『離婚代理戦争』20枚シナリオ課題「弁護士」
※解説
佐々倉正希(42)は女性側の離婚トラブルを専門とする敏腕弁護士。ある日、元夫の養育費不払いを訴える原瀬加奈(37)の弁護を引き受けることに。だが原瀬の元夫・榎木政樹(40)も、加奈との間に出来た一人娘の親権を求め弁護士を立ててきた。その弁護士は何と正希の元夫・浅井満(42)であった。
※登場人物
佐々倉正希(ささくら・まき、42)…弁護士
浅井満(あさい・みつる、42)…弁護士。正希の元夫
佐々倉希夢(ささくら・のぞむ、15)…正希の長男
原瀬加奈(はらせ・かな、37)…榎木の元妻
榎木政樹(えのき・まさき、40)…加奈の元夫
アシスタント
司会者
〇マンション・佐々倉家・リビング(朝)
佐々倉希夢(13)、テレビを観ながら朝食を食べている。テーブルの上
には2つのグローブとボールが置かれている。テレビには討論番組が流
れており、佐々倉正希(42)が出ている。
〇テレビ画面
正希が出演している討論番組。画面右サイドに『日曜の朝に考える❝共
同親権❞』とテロップ表示されている。
司会者「法務省が導入を検討している共同親権。これは離婚後、父と母双方
に親権を認めるものですが佐々倉弁護士、この制度についていかがでしょ
うか?」
正希「私はこの法改正には反対しています。その一つにDVや虐待の加害者
が、子供と会う機会を利用して支配する危険性があるんですね……」
〇5階建てビル・外観
3階窓に『佐々倉法律事務所』とある。
〇同・応接室
正希と原瀬加奈(37)、向かい合って座っている。
正希「元旦那さんから支払いが滞るようになったのは、いつ頃からです
か?」
加奈「去年の春くらいからです。今は私のパートタイムだけで生計を立てて
いますが来年、娘は中学ですし正直しんどいんです」
正希「たとえ親権者でなくなったとしても子供の扶養義務は継続されます。
ですので元旦那さんには養育費を支払う義務があるんです。ただ6年前協
議離婚した際に口頭だけではなく、合意書の公正証書を作成すべきだった
と思います。でも今からでも遅くはありません。一緒に頑張りましょ!」
加奈「ハイ、よろしくお願いします!」
正希「それと月2回の面会交流の取り決めをされたそうですが、こちらはキ
チンと守られていますか?」
加奈「(少し慌てて)え? ええもちろん!」
〇マンション・外観(夜)
〇同・佐々倉家・リビング(夜)
疲れた様子で帰ってくる正希。テーブルを見ると、食べてそのまま食器
類が置いてある。正希、ムッとする。
〇同・希夢の部屋(夜)
希夢、ベッドに寝転がりながらスマホで女性のヌード画像を見ている。
するとズカズカと廊下を歩く音が聞こえてきて、慌てて画像を消す。そ
こへ勢いよくドアが開いて正希が入ってくる。
正希「希夢、朝食食べたら食器洗いなさいっていつも言ってるでしょ!」
希夢、返事をせずスマホを見続ける。
正希「母さん、明日も朝番組があるから。ちゃんとやっといてよ!」
正希、ドアを勢いよく閉め出ていく。
〇同・キッチン(夜)
食器を洗っている正希。そこへ着信音。スマホを取り出しスピーカーフ
ォンにして傍に置く。
正希「(面倒臭そうに)もしもし?」
浅井の声「あいつ球のスピード上がったぞ。打率も上がったって言ってた
し。将来、二刀流で活躍するかもな」
正希、食器を洗いながら
正希「な何よ? いきなり」
〇マンション・浅井の部屋・リビング(夜)
電話をしている浅井満(42)。
浅井「相変わらず野球には興味ねえか?」
正希の声「今日、希夢と会ったんでしょ?」
浅井「ああ、キャッチボールしながら聞いたんだよ。甲子園目指したいんだ
って」
〇マンション・佐々倉家・キッチン(夜)
食器を洗いながら電話している正希。
正希「(驚いて)え?」
浅井の声「え?って初耳のようだな?」
正希「だって、あの子何も話してくれないから……」
浅井の声「へえ、俺には何でも話してくれるけどな。ま、優秀な弁護士さん
と違って俺は暇だから子供と向き合う時間があるんだよね」
正希「何が言いたいのよ?」
〇マンション・浅井の部屋・リビング(夜)
電話をかけている浅井。
浅井「少しは母親の役割を果たせよ。テレビ出て小遣い稼ぎなんてしてる暇
あったらあの子と向き合った方がいいんじゃないのか?おっと今のはモラ
ハラじゃないよな?人格は否定してないし。とにかく相談したくなった
ら、いつでも父さんとこ来ていいぞとは言っておいた」
〇マンション・佐々倉家・キッチン(夜)
食器を洗いながら電話している正希。
正希「あの子の親権は私にあるのよ!」
浅井の声「分かってるさ、別にさらうつもりなんかないよ。でも希夢も15
だからな、あいつはどう思ってるかな?」
正希「用が済んだなら切るわよ」
正希、洗剤と水で濡れたままの手でスマホを勢いよく掴み、電話を切
る。
正希「ったく、一言も二言も多い奴!」
〇佐々倉法律事務所・事務室
デスクに座っている正希。アシスタントが郵便物を差し出す。
アシスタント「原瀬加奈の元夫・榎木政樹の代理人からです。向こうも弁護
士を立ててきたようです」
郵便物を受け取る正希。差出人名を見てギョッとなる。
『浅井法律事務所・代表・浅井満』とある。
正希「何でこいつなのよ……」
〇浅井法律事務所前・廊下
入口前にやってくる正希。ムッとした表情で勢いよくドアを開ける。
〇同・事務所内
勢いよくドアを開けた正希。大声で、
正希「ごめんください! 私原瀬加奈の代理人弁護士・佐々倉正希と申しま
す」
見ると浅井は男性と話している。
浅井「(男性に)ちょっと失礼」
浅井、立ち上がって正希の所へ来る。正希、浅井にガンを飛ばす。
浅井「只今先客がおりますので、こちらにおかけになって少々お待ち下さ
い」
冷静な浅井。苛々しながら座る正希。
〇同・応接室
向かい合って座る正希と浅井。
正希「私の依頼人・原瀬加奈は、元夫である榎木政樹のここ1年に渡る養育
費の未払いを訴えています。現在こちらでは強制執行が適用となる公正証
書を作成中です」
浅井「佐々倉弁護士、面会交流の件は確認していますか?」
正希「ええ、娘さんとは月2回会わせていると依頼人に確認は取っていま
す」
浅井「そうですか、実は榎木政樹はここ2年ほど会わせてもらえてないと訴
えています」
正希「え?」
〇同・応接室(回想)
榎木政樹(40)と対面している浅井。
榎木「10歳の誕生日を祝う約束をしてたんですが、突然娘がパパとは会い
たくないと言ったらしくそれ以来会わせてもらっていません。一度娘と話
させてくれと言ったんですが拒否されて。それでつい養育費を払うモチベ
ーションが下がってしまいました」
榎木の話をじっと聞いている浅井。
榎木「元々離婚の原因はあいつの浮気なんです。それなのに親権も奪われて
会わせてももらえず、養育費だけは払えって理不尽過ぎませんか?」
〇同・応接室
向かい合って座る正希と浅井。
浅井「実は依頼人は親権をこちら側に変更出来ないか?を希望しています」
正希「何ですって? だって娘さんは会いたくないと言ってるんでしょ?」
浅井「それについては直接、娘さんにお会いして意思を確認させて頂く必要
がありますね。中には会わせなくするために、父親の悪口を子供に吹き込
む母親もいますからね」
〇同・事務所前
ドアを開け出てくる正希。続いて浅井も出てきてニヤリとしながら、
浅井「では一つ宜しくお願い致します」
正希、ムッとしながら
正希「よ、よろしくお願いします」
正希、立ち去ろうすると、
浅井「あ、そう言えば希夢がこんな事言ってたな。母さんはいつもノックも
せずいきなり部屋に入ってくるって」
正希「(振り向いて)ええ?」
浅井「自分の主張ばかり押し通して、子供のプライバシーを侵害するのは母
親としてどうなんだろうなぁ。弁護士としても……」
正希「こんなとこで私たちの話しないでよ!」
浅井「分かった分かった。まあ希夢に宜しくな、父さんいつでも待ってるか
らって」
浅井、ドアを閉め事務所の中へ消える。
正希「ったく、一言も二言も多い奴!」
正希、憮然として立ち去る。
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