メソポタミア文明とナツメヤシ

 僕が今、古いハードディスクから発掘して、少しずつノートにのせている書きかけの小説「七つのロータス」。もともとは「マハーバーラタ」に影響されて古代インド風のイメージだったんだけど、書き始める前に中公新書「シュメルー人類最古の文明」を読んだせいでメソポタミア文明の要素が強くなった。おかげで作中には牛を飼う人々と、羊を飼う人々が混在してしまった。今にして思えば、農耕民は牛、遊牧民は羊に統一すればよかったと後悔している。
 この本に影響されて、仕事帰りにわざわざ輸入食品のお店に寄って、乾燥ナツメヤシを買って齧ったのも良い思い出だ。ナツメヤシは古代メソポタミアの人々にとって重要な食品だったと書いてあったから、一度食べてみたくなったんだ。
 ナツメヤシの実はデーツと言う。ヤシの実と言って思い浮かべるココナツとは全く違って、2~3cmの小さな実でとても甘い。ドライフルーツのデーツは、サイズは違うけどレーズンのような見た目だった。食べてみると、干し柿のように少し歯にくっつく感じがした。

 乾燥地を灌漑して農業を行う際、どうしても避けられない障害に塩害がある。水が河となって流れてくる間、土壌の塩分が水の中に溶け込む。その水を農地に引き込んで蒸発するに任せると、農地に塩分が残る。長年それを続けていると、収穫に影響が出るほど塩分がたまってしまうんだ。
 何千年も灌漑農業を続けていたメソポタミアでも、塩害は大問題だった。そんなメソポタミアの人々にとって、塩害に強いナツメヤシは心強い存在だっただろうね。穀物が不作の時に備え、ナツメヤシは川沿い運河沿いに植えられていた。そのまま食べるだけでなく、蜜やナツメヤシ酒の原料としても使われ、乾燥させて保存食や携行食として活用された。僕の記憶に残るデーツの甘味からして、高いカロリーを摂ることができただろう。現代の感覚だと高カロリーというと体に悪いような気がしてしまうけど、高カロリーの食品が忌避されるのは現代だけ。歴史のほぼ全期間において、人類は飢えに、カロリー不足に苦しめられていたのだから、それもまたデーツの大きな長所となるね。

 ナツメヤシの利用は古代だけじゃない。現代に至るまでずっと、西アジアやエジプトでも重要な作物として栽培され続けてきた。今日でもとても良く食べられているそうだ。クレオパトラもハールーン・アッラシードもサラディンも食べたのだろうか。
 日本ではそのまま食べる形ではあまりお目にかかることがない食べ物だけど、実は原料としてなら多くの日本人が口にしているんだ。とんかつソースやお好み焼きソースなどに使われているんだからね。現にGoogleで「ナツメヤシ」と検索したら、オタフクソースのサイトでデーツについて解説したページが上位に出てきたよ。

 もしも興味があるのなら昔僕がしたようにデーツをかじって、遠く西アジアの歴史に思いを馳せるのもいいかもしれないね。

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びぶ
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