コンビニPBは個性を主張してはいけないのか。
未だまだ議論が絶えないローソンPBについてだが、私も先日、自身の考えをまとめ、またそれをきっかけとして、色々な人の意見を見聞きさせてもらった。
たかがコンビニ、されどコンビニ。ここまで議論を呼んだコンビニPB(のデザイン)は誕生から約10年となる過去を振り返っても、おそらく初めてではないだろうが。(余談だが、ローソンは2013年頃にも、商品名を毛筆で書いたような太字のデザインに
変更した後、即座に明朝体のような字体に変更したことがあり、今回のような「やらかしデザイン」自体は初めてではない。ただ、前回はまだSNSやスマートフォンが一般的でなく、デザイン自体も「ただただダサいだけで視認性等には特段問題がなかった」為、業界内では「馬鹿だなぁ」と評されただけで、今回のようにその波紋が広がることは無かった)
色々な考えに触れ、前回のトピックには欠けていた部分を今トピックで補いたい。
〇コンビニの公共性とは
―コンビニは公共施設ではなく私企業であるのだから、自社製品をどんなデザインにしてもいいのでは。
―ユニバーサルデザインはコンビニPBだけに求められるべきものなのか。そうなっていない商品も多数あるのではないか。
このような意見を目にした。基本的には賛同で、コンビニは一民間企業だからどんなデザインにしてもいい。ユニバーサルデザインにしたって、例えば「ボタニスト」というヘアケア・ボディケア製品のメーカーは全商品に「BOTANIST」とデカデカと書いてあって、殆ど日本語の説明がなく、それが何の商品か全くわからない。
完全にユニバーサルデザイン視点ではアウトの商品ということになるが、結構な頻度で売場で見かける割には、今まで特に問題が指摘されたこともないし、炎上したこともない。
従って、本来コンビニPBだってユニバーサルデザイン(流石に繰り返すのが面倒になったので以下UD)を無視したっていいはず。「だってNBだってそうなってるんだから」という文脈は一応成り立つ…はず。
〇デザイナー(と本部のお偉方)は売場を見たか。(コンビニの特殊性)
ところがどっこい、実際はローソンPBは大炎上してしまっているわけである。この差は何なのか。消費者が勝手に誤解をしてモンスタークレーマー化してしまっているだけなのか。
私は違うとみている。それは売場を見れば一目瞭然。そこにコンビニの特殊性がある。
そもそもコンビニはなぜここまで拡大できたのかというと、様々な要因はあるが、
食品小売業において、立地が最も成否を分ける要因であることを鑑みると、
あの狭小面積で営業できる業態を開発できたことが最も大きい成功要因と言える。
社会インフラと目されるようになったのはどこにでも出店しているからこそだが、
結局のところ、どこにでも出店できるサイズだからこそ、どこにでも店を出せるのである。
そんな狭小売場において、例えばローソンPBの「豆腐」は「TOFU」と書かれているわけだが、
パッと見てもなかなか理解できない(しかも見にくい)商品パッケージが所狭しと並べられていたら、
それが例え五体満足の健常者であったとしても驚く。PBは最も利益を稼げる商品であり、且つ他チェーンと差別化を図れるものでもあるから、どこのFC店にとっても最も売りたい商品群になっている。つまり、最も売場面積を取る商品群であるわけだ。結果、「TOFU」だけでなく「NATTO」「ABURA AGE」という「なんだかよくわからない商品」が幅を利かせる売場が、全国各地のローソンで発生していることになる。狭小店舗の限られたスペースに売り込みたい商品を並べたら、簡単にその商品が売場を占拠してしまう。これがスーパー等とは違う、コンビニ特有の事情だ。
こうなると、先ほど取り上げた「BOTANIST」とはわけが違ってくる。「BOTANIST」はあくまで、
数あるメーカーNBの中の僅か一ブランドに過ぎず、最悪、「BOTANIST」ブランドの商品が理解できなくても、周りにおいてある大手NBや(わかりやすいパッケージの)流通PBが、「BOTANIST」が一体どういった商品なのか、理解を助けることもできる
(横に「ビオレ」が置いてあれば「よくわからないけどボディソープかな」と思える)。
単純に理解を促すPOP類を設置することもできるし、お金さえあれば、販売員を置いて、体験会を実施することもできる。「BOTANIST」の主戦場は(実際に商品を置いてある売場を見た限りでは)
スーパーやドラッグストアなので、スペースの制約はコンビニ程厳しくない。つまり、商品単体で、商品の内容等をわからせる必要がないのである。
しかも、価格帯から考えても、世の中のボディソープを全て席巻してやる、というものではなく、
いわば「アンチ大手NB」の立ち位置で、大手が取りこぼしているニッチ市場を狙った商品であることは
火を見るよりも明らかだ。従って、実際の売場で、「BOTANIST」だけが大量に並べられる事態には
なりにくい。もし大陳売場で並べられる際でも、スペースに余裕があるわけだから、前述のようにPOP類で訴求をすればいい。そういった前提があるからこそ、「BOTANIST」は問題にならないし、炎上もしないのである。
翻ってローソンPBである。ローソンPBはニッチ市場を狙うブランドだろうか。全く違うだろう。
ローソンという店舗においては、間違いなくトップの存在感を示す「大手ブランド」である。
価格帯的にはどうか。押しなべてリーズナブルな価格設定であることを踏まえると、
一般(ボリューム)層に向けた商品群であることは疑いようもない。
「アンチ大手NB」だろうか。これはある意味では正しい。ただ、「BOTANIST」が「大手NBとの共存」を前提に
展開しているのに対し、ローソンPBは「大手NBをそのバイイング権を以て売場から排除」する
(もしくは既にそうしている)目的があり、「大手NBになり替わろうとしている」という意味では、
「アンチNB」というよりは、「NBキラー」といった方がしっくりくる。
つまり、ローソンPBは広く庶民向けに開発された商品群でありながら、わかりにくいパッケージで売場を埋め尽くした「大手ブランド」であり、それが旧デザインとの落差があまりにも大きく、また、流通のPBだったことから、運営母体のローソン共々やり玉にあげられている、と捉えるのが正しいのではないか。
〇結局、コンビニPBにとってUDはマストなのか。
UDと言っても、レベル感にはかなり幅があるようなので、「多くの人にとって理解が容易いデザイン」と読み替えることにするが、結論から言うとマストではないかと思う。
ただそれは、「コンビニには公共性が云々」という話ではなく、「そうしないと売上取れないでしょ」ということに尽きる。
コンビニは既に全国で55,000店舗、ローソンだけでも14,000店舗弱ある。
これ以外にもスーパーやドラッグストア、場合によっては飲食店とも競合しているとも言われる。
こんな混沌とした状況においては、自社PBを全客層の最大公約数的な設計にせざるを得ないのではないだろうか。
今回のデザイン変更について「ナチュラルローソンならイメージに合致している」という意見をよく見たが、
ナチュラルローソンはもうすでに100店舗そこそこの「弱小コンビニ」でしかない。
かつては近畿エリアでも店舗を見たが、今は首都圏エリアでしか展開しておらず、はっきり言って
「ニッチ市場」のコンビニである。その縮小の変遷から考えると、結局「かわいい」とか「おしゃれ」とか「こだわり」といった市場は、コンビニ業界においてはもう誤差の範囲でしか存在していないのではないだろうか。
そんなコンマ以下レベルでしか存在していない市場を、14,000店舗を構える巨大戦力が、PBのデザインを改めてまで狙いに行くことの意味が未だにわからない。
コンビニPBが差別化を図って個性を打ち出すのは一向に構わないが、結局のところ、
売れない商品(デザイン)に価値などない(前回のトピックと同じ結論で恐縮だが)。
そして実際、新デザインは売れていないはず。なので、今回のリニューアルは、歴史的意義はともかく、売上拡大施策としては大失敗と結論付ける他ない。
(まぁ多分ローソンはコロナ影響という理由を使って、失敗じゃないって言い張るだろうけどね)。