善良さと傲慢さは似ている「傲慢と善良」辻村深月

1.本の紹介


本屋大賞つながりで、2018年度の大賞辻村深月さんの『かがみの孤城』読もうと思ったのですが、出たばかりということで最新作を手に取りました。出たばかりで本作はまだ賞などとっていませんが、作家生活15周年で22作目の長編小説です。直木賞・本屋大賞を受賞した売れっ子作家です。

2.140字のあらすじ

39歳の架と、35歳の真実。婚活を経て出会った二人が結婚するまでを描いた恋愛(??)小説。第1部は架視点のミステリー仕立てで、真実が結婚を控えて失踪した理由を探す話。第2部は真実視点で、親の期待にこたえ続けた結果、社会に適応できなくなった苦悩と、“主体性”を取り戻す過程を描いている。

3.ここがよかった

登場人物たちが、自分の傲慢さ、自分の世間知らずさに気付き、後悔し、そこから這い上がっていく姿に共感!描かれているテーマが現代的だからこそ、自分が持っている醜さにも気づくことができる。

この本で初めから終わりまでテーマになっているのは、タイトルの通り傲慢さと善良さ。「婚活」という設定を通じて、物事がうまくいかないのは、(無自覚な)傲慢さと(無自覚な)善良さ、そして「ビジョンがないこと」が原因だと繰り返し登場人物たちは語っている。その具体例があまりに見事で、たとえばこんな感じ。架に女友達が問いかけるシーン。

「あの子と結婚したい気持ち、今、何パーセント?」
「――70パーセントくらいかな」
「ひどいなぁ。(中略)今私、パーセントで聞いたけど、それはそのまま、架が真実ちゃんにつけた点数そのものだよ。」

架の無自覚な傲慢さをえぐりだすと同時に、人に点数をつけてしまうことの醜さを突き付けてくる。(きっと自分も気づかないうちに人に点数をつけていることでしょう。。。反省しかない。)
ただ、その醜さを作者は全否定することはしない。醜さを嫌って親の言いつけを守り「善良」に生きることもまた、世間知らずにつながる危うい態度だと突きはなす。結婚相談所の社長が語る一連のセリフは、決断を先延ばしにして生きることをバッサリと切り捨てる。

「自分自身が何かを欲しくて結婚を考えたというよりは、結婚する年回りだし、周りに言われて”そういうものだから”やってきたという雰囲気がありました。」
「最初からそこに本人の意思がないんです。(中略)婚活をしない、独身でいるということを選ぶ意志さえないんです。」
「善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて”自分がない”ということになってしまう。」

こんな感じで、架と真実、両方の未熟さを存分に描いておきながら、最後はハッピーエンドにまとめるところがすごい!周りに流されてきた真実が失踪を経てたくましくなっていく様子も、描かれる生活はささやかながら、人がすこしずつ変わっていくことが良く分かるし、最後に、借り物でない自分の言葉で語る真実と、それに応える架のセリフもとてもよかった。

4.こんな人におすすめ

婚活という言葉に引っかかりを感じる人
「婚活」という言葉に感じる違和感とか、結婚に関連するぼんやりとした不安をはっきりさせることが出来ると思う。はっきりさせることで、苦しいこともあるだろうから、薬でもあり毒でもあるけれど、自覚すること・ビジョンを持つことは大事。

いい人と言われる人
「いい人」って言葉は必ずしも良い意味でつかわれるわけじゃない。それがどういう意味なのか、を物語を通じて理解させてくれる。

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