誰かがナビをしている
久しぶりに旅行に行ってきました。6年ぶりぐらい、いやもっとかな。初めての北海道です。札幌近郊を旅しました。
後で思い出せるように書き残しておきますが、世間はコロナ禍の真っただ中でした。GWの外出自粛が効いたのか一時期落ち着いた感染者数も再びじわじわと増え始め、GOTOキャンペーンでは東京都民が除外され…っていう少し前。
検査数も増やしていた時期だったので、そりゃ検出される陽性患者の数だって増えるだろうに、世間はなんだかピリついていました。そんな中旅行なんて……と言われるかもしれない状況だけど、自粛期間が明けたら旅行に行こうと決めていたので、思い切って出発しました。次はいつ行けるか分からないし。
現地での移動はレンタカーが便利だよと聞いていたので、安い会社を選び3日間レンタルしました。これどうぞって貸し出された車は2代目プリウスで、走行距離は驚きの16万キロ。やや状態に不安はありましたが、3日で6,000円ならあまり文句も言えません。かってに「プリ子」と命名。よろしく頼むぜ。
プリ子の重いステアリングやぼんやりしたブレーキに戸惑いつつ、ドライブスタート。快晴で気分は最高です。そしてまあ北海道の皆さん飛ばす飛ばす(苦笑)。車間距離を保ち、ふとメーターを見たら80kとかちょくちょくありました。一般道のはずなんだけどな。
初日は白老のウポポイに行ったり(良い場所でした)、道中の国道36号線(苫小牧→白老)の景観に感激したり、楽しく過ごしました。夜に食べたジンギスカンは美味しかった……。
次の日、飲みすぎでふにゃふにゃの頭でドライブを再スタートした時でした。発車したとたんに、
「ピー……ピー……ピー……」
と警告音が鳴り始めました。慌ててメーターパネルを見ても、それらしい警告表示はありません。とりあえず道端に止めて、サイドブレーキを確認しても問題なし。何がなんだか分からない。そのうち、
「ピーピーピーピーピーピー」
音の間隔がどんどん短くなっていきます。ピーピーピーって長渕剛か。ろくなもんじゃねえよ。なんなんだよ、プリ子、お前何が不満なんだよ。何とか言ってくれよ。
ふと助手席側のダッシュボードを見ると、「passenger」と描かれたサインが表示されていました。シートベルトしてないよ!っていう警告みたいです。でも助手席に人なんていないし……。いや、リュックがありました。そこそこ重いリュックです。これがどうも人と認識され、誤作動を起こしている様子。リュックの位置を動かしたら警告音は止まりました。プリ子……君、敏感すぎるんじゃないのか。てかト〇タ余計な機能盛り込んでんじゃねえっての。怖いよ。
そんなことをぼやきつつ、北海道開拓の村に行き、古い建物を満喫しました(とてもいい施設でした)。美味しい味噌ラーメンを食べ、もうちょっとドライブしたいな、と豊平峡を目指しました。
素晴らしい景観と、豊平峡温泉ののんびりとした雰囲気を楽しみ(素晴らしい泉質!)、札幌に戻って、教えてもらった八紘学園農産物直売所のソフトクリームを食べることに決定。やっぱり北海道に来てソフトクリーム食べないとかないよな……と走り始めた時に、違和感を覚えました。
なんだかナビがおかしい。なんだか二種類の声が聞こえるのです。
声A「まもなく右方向です」
声B「300m先、右方向です」
声A「次の案内地まで500mです」
声B「次の信号を右折してください」
最初は気のせいかと思いましたが、プリ子についているカーナビがルート再検索しまくるのを見て、やはりこれはなんだか変だぞと確信しました。
……誰かが別の指示をしている。それが車のスピーカーから聞こえてくるのです。なんだこれ。誰だお前。パニックになりました。
ここで少し説明すると、プリ子にはこの時点でナビが2つ装備されていました。純正のナビと、後付けで装備されたナビです。元からついていたナビの内容を更新していないので、後付けのナビでお茶を濁しているんですね。めちゃくちゃですが、レンタカーなんてそんなものかもしれません。俺は後付けのナビを使用していました。純正ではFMトランスミッターでスマホの音楽をラジオから流すのみ。ナビは使っていません。
そこでまず、この純正のナビが動作してしまっているのでは、と考えました。そんなつもりはないけれど、なんか操作を間違えたのかも。そこで純正から発生する音声をオフにしてみました。これでプリ子の声は聞こえなくなるはず。
声A「まもなく左方向です」
声B「そのまま100m進んでください」
……声が止まらない。誰なんだお前。予想外の事態に更にパニックになります。もしかしてこれはあれか、心霊現象的なあれか。このプリウスにひき殺された女性の霊か何かか。16万キロの間にどんなドラマがあったんだ。どうぞ恨むならその時のドライバーを恨んでください。ていうかナビしなくてもいいです、許して止めて黙って。
「ピーピーピー」
タイミング良く(悪く?)助手席のあれがまた鳴り始めました。うわーーー!って叫んでリュックを後部座席に放り投げます。怖くておしっこ漏れそう。誰かなんとかして。
どこかで車を止めなきゃ……と思っても、さっと駐車できるところもなく、何キロか謎の女性に導かれ走行する恐怖。俺をどこに連れていこうと言うのか。ハンドルを握る手が汗まみれに。
そこでふと、この謎の女性が現在向かっている場所へのナビを行っていることに気が付きました。方向は合っている。なんだこれ。別のナビを設定したなんてことは……。
そこでやっと気が付きました。「ああああーーーーーっ!!」とか車中で叫んじゃった。
出発前に大体の距離を知りたくて、スマホのGooglemapで目的地までの道のりを検索したんだった!それが動作しているのか!んでその音声がFMトランスミッターに乗っかって、車のスピーカーから聞こえてきてるのか!!だから、車のナビとGooglemapのナビが同時にナビしてくれているのか!
「そんなこと分かるかーーーー!!」
って叫んじゃった。いやもう全部俺がいけないんだけど、怒りを誰かにぶつけたい。
やっとコンビニがあったので停車してスマホを見たら、思った通りGooglemapがナビをしていました。一瞬窓の外にスマホを放り投げそうになりましたが、この子が悪いわけじゃないんだと震える手でスマホを撫でる俺。買ったばかりのiPhone11proは失われずに済みました。良かった。
テンションがぐっと下がってしまいました。とにかく今はソフトを食べよう。きっとおいしいんだろうな……
(おしまい)