手紙
どこでどうやって出会ったのかはもう覚えていないあなたへ。
そちらの暮らしはどうですか?
まだ吉祥寺の果ての、果ての、どん詰まりに住んでいますか?
家賃はちゃんと払えていますか?
ヘルニアの手術の痕は薄くなりましたか?
鹿児島にはたまに帰っていますか?
まだ髪の毛は伸ばしていますか?
音楽は続けていますか?
借金はしていませんか?
あれ以来井の頭動物公園は行きましたか?
モルモットを抱っこした感触は覚えていますか?
相変わらず手首にヘアゴムつけてますか?
失くした家の鍵は見つかりましたか?
ちゃんとご飯を食べていますか?
相変わらず痩せてますか?
彼女はできましたか?
結婚していますか?
ひとりでいますか?
生きてますか?
もしかして死にましたか?
家は物が多くて散らかっているのに、
水場だけは綺麗でしたね。
あれ、不思議でした。
お金にも時間にもだらしないのに、
セックスはやけに丁寧でしたね。
これも、不思議でした。
荒れた暮らしをしているのに、
家族仲が良さそうだったのも、
また不思議でした。
不思議な人でした。
もう法に触れることしちゃだめだよ。
結局なにやらかしたの?
意味わからないことで身を滅ぼさないで。
ちゃんと家の鍵はかけてね。
帰ってきたら知らない人がいたらどうするの?
気をつけて。
世間はとても物騒です。
誕生日にあなたがくれた本は、
1回だけ読んで本棚に突っ込んだままです。
面白くもつまらなくもありませんでした。
「結婚するか!」って言ってくれたのに
そもそもちゃんと付き合っていませんでしたね。
はっきりしないと、いつか刺されるよ。
それが嫌ならちゃんとして。
また会いたいとは思わないけど、
もしあなたと結婚していたらとも思わないけど、
かと言って不幸になれとも、
死ねとも思いません。
それぞれの日常を、
しあわせの正体がわからないまま、
続けていくしかないからです。
どこかで、元気で。
楽しかった思い出だけをとっておいて、
あとから取り出して眺めたり味わったりすることは全く卑怯ではないです。