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『カースト』20枚シナリオ課題「再会」

※解説
 地元茨城のスーパーで店長を勤める下沼辰巳(32)。ある日彼の店に木嶋
明人(32)が就職面接にやってくる。
 実は2人は高校時代の同級生。そしてクラスのカースト上位にいた木嶋は下沼を間接的に苛めていた。2人の過去の関係を知った部下の矢田部と妻・美樹は下沼に代わり木嶋へ復讐を画策する。 

※登場人物
 下沼 辰巳(32)…スーパーの店長
 木嶋 明人(32)…下沼の同級生
 矢田部 健斗(28)…スーパーの採用担当
 下沼 美樹(30)…下沼の妻

〇スーパー「たいらや」・事務所
    下沼辰巳(32)、一枚の履歴書を見ている。履歴書には「木嶋明人」と
  記載され、本人の顔写真が貼られている。
  下沼、学歴欄の「宇都宮高等学校卒業」に目がいく。履歴書を持つ手が
  小刻みに震える。
 
〇同・応接室
  矢田部健斗(28)と木嶋明人(32)、面接をしている。矢田部、履歴書
  を見ながら、
矢田部「お笑いにもう未練はないんすね?」
木嶋「それは……」
  木嶋、返答に一瞬戸惑うが、
木嶋「ありません!自分としては精一杯やりましたので、もう悔いはない
 です!こちらで一生懸命働かせて頂いて人生の再出発をさせて下さい!」
矢田部「そうですか、よく分かりました。ちょっと店長呼びますね」
  矢田部、席を立つ。
 
〇同・応接室前廊下
  下沼、矢田部に連れられ歩いてくる。
 
〇同・応接室中
  ドアが開き矢田部に続いて下沼が入ってくる。
矢田部「店長の下沼です」
  木嶋、席から立って
木嶋「初めまして。木嶋明人です」
下沼「ど、どうも初めま……して……」
  矢田部、一瞬下沼の様子が気になる。
矢田部「木嶋さん、元お笑い芸人なんすよ。接客業にはピッタシっすね!」
下沼「そうみたいですね」
  矢田部、履歴書を見ながら、
矢田部「そうだ。店長って宇都宮高出身すよね?木嶋さんも宇都宮高。もし
 かして同級生?」
木嶋「え!本当ですか?」
  木嶋、下沼のじっと顔を見る。下沼、思わず目を逸らす。
木嶋「あ、ごめんなさい。覚えてないなあ。クラス一緒になったことありま
 す?」
矢田部「い、いや、ないですね。多分学年違いでしょう」
 
〇同・店内売り場
  下沼美樹(30)、棚に商品を陳列している。ふと見ると少し離れた場所
  に下沼、木嶋、矢田部がやってくる。
 
〇同・店内入口
  下沼、木嶋、矢田部、入口前で立ち止まる。
矢田部「じゃあ、結果は後日ご連絡します」
木嶋「よろしくお願い致します」
  木嶋、一礼して出て行く。下沼と矢田部、木嶋の後ろ姿を見ながら、
下沼「どう?彼」
矢田部「いいっすね、スーパーでのバイト経験もあるっていうし、元芸人だ
 けあって覇気もあるし」
下沼「人手も足りてないから、ちょうど良かったね」
  突然、美樹がやってきて、
美樹「ちょっと、あいつ雇う気じゃないでしょうね?」
矢田部「え?」
下沼「私情を挟んではいけないよ。矢田部君前向きに検討して」
矢田部「ハイ、分かりました」
  下沼、店の奥へ歩いて行く。
矢田部「彼と知り合いすか?」
美樹「実はね……」
  下沼、立ち止まって振り返り
下沼「美樹ちゃん、余計なことは言わなくていいよ」
  下沼、立ち去る。
 
〇同・事務所(夜)
  矢田部、下沼にスマホを見せている。
  画面にはピン芸人のネタ動画が再生されている。
下沼「ああ、何か観たことあるな」
矢田部「今めっちゃ売れてるみたいすね」
下沼「この芸人の元相方が木嶋さん?」
矢田部「そう。コンビん時はこっちがネタ書いてて、解散切り出したのも彼
 からだったらしいっすよ」
下沼「さすが採用担当。調べたね」
矢田部「つまり何でも相方任せにして、愛想尽かされて辞めざるを得なかっ
 たって感じじゃないすかね?」
下沼「あれ?評価してたと思ってた」
矢田部「いやしてますよ。ただまだ未練があるのかなってちょっと気になっ
 たんで」
下沼「でもまあ、ここで忙しく働いてる内に、お笑いなんて忘れるでしょ?
 せっかく来てくれたんだから、ウチで人生の再出発応援してあげてもいい
 んじゃない?」
矢田部「そうすね~ 分かりました。やっぱ店長優しいなあ~マジリスペク
 トするわ~」
下沼「(照れて)ええ?そうかあ?」
 
〇マンション・外観(夜)
 
〇同・下沼家の部屋・寝室(夜)
  下沼と美樹、並んで寝ている。下沼、突然苦しみ出し寝言で、
下沼「うう……や、やめて……」
  美樹、目が覚める。
美樹「辰! 辰!」
  下沼、目を覚まし上体を起こす。
美樹「大丈夫?あいつの夢?」
下沼「ああ、久々に見ちゃった。もう忘れたと思ってたんだけどな」
美樹「会ったからよ。やっぱ不採用にして」
下沼「だから私情を挟むわけいかないよ」
美樹「あなたのことが心配なの!」
下沼「俺なら大丈夫さ。もう昔の過ぎたことだよ」
  下沼、再び寝る。
 
〇スーパー「たいらや」・事務所裏
  矢田部と美樹、立ち話をしている。
矢田部「やっぱ同級生だったんすね?でも木嶋は全く覚えてない感じだった
 なあ」
美樹「苛めた側なんてそんなもんよ。直接手を出さないで、従うクラスメイ
 トに苛めさせてたの。スクールカーストってやつよ」
矢田部「マジすか?サイテーな野郎だな」
美樹「あの人が苛めを克服して、ここまで来るのにどんだけ大変だったか!
 私一生あいつ許さない。だから絶対雇わないで!」
矢田部「でもなあ、人も足りてないし。人生のリスタート、応援してやろう
 とも言われてるしなあ」
  矢田部、腕を組む。
美樹「何であんな奴応援しなきゃいけないのよ!ったく人が良いんだか
 ら!」
矢田部「スクールカースト……あ!ねえ、だったらこんなんどうすか?」
美樹「?」
 
〇同・店内売り場
  下沼、矢田部、木嶋、美樹らスタッフが集まり朝礼をしている。
矢田部「今日から皆さんと一緒に働く木嶋さんです」
木嶋「木嶋明人です。よろしくお願いします」
矢田部「木嶋さん、何と元お笑い芸人なんすよ!ということで一発芸おなし
 ゃす!」
木嶋「え!ええと……ツッコミだったんでそういうのないんです」
矢田部「んだよ~コマネチとかさ、人のでもいいからやってさ、職場盛り上
 げてよ~」
木嶋「す、すいません」
矢田部「まいいや、じゃ下沼さん、教育係として店内業務教えてやって下さ
 い」
美樹「(元気に)ハイ!畏まりました!」
  矢田部と美樹、顔を見合わせ互いに不敵な笑みを交わす。
矢田部「店長、いいっすよね? それで」
下沼「う、うん。では本日も元気でいきましょう!よろしくお願いしまー
 す!」
 
〇同・別の店内売り場
  美樹ら、スタッフが商品を陳列している。そこへ木嶋、沢山の商品を抱
  え運んでくる。
木嶋「あ!」
  バランスを崩し床に商品をバラ撒く。
美樹「ちょっと!気をつけなさいよ!」
木嶋「す、すみません……」
  木嶋、慌てて拾い集める。そこへ矢田部もやってきて、
矢田部「頼むよ~元芸人さん」
  下沼、遠くからその様子を見ている。木嶋、床にしゃがみ商品を拾い集
  める。
矢田部「元相方さん、大活躍してんだから才能なかったあんたはここで頑張
 んなきゃ」
  木嶋、矢田部の言葉に一瞬手が止まる。
矢田部「ほら!さっさと拾えよ!」
  矢田部、木嶋の尻を蹴り上げる。
木嶋「す、すいません!」
美樹「フフフ」
  下沼、離れた場所からその様子で真顔で見続けている。
  美樹、ふと下沼の目線に気づいたのか、遠くの下沼を見て笑みを返す。
  下沼、慌てて目を逸らしその場を去る。

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