寝坊したらキ○タマが片方なくなった話3。手術当日、そしてその夜

 さて、手術当日の朝である。絶食対応のため、当然食事はない。

 前夜に下剤を飲んだはいいのだが、8時頃の起床時から10時頃まで、特に大便が出そうな感じがなかった。手術そのものは昼からなのだが、手術後はオムツに尿道カテーテルと、排泄に関しては身動きが取れない状態となる。
 さすがにそうなってからオムツ内に大便をして、看護師にケツを拭かれるのはごめんだし、何より手術中にだと最悪じゃねーか、と少し焦りを感じてきた10時半頃に、ようやく排便があり、ホッとした。そうして11時頃より、点滴を開始。水分摂取も禁止。ただただ点滴をしながら、手術開始を待つのみとなる。生殺しの時間帯だった。

 さて、手術時間の14時。ほどなく病棟の看護師に連れられ、手術室へ案内を受ける。

 ドラマの見すぎかもしれないが、どこかでストレッチャーにでも乗せられて、寝ながらボケーとしてりゃ終わるといいな、ぐらいに舐めていたのだが。ガラガラと点滴を吊るされたスタンドを自分で引きながら、自分の足で歩いて手術室へ到着である。やけに薄暗く、バイオハザード等の雰囲気を醸し出していた廊下と入口だった。
 手術室内は当たり前だが明るく、かなり寒かった。ろくに周囲をうかがう暇もなく、手術台の上に寝るよう指示を受ける。看護師と言えばいいのか、助手と言えばいいのかわからないのだが、その場にいたガウンに帽子、マスクに手袋とフル装備のスタッフに全裸に剥かれてまな板の上の鯉となる。

 手術は、高位精巣摘除術。ざっくり説明すると、鼠径部から血管などを縛り、そして精巣を片方丸ごと取り出す。

 麻酔は腰椎からとなる。やけに陽気な担当医から説明を受けながら、狭い台の上に横をむいて必死こいて丸くなり、やがて背中に注射を受ける。そうして仰向けに戻り、流れの説明を受け、麻酔が効いているかの確認を受ける。

担当医「とりあえず麻酔は効いてきましたー?痺れてる感じありますー?今この辺触ってますけど感触はー?」

俺「ああ、はい。痺れてる感じあります、胸から下は触られてる感じ、よくわかりません」

担当医「あー、いい感じですかねー。じゃ、手術中寝てもらいますねー」

俺「はあ」

 希望があれば手術中は寝てもらう、みたいな説明は受けていたし、手術中は寝かせてもらおうと思っていたのでこの流れは渡りに船ではあったのだが、これだったら最初から全身麻酔でよくね、というのが正直な感想ではあった。つーか希望聞かれてなかったので、まあまあ危なかったのかもしれない。ほどなく、点滴になにがしかの薬品を追加されたと思ったら、気がついたら手術は終わっていた。

担当医「あ、目え覚めましたー?いい感じにとれましたよ、見ますー?」

俺「いや、いいっす」

担当医「あ、そっすかー?人によっちゃスマホで画像撮りたいとか希望されたりするんすよー」

俺「まあ、そうなんでしょうね…」

 覚醒時、胸あたりから下の感覚はまるでなく、どういった状態なのかもさっぱりだった。キ○タマ片方なくなったのだが、全くそんな感覚もない。

 もう尿道カテーテルは入っている、縫合も終わり、オムツに変わっている。腫瘍は少し大きいかも、等々。矢継ぎ早に質問をして、上記回答を受ける。玉袋にドレーン(ストローみたいなもの)が刺さると事前に説明されていたが、その場でも説明を受ける。

 そうして病棟看護師へとストレッチャーごと引き渡され、病室へと連れ戻される。介護士的にはよくやる寝た状態で二人でのベッドへの移乗を受けた。自分で何度もしていたが、受けるのは初めてのため少し面白かった。

 さて、これで手術は終わりとなる。正直、勢いに流されあっという間だった。特に問題もなく、安心してベッド上に戻ってきた。しかし、当たり前だが手術の傷は残っており、チ○コにはカテーテルという異物が挿入されている。そして、麻酔は残っており、下半身に感覚はない。ベッド上で試しに足に力を入れたが、さっぱりであった。

 ベッド上、することもなく、まんじりとしている。そうしているうち、やがて麻酔は抜けていく。じわじわと下半身に戻る感覚。それが地獄の始まりだった。

 チ○コの先っぽにチャックなどでダメージを負った事はあるが、中にまで何かを入れることは、よほどの性癖がない限り、経験する事はないだろう。多分に漏れず、自分もそうであった。そして先述のとおり、今チ○コにはカテーテルという異物が挿入されている。男性には説明不要だろうが、チ○コは寝る、もしくは寒さ、暑さなど気温でも、そんなふとした事でサイズが変わる。端的に言うと、それで尿道にカテーテルが擦れるのである。軽く一眠りする、寝て暖まりサイズが膨らむ、擦れて痛む、そしてその痛みで縮んでいく、それでまた擦れて痛む。悶絶する。
 言語に絶する経験だった。その後は、それが怖くて眠る気が失せるのである。

 そして、ベッド上絶対安静から数時間。ベッドの頭部挙上(角度は18度程度)と、水分補給が許される。その頃には、同じ姿勢で寝ていた事による腰痛が自分を襲っていた。

 しかし、姿勢を変えると傷口、その周囲の脇腹、そしてカテーテルが痛むのである。下手に動いて傷口が開くのもやってない。もぞもぞとベッド上、毛虫のように動きながら、腰に優しい姿勢と、カテーテルが動かない動きを模索する。当たり前だが、全く眠れない。

 生まれて初めてナースコールを押した。痛み止めの希望をする。カロナール500mg1錠。コロナワクチンの痛み止めに貰ったことがある。その時は使わなかったが、飲んでみるとほんの少しマシにはなった。仕事柄、カロナールを入居者の痛み止めとして使用しているのをよく見るが、正直効果があるイメージは全くなかったので、ありがたい誤算であった。

 やがて、寝落ちする。腰の痛みで目が覚める。悶絶しながらもぞもぞする。そうしてるうち、少し寝落ちする。チ○コの痛みで目が覚める。落ち着け息子よ、と必死に言い聞かせ悶絶する。明けない夜はないのだが、この日の夜は本当に長かった。

 身内に送った入院スケジュールの画像をスマホで見る。医師の判断により、カテーテルは抜けると書いてある。つまりは往診時(午前10時過ぎ)、判断するのであろう。その時間を焦がれながら夜を過ごした。定時巡回、傷口やドレーンの様子を見にきた看護師に、手術傷口付近の痛みを圧し殺し、空元気を見せる。全ては管を抜かせるために。腹部は痛いし正直不安もあるが、意地でもトイレには自力で行けるアピールをする。全く信じてもらえなかっただろう。

 傷口の様子を確認したいなど、頭をよぎる事もなかった。というか、キ○タマ片方なくなったのに、それすら頭になかった。目の前の痛みと戦いながら、ひたすら夜明けを待つのみ。

 今までで、一番長い夜だった。

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