矢追純一さんの恐怖から楽しさを作るテクニックを探る
前回はお化け屋敷を”展示型から劇場型”へのエンターテインメントへと変革させていった五味さんのテクニックをご紹介しましたが、その五味さんのテクニックをヒントとして、なぜ矢追純一さんは宇宙人と言う「恐怖」を「楽しい」に変えたのか？についてボソッとしていきたいと思います。
五味さんのお化け屋敷のように、矢追さんの番組も劇場型のストーリー重視の構成になっており、私たちの感情が増減することをうまく使いながら、不安から恐怖へ、謎を明らかにしたり、不安定な状態から一気に安定、楽しさせるという”緊張と緩和の落差”を番組内で体験させることによって、私たちは「怖かった！でも楽しかった！」という気持ちにさせてくれたのが、矢追さんの番組の特徴です。
五味さんは落語家の桂枝雀さんから「オチ」からヒントを得ながらお化け屋敷を進化させましたが、矢追さんはどこからこんなテクニックを学んだのか？学ばずにも感覚で作ったらこうなったのか？もしそうならば、やはり矢追さんは天才なのかな？そんな妄想ばかりしてしまいます。
矢追純一さんのUFO番組を分析
今回検証した番組は、もはや伝説の番組としてUFOファンからも”神話”と称されている土曜スーパースペシャル『矢追純一UFOスペシャル第1弾 緊急UFO現地取材特報 米政府が宇宙人と公式会見 ! 恐怖の秘密協定を結んでいた !?! 』（1989年初放送）です。
この番組を検証しながら、ということを、五味さんが編み出したテクニックである不安、恐怖、安堵を織り交ぜながら楽しさを作れるという”4つの感情”を用いながら探ってみます。
”4つの感情”
的中
意外
気づき
唐突
的中
番組の冒頭では「UFO目撃、宇宙人遭遇」から話が始まります。
アメリカ・フロリダ州のガルフブリーズという小さな街へ矢追さんは現地取材に行きます。
ここでは「あー、やっぱりな」的な展開から番組は始まります。
感情テクニックとしては”的中（合わせ）”ですね、「こうなるだろうな」と話の展開から考えられる予想の通りで終わる展開をします。
宇宙人を何度も目撃したというエド氏の証言は不安を助長させ、再現VTRでは恐怖すら感じさせます、さらに街の人の証言もエド氏と同じ内容ばかりでなく、証言する人たちは経営者、元海軍将校、司会議員、学者といった地位がある方々がオカルト度120%の話をするから、妙に信憑性高く、それがさらなる不安を増していきます。
このように目撃者の証言から不安が増していく、様々な証言者によって本当に宇宙人はいるんだ！という恐怖が続き、最後には証言者がついに宇宙人と遭遇した！という場面で恐怖絶頂とさせてくれます。その後は、やっぱり宇宙人は本当に地球に来ているんだという安堵感を味わせてくれます。
気づき
「でもなんでこの地域には数多くのUFO目撃情報が多いの？いったいなぜ？」という不安を抱えながら、番組は次に展開していきます。ここの感情テクニックとしては”気づき（謎解き）”ですね。
ただでさえ不安なのに、分からない謎が次々起こってくる、ダブルの不安が高められたところに・・・
矢追さんはMUFON※の会見場面を放送します。
※MUFON（Mutual UFO Network：相互UFOネットワーク）
アメリカに本部がある世界中のUFO目撃事件を調査・研究する世界的なUFO調査民間機関。
MUFONの会見によると、こう言っています・・・
「宇宙人はわざと遭遇させているのです」
「マジで？だからかぁ・・・なんでこんな頻繁に、たくさんの人が目撃してるのかと知ったときこそ、やっと謎がわかった瞬間でもあり、不安が増していた私たちは、この会見を聞くことで一気に安定状態となる、そのような2つの喜びが同時に味わえる場面でもあったのです。
意外
すかさずとんでもないことが判明します。
目撃や遭遇だけでなく、なんと誘拐もされてる？なに？3歳児も！？
感情テクニックとしては”意外（ドンデン）”ですね。どんでん返し。こう落ちるかなって思ったら、予想外の展開で終わること。
そして、子供が証言している場面が放送されます。「子供の頃、この子も誘拐されたのかな・・・なんて可哀そうなんだ」と私自身、そう思っていたことを思い出しました。
この「かわいそう」という気持ちによって不安度は低下していき、いったん安堵して気が緩むのですが、つぎの瞬間！
こんな証言が・・・宇宙人が生体実験してる！？
まさか、実験もされているなんて、そんな意外な恐怖で驚く。
これにより、より大きな落差を作られることになります。
唐突
そして、番組はいっきに不安と恐怖をあおっていきます！いろんなことがいっぺんに起こり、訳がわからなくなる展開となるのです。
つまりここの感情テクニックとしては”唐突（へん）”です。予想外のものが続いていって、最後まで予想外のもので終わるもの。
不安だらけできスキだらけになったその瞬間に・・・一気に恐怖に陥るという手法を番組中盤あたりで仕掛けてくる矢追さん、さすがです！
実は、矢追さんの番組の最大の魅力はこの”唐突（へん）”をうまく活用している点だと私は考えております。
矢追さんの”唐突（へん）”を具体的にご紹介しましょう。
”奇跡の5ミニッツ”と”魔の1ミニッツ”
ここでは矢追さんの得意技、”唐突（へん）”のテクニックが用いられた場面をご紹介します。
番組はいきなり急展開していきます。
これぞ矢追純一さんのエンターテイメント、私たちは一瞬で不安に陥りますし、最後まで予測不可能な状態のままとなりますが・・・そのテクニックを”奇跡の5ミニッツ”と”魔の1ミニッツ”と呼んでいます。このテクニックによってそ楽しさを倍増させてくれます！
”奇跡の5ミニッツ
驚くべき情報が入ってきた！
突然、こんなナレーションが入ります！
そのナレーション後の5分間の間に、私たちが予想もできなかったことが、次々に起こります。
しかも、この5分間に起こったことは、放送から35年経った今でも、未だに語り継がれる伝説的な陰謀論をぎゅぎゅぎゅッと詰めさせるという、奇跡を起こしてくれます。
この5分間に紹介した陰謀論とは・・・
ロズウェル事件の全貌が明らかに！
さらに、マジェスティック12の登場！
そして、人類は生きた宇宙人を捕獲しただけでなく宇宙人解剖もしている！？
とどめは、その年の流行語大賞（個人的）を受賞したあの名称、イーバという存在が明らかになった！
この驚くべき情報をたった5分間に詰めて私たちに紹介してくれた矢追さん、全く持って恐るべし！
当時、子供だった私は、この5分間の出来事によって、僕たちはもうだめだ、人間は全滅するんだ、という恐怖が襲いかかっていたことをよく覚えています。
私はこれを矢追マジック”奇跡の5ミニッツ”と呼んでいる。
”魔の1ミニッツ”
”奇跡の5ミニッツ”後は、ロズウェル事件の詳細を紹介してくれた矢追さん。
さすがに”奇跡の5ミニッツ”で不安から恐怖の絶頂期を迎えたこともあってか、ロズウェル事件の詳しい内容が流れているこの時間、なぜか”安堵”の感情に支配されていました。
ところがここでも矢追さんはやってくれます！突然、それはやってきます・・・
宇宙人と秘密協定を結んだ事実を明らかにする徹底的な証拠を入手した！
再び突然、こんなナレーションが入るのだ！
ビョンピョンピョンという効果音に心臓バクバク状態、さらにいきなりイーバのアップ映像がテレビ画面いっぱいにでてきたときは、もう終わった・・・そんな感情にすらなる。そして、幼い頃の私は1人でトイレに行けない体になったのです！
約1分間、ノンナレーション状態、効果音やカッコいい音楽が流れるだけの時間、映像には宇宙人、宇宙船、軍関係者と宇宙人の密会場面といった怪しい映像が次から次へ流れる、そんな音と映像だけが約1分間、なぜか突然流れ出したのです！
もう訳が分からなくなってしまった、この１分間のことを、人は矢追マジック”魔の1ミニッツ”と呼ぶのです。