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”当事者以外の言葉には力は無い”、だから私たちはどうするのか?という新たな問い

前回は妄想が多かったボソッとですが、今回は現実に立ったボソッとですが、本当に重いボソッととなっています。

これまで「ニュースの当事者が語る2項対立に陥らない思考”第3軸”」について語ったり、「犠牲者の記憶伝承~『追悼のゼロ・ポイント・フィールド』で第3軸を探る」について提案してきましたが、ここ最近、【新たな問い】を抱くことになりました、それは・・・


当事者以外の言葉には力が無い。だから私たちはどうするのか?


この【新たな問い】に気づかさせてくれた出来事があります。それは、国際ニュースのコーナーに出演した千葉大学特任教授の藤原帰一さんが語った言葉にあります、その言葉は・・・

藤原帰一さん(千葉大学特任教授)
「アメリカの同時多発テロ事件とアフガニスタン・イラク介入。イスラエル・パレスチナ紛争。憎悪が憎悪を招き、暴力の連鎖が生まれてしまう。さらに、死ぬことのない人が亡くなってしまう。だからといって、暴力に対して暴力で応じるべきではない。憎悪に対して憎悪で応じるべきではないということを考えますし、私もそのように書いてきました。

ただ、それを外から言うだけでは不十分。当事者の懊悩(おうのう)、苦しみを捉えたことにはなりません。「どうしようもない悲しみの共有を経た上でなければ、“憎悪によって憎悪に答えてはならない”という言葉には力がない」ということを思い知らされました。」

NHK番組『キャッチ!世界のトップニュース』「<映画で見つめる世界のいま>“暴力の連鎖断ち切る” テロ犠牲者遺族の葛藤」(23/11/30放送分より)


この藤原さんがこの言葉を語ってくれたニュース内容は後述しますが、“憎悪によって憎悪に答えてはならない”という言葉については、私もボソッとで取り上げて何度か書いてきました。

最近で言えば、11/16にボソッとした「【第3軸を探る旅】誘拐されたイスラエル人家族が語ったこと」にて、お父様を人質に囚われている娘のシャロン・リフシッツさんが語った言葉を、再度掲載します。

シャロン・リフシッツさん
「私にはどうすることもできません。今できるのはここで話をすることだけです。」

「父にはパレスチナ人などたくさんの友人がいて、その人生を平和活動にささげてきました。私も父の肩に乗せられて平和デモに参加しました。両親が言っていたのはパレスチナ人とこそ友好関係を築くべきだということです。」

「ガザの人が直面する恐怖が分かります。ガザへの攻撃で私の心が安らぐことはありません。私は憎しみの連鎖に加担することを明確に拒否します。

「悲劇を繰り返さないために、ガザの子供たちのために何ができるでしょうか。普通に会話ができ、人間らしく暮らし、家族を育める、そんな場所があるべきです。」

NHK番組『国際報道2023』「誘拐されたイスラエル人家族が語ったこと」(23/10/24放送分)

この中で語った「それでも、憎しみにとらわれたくない」と語るシャロン・リフシッツさんの言葉から、私は第3軸を考えるきっかけとなったと以前ボソッとしましたが、そう、リフシッツさんの言葉には力がありますが、私の言葉には力が無い、なぜならば、家族が人質として誘拐された悲しみを私は経験もしたこともないし、抱いたこともないから・・・




”第3軸を探す旅”は苦行である


つまり、当事者ではない私がnoteで「第3軸の思考が大事だ」とか、「憎しみにとらわれたくない」とか、そのような言葉を使ってボソッとしてきましたが、当事者が抱えている苦しみや悲観までを受け取るまではいかなくても、理解しようとする気持ちを持ちながら当事者たちの声を聞いていなかったことに気づくことになりました。

それは、ただ、当事者の声をもとに、2項対立に陥らない思考である”第3軸”とは何かを考えただけ。


だとすれば、今後は当事者以外に2項対立に陥らない思考”第3軸”を語ってはいけないのか?当事者以外の言葉には力が無いので、当事者以外は語ってはいけないのか?

自ら自分の心にそんな問いをしてみました。そのとき、私の心にはこのような思いが浮かびました、それは・・・


これからも言葉にしていくべきだ。
しかし、当事者が苦しんでいることを忘れずに、その思いとともに言葉にしていくべきだ。


この3週間、”第3軸を探す旅”をしていた私にとって、当事者の声だけに寄り添っていただけで、当事者の本当の気持ちである苦しみや悲観を受け止めていなかったことが分かったいま、「そうか、”第3軸を探す旅”とは、当事者とともに歩む苦行のようなものなのだ」と。

でも苦行だからと言ってあきらめてはいけない、それでも私たちは対立軸に惑わされずに、第3軸を探す旅を続けなければいけない、そのような新たな問いを見つけ出すきっかけとなりました。

これが”第3軸を探す旅”の本質なんだと。


テロで妻を失った男性が書いた“手紙”


それでは、ここからは藤原帰一さんがご紹介頂いたお話をご紹介いたします。

NHK番組『キャッチ!世界のトップニュース』の【映画で見つめる世界のいま】で、千葉大学特任教授の藤原帰一さんが注目の映画としてその背景にある“世界のいま”をお話頂くコーナーで、今回ご紹介頂いたのが映画『ぼくは君たちを憎まないことにした』です。

2015年11月13日、フランス・パリで起こった同時多発テロを描いたこの映画とは・・・

藤原帰一さん(千葉大学特任教授)
「自分の妻、夫、子どもや親がテロによって殺されたとすれば、自分はどうするのだろうか。その悲しみを自分は受け止めることができるだろうか。
相手に対する憎しみのために暴力に訴えたり、暴力による排除に賛成したりするだろうか。
それがこの映画の主人公、アントワーヌが直面した課題でした。」

NHK番組『キャッチ!世界のトップニュース』「<映画で見つめる世界のいま>“暴力の連鎖断ち切る” テロ犠牲者遺族の葛藤」(23/11/30放送分より)


テロで妻を失ったアントワーヌが書いた“手紙”が反響を呼ぶことに。そのテロリストに宛てて“手紙”の内容は・・・

金曜の夜 君たちは大切な人を奪った
僕の最愛の人
息子の母親を
でも君たちを憎まない

映画『ぼくは君たちを憎まないことにした』より

“憎しみに支配されることを拒む決意”をしたアントワーヌは、拭い去ることができない悲しみ、葛藤を募らせていきます。

アントワーヌが置かれた気持ちについて藤原さんはこのように語ってくれました。

藤原帰一さん(千葉大学特任教授)
「毅然(きぜん)とした“手紙”と、現実のアントワーヌとの間に距離が開いています。メッセージを書いた後も悲嘆に引き裂かれたままの状態が続くアントワーヌの姿を描くことによってこの映画は成功した、重くなったと思います。憎悪に対し憎悪では応えないという姿勢はすばらしいと思いますが、喪失のもたらす悲しみが、そのような言葉や姿勢を上回る力を持っているからです。」

NHK番組『キャッチ!世界のトップニュース』「<映画で見つめる世界のいま>“暴力の連鎖断ち切る” テロ犠牲者遺族の葛藤」(23/11/30放送分より)

この映画を観た中川キャスターも「ひどく苦しめられながら生きる姿は、見ていてつらかったです。」、さらに望月キャスターも「イスラエル・パレスチナ情勢やウクライナ情勢で、同じような思いを抱える人たちが増え続けているということに、思いを馳せずにいられませんでした。」と語っていらっしゃいまいた。

そして、今回のボソッとでご紹介した藤原さんの語った内容となります。

藤原帰一さん(千葉大学特任教授)
「私もそれを考えずにいられませんでした。同時多発テロ事件は過去の出来事だと思えない。というのは、理由もなく家族を殺されてしまうということが、いま、ウクライナでも、イスラエル・パレスチナでも続いているからです。そして、生き残った者が復讐を求めたら、暴力と憎しみが続いてしまう。

テロ犠牲者の家族を描いた作品は少なくありません。フランスでも、『アマンダと僕』といういい映画があります。そのなかでも、この映画が優れている点は、死の受け止めを言葉で表したからではなく、言葉をつくしても悲嘆の力が強い。そこからいろんなことにつながってきます。

アメリカの同時多発テロ事件とアフガニスタン・イラク介入。イスラエル・パレスチナ紛争。憎悪が憎悪を招き、暴力の連鎖が生まれてしまう。さらに、死ぬことのない人が亡くなってしまう。だからといって、暴力に対して暴力で応じるべきではない。憎悪に対して憎悪で応じるべきではないということを考えますし、私もそのように書いてきました。

ただ、それを外から言うだけでは不十分。当事者の懊悩(おうのう)、苦しみを捉えたことにはなりません。「どうしようもない悲しみの共有を経た上でなければ、“憎悪によって憎悪に答えてはならない”という言葉には力がない」ということを思い知らされました。」

NHK番組『キャッチ!世界のトップニュース』「<映画で見つめる世界のいま>“暴力の連鎖断ち切る” テロ犠牲者遺族の葛藤」(23/11/30放送分より)

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