ChatGPTはビブリオバトル天下統一の夢を見るか?
ビブリオバトル大好きおじさんです。
ChatGPT、ここのところめちゃくちゃブームですよね。
ChatGPTというのは、OpenAI社が開発した自然な文章を生成するチャットサービスです。
簡単に言うと人工知能と文章でおしゃべりできるツールです。
2022年11月に公開され、2023年3月には最新版であるバージョン4.0(ChatGPT-4)がリリースされたことでさらに話題を集めています。
ChatGPTは現在研究およびフィードバック収集の段階にあるとのことで、無料で一般公開されているのでよかったら遊んでみてください。
思った以上に自然なやりとりができるので、「うわあー人工知能っぽい〜!」という気持ちになれます。
ただしChatGPTの回答は、「大規模な文書データからの学習から、ある言葉の次に出てきそうなそれらしい言葉を予測している」だけなので、必ずしも正確ではないです。
始め方・遊び方についてはたくさん記事が出ているので参考まで。
ところで、こうしたChatGPTの流行を受けてか、こんなニュースが話題になっています。
読書感想文のコンクールで、AIを悪用し作成された感想文の応募を懸念して「盗作や不適切な引用等があった場合、審査対象外になることがあります」という規定を追記するそうです。
たしかに、現在進行系で機能向上しまくっているChatGPTを見ていると、人が書いたものに匹敵、何なら上回るクオリティの読書感想文の作成もそう難しくはないでしょう。
記事中のコメントにもある通り、AI活用の制限はやむを得ない部分がありそうです。
では、5分間で本の魅力を紹介し、最も読みたくなったと感じた人の数を競う、ビブリオバトルではどうでしょう?
AIが秀逸な発表原稿を作成できるようになると、自分で原稿を作るビブリオバトルの出場者(バトラー)やアドリブで闘うバトラーは駆逐され、AIによる天下統一が成されてしまうのでしょうか?
ビブリオバトルでは大規模な大会も開かれていますが、バトラー間の公平を期すために、読書感想文コンクールと同じくAIの活用を抑制するべきでしょうか?
来るシンギュラリティに備え、考えてみましょう。
(※以下個人の見解です)
今ChatGPTでビブリオバトルの発表原稿は作れるのか?
ともあれ現状を知らないと始まらないということで、試しにChatGPTに発表原稿の作成をお願いしてみました。
題材は僕の大好きな『宇宙兄弟』(小山宙哉/講談社)です。
わ、わりと作ってくれたー!
ゆっくり読んでも2分間くらいで終わりそうだし、そもそも兄弟の名前がどちらも違う(正しくは兄は南波六太で弟は南波日々人)、というお茶目さは見せていますが、それ以外の内容はなかなか的を射ており、これは近い将来満足できるクオリティの原稿を作ってもらえる予感がします。
なのでここからは、「AIが5分間のビブリオバトル用発表原稿を一般的に見て高いクオリティで作成可能な状態」を想定して話を進めます。
ルール的にどうなの?
ビブリオバトルはゲームなので、ルールが存在します。
そもそもAIの活用やそれ以前の発表原稿の作成や読み上げはビブリオバトルのルール上規制されているのでしょうか?
ビブリオバトル普及委員会が定める公式ルールには、下記の文言があります。
「レジュメやプレゼン資料の配布など」は禁止していますが、発表原稿の作成や読み上げは禁じられていません(※大会等で禁止されている場合もあります)。
これは、「原稿の読み上げではチャンプ本を獲得できず、淘汰されていくだろう」という発想を元にしているためです。
とはいえ現状AIで発表原稿を作ってもビブリオバトルのルール上は問題ないことがわかりました。
素晴らしい発表原稿を用いれば、ビブリオバトルでチャンプ本を獲得できるのか?
さて、今のルール上問題ないことがわかったので、あとはAIに誰もが心打たれて読みたくなる至極の発表原稿を作ってもらうだけです。
相手があなたより優秀なAIを用いていない限り、あなたのチャンプ本獲得は揺るぎません。よかったよかった。
しかし、ここであなたは読書感想文とビブリオバトルの発表原稿との決定的な違いに気づきます。
読書感想文の場合、文章作成後応募したらあなたがすることは何もありませんが、ビブリオバトルの場合、目の前の参加者に向けてあなた自身で語りかけなければいけません。
期待の眼差し。
他のバトラーが発する幾分鋭い目線。
少し浅くなっているあなたの呼吸。
いや大丈夫大丈夫、なんと言ってもあなたの手には至高の発表原稿が握られています。
落ち着いて読み上げればいいだけ。
あれ?なんでこんなに反応が薄いんだ?
私が喋っているのは世界一優秀なAIが作った原稿なのに。
おかしい、こんなはずでは。
焦ってますます調子を崩すテンポ。
無情に時を告げる鐘の音――。
というのはもちろんただの妄想ですが、実際にテキスト情報だけで完結する読書感想文と、ビブリオバトルは大きく異なります。
ビブリオバトルでは、発表原稿を用意しているにしろいないにしろ、私たち自身の身体を使って聞き手を説得する必要があります。
そして、ビブリオバトルに参加したことがある方はよくわかると思うのですが、私たちはバトラーが発する言葉以外の要素――身振り手振り、声のボリューム、トーン、目線、姿勢、雰囲気などなど――からも、多くのメッセージを(勝手に)受け取ります。
「あ、この人は本当にその本のことをすすめたいんだな」「あれ、この人実はあんまりその本のこと好きじゃないんじゃないかな」と感じる、あれです。
そのため、いくら優秀なAIが至極の発表原稿を作成したとしても、それを私たち自身が自分の言葉として納得して語らない限り、聞き手の心を動かすことは難しいでしょう。
(「いや、私は自分が納得していない原稿でも聴衆の心を動かすことができる!」という方もいるかもしれませんが、それはもはやAIがすごいのではなくあなたがすごいんです)
そして一番大事なことは、ビブリオバトルでは「今、ここにいるあなた」が語るからこそ、心を動かされる人がいるということです。
あなたがなぜその本を好きになり、なぜ誰かにすすめたくなったかを語ることは、どれだけ優秀なAIだろうと、有名な書評家だろうと、その本の著者本人にだってできないことなんです。
あなたは「書評家」でも「読書家」でも、「読書好き」ですらないかもしれません。
でもそんなあなたが語るからこそ、心を動かされる人が必ずいます。
ぜひあなた自身が納得できる言葉を探して、ビブリオバトルで本を紹介してみてください。
結論:臆せず使おう
ChatGPTなどのAI技術が進むと、多くの人を感動させられる原稿を簡単に作ってもらえるようになるかもしれません。
でも、ビブリオバトルでは私たちの身体を通して聞き手を説得しなくてはならないので、原稿だけで票を獲得するのは難しい、というお話でした。
じゃあなるべくAIは使わない方がいいのか、というと、決してそんなことはないと思います。
どんな風に語りかけたらもっと読みたくさせられるのか?なぜ私はこの本に惹かれるのか?
AIを使うことで、そんな自分が気づかない視点や切り口、感情を言葉にするヒントが得られるかもしれません。
なので、自分がどんな風に大好きな本を紹介するかを考えるときは、むしろどんどんChatGPTなどの新しい技術を活用してみてほしいです。
そうした技術を使うことで、より多くの人の本を読みたい気持ちが高まるなら、すごく素敵だと思います。
でも忘れないでください。
AIは発表の素晴らしい先生やコーチにはなれるかもしれませんが、あなた自身には決してなれません。
AI(もしくは先生や友だちなどでも同じ)にヒントをもらいながら、あなた自身で納得できる言葉を見つけるのが、ビブリオバトルの魅力とも言えます。
新しい技術を取り入れながら、ぜひビブリオバトルや読書、人とのコミュニケーションを楽しんでいきましょう!
(2週間に1回は記事を上げるぞ、という投稿をしてから3ヶ月近く経ち、とんだ大嘘つきになってしまいました。近況の変化も色々あるのでそのうちそういうのもアップするぞ…!)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?