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eat,sleep,speculate,repeat | weekly

「この先2つ目の信号を超えたところの横断歩道で。
そう伝えたはずなのだけれどもタクシーは一つ手前の信号で停まった。
起点というものは人によって異なるものだということを僕は忘れがちで、つい自分の視点からだけでものを見てしまう。心の広い人というのは自分の中に沢山の他者を住まわせている人だ。独りよがりにならず、常に複数の視点からモノを総合的に判断する。我が強くなければアートシーンではやっていかれないなどと言われるけれど、アートというものは自分が生きた結果として創造してしまうものであって、アートシーンでやっていくためにアートをやっているわけではない。青臭いと言われるかもしれないけれども、自分にはマーケティングのセンスもないし、ビジネスのセンスもない。たまたま何かを創るのが好きなだけでそれを求めてくれる人がいただけだった。この偶然がいつまで続くのかは分からないけれど、売れなくなったらからと言って売れるものを創るようになるわけでもないだろうし、その時はその時だ。」

彼女はいつものように窓の外を見やりながら、ぽつりぽつりと話し始める。いわく、創造性の発露としてのアート、というものと生産的な営みとしてのビジネスの間にどのような違いがあるのか、と。人間が不十分な予測や計画に基づいて生産する行動全てがアートなのではないか、というような話だ。例えば、今となっては不合理であり危険だという判断からは建設ができなくなってしまった湾岸エリアのタワーマンション群も、技術的に可能なことと、将来計画としてすべきこと、という間の判断が人間の集まりによって下された結果としてあのような廃墟群を生んだわけで、時間や投資対効果という面で、その判断の妥当性を擁護あるいは再現するのは困難である。つまり、偶発的なアートだろうというのが彼女の見解なわけだ。

彼女が最近特に興味を持っているのはテキストデータが豊富にある2000年代の初めの頃の人々の心理の変化だ。マーケティングというものが何かは今となってはよく分からないけれど、ビジネスというものにおいて重要とされていたものらしいことは分かる。繰り返し出てくるからだ。とはいえ、成功するにはマーケティングセンスが重要だ、という言説がある一方で執拗にマーケティングは悪だと説く人もいる。同じ人間ではないので主張の中に矛盾はないのだけれども、1つの時代に共存する対立した見解というものが結局の所どのように統合や優劣といった変化を遂げていったのかというのは興味深い。テクノロジーがまだ普及しきっていない状況においてはマーケティング、つまり人に物を買わせる動機づけを行うテクニックが重要だったのだということは分かる。それは今のように自分自身をモニタリングし必要なものを適量だけ生産するという事ができなかったからだろう。自分にとって必要なものが何か分からないというのは不安だっただろう。何によって成り立っているのか、ということに自信が持てないわけだから、足るを知る、という状態になるということもなかったのだろう。

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キノコです。

不謹慎とよく言われてしまうのですが、やはり金融危機というのはワクワクします。ボラティリティーが急上昇し、これまでと逆向きに資金が流れていくさまというのは、まさに捕食者から逃げようとする生き物のように必死で躍動的な様に感動します。きっかけは何であれ、人々の恐怖が可視化される瞬間というのには興奮をします。なんと言っても金融緩和続きでゆるゆるになったリスク感覚がまだ残っており、大丈夫でしょう、という楽観が支配していた市場に恐怖が伝染していく、それが数字に出てくるのがたまりません。これをエンターテイメントと言わずしてなんと言いましょうか。琴線に触れる、人間の心の有り様を描くという点でまさに芸術的だと思います。総身の毛が逆立つような恐怖をまさに感じ取ることができるわけです。

こうした暴落というのは数年に一度起こるのですが、その過程でこんな事が起こるのは確率的に1,600億分の1だとかなんだとか言われます。まあ確率がどのくらい低かろうが、起こったことは起こったことなので、こうした厳然たる事実が恐らく人間のゼロリスク信仰などに拍車をかけるのでしょう。いくらサーキットブレイカーがあっても冷静にはならず、何度も繰り返すこうした危機から何を学べばよいのでしょうか。

キノコがなぜこうした危機的な状況に嬉々としてしまうのかと言えば、それはひとえにチャーチルも言ったと言われるように、ピンチとはチャンスでもあるわけです。このまま崩壊するのか、世界はまたどこかを目指して進んでいくのか、という二択があるとしたらどちらに賭けるべきかは明らかだと思うのです。にも関わらず、それをしない、というのはゆっくりと死を待つだけなわけで、どうせ遅かれ早かれ何かが起きるのであればその方向にポジションを傾けるのが良いのではないかと思うわけです。それにこういう歪みの大きくなる瞬間にしかつかない価格というものがあり、それを逃すのは相場に関わるものとしてあってはならないでしょう?

というわけで、本日の話題は不労所得を得るには、という話の第三回目です。

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