし含めビッグバンドの魅力を伝えていきたいと思います。以上、ビッグバンドファンでした~、ばいばい~
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?